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婚約破棄された没落令嬢は、娼館送りを避けるために死亡遊戯に参加します  作者: 七星鈴花


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第11話「謎解き」

 地下への階段を下りる。

 冊子に書いてあった通り、踊り場には罠がある。私たちは、慎重に壁際を歩いて通り過ぎた。


「この先よ」


 ユーリアが前を歩く。彼女も冊子の内容を覚えているのだろう。

 地下の廊下は暗かった。等間隔に置かれた燭台の炎が、かろうじて足元を照らしている。冷たい空気が肌を刺す。


「ここね」


 ユーリアが立ち止まった。

 目の前に、重厚な扉があった。扉の中央には、文字が刻まれた石板が嵌め込まれている。


『問いに答えよ。正解すれば道は開かれる。誤れば死が訪れる』


 マリアンネが息を呑んだ。


「間違えると死ぬの?」

「そう書いてあるわね」


 私は、冊子の内容を思い出した。謎解きの答えは知っている。最初の扉は「月」、2番目の扉は「7」、最後の扉は「生きる意志」。

 けれど、念のため問題を確認しておきたかった。

 石板に目を落とす。


『夜空に浮かび、満ちては欠ける。それは何か』


「月ね」


 ユーリアが即答した。


「冊子にも書いてあったわ」


 私は、頷いた。問題文を読んでも、答えは間違いなく「月」だ。


 ユーリアが石板の下にある小さな窪みに指を当てた。


「月」


 声に反応して、扉がゆっくりと開いた。


「次へ行きましょう」


 3人で扉をくぐる。


 短い廊下を進むと、また扉があった。同じように石板が嵌め込まれている。


『問いに答えよ。正解すれば道は開かれる。誤れば死が訪れる』


 石板÷の文字を読む。


『座標平面上に3点がある。A(2, 1)、B(4, 5)、C(6, 2)。この3点を頂点とする三角形の面積を求めよ』


「数学の問題?」


 マリアンネが眉をひそめた。


「こんなの、解けるの?」

「解けるわ」


 私は、答えた。冊子には「7」と書いてあった。けれど、念のため自分で計算してみたかった。


「三角形の面積を座標から求める公式があるの」


 私は頭の中で計算を始めた。3点の座標から面積を求める。公式は覚えている。


 S = |x₁(y₂ - y₃) + x₂(y₃ - y₁) + x₃(y₁ - y₂)| ÷ 2


 A(2, 1)、B(4, 5)、C(6, 2)を代入する。


 x₁ = 2、y₁ = 1 x₂ = 4、y₂ = 5 x₃ = 6、y₃ = 2


 まず、y₂ - y₃ = 5 - 2 = 3、x₁(y₂ - y₃) = 2 × 3 = 6


 次に、y₃ - y₁ = 2 - 1 = 1、x₂(y₃ - y₁) = 4 × 1 = 4


 最後に、y₁ - y₂ = 1 - 5 = -4、x₃(y₁ - y₂) = 6 × (-4) = -24


 合計は、6 + 4 + (-24) = -14


 絶対値を取って、|-14| = 14


 S = 14 ÷ 2 = 7


「7よ」


 私は答えた。


「本当に?」


 マリアンネが不安そうに尋ねた。


「間違いないわ。計算し直しても同じ答えになる」

「すごいわね」


 ユーリアが感心したように言った。


「私には全くわからなかったわ」

「大学入試の勉強が役に立ったの」


 私は、苦笑した。

 数ヶ月後、私は大学の入学試験を受ける予定だった。大学に進学する者はとても少ない。けれど、私は学問が好きだった。没落した家の娘でも、知識だけは奪われない。そう思って勉強を続けてきた。

 まさか、こんな場所でその知識が役立つとは思わなかったけれど。

 ユーリアが石板に向かって答えを告げた。


「7」


 扉が開いた。


「あと1つね」


 3人で次の廊下を進む。

 最後の扉が見えてきた。同じように石板が嵌め込まれている。


『問いに答えよ。正解すれば道は開かれる。誤れば死が訪れる』


 石板の文字を読む。


『絶望の淵に立ち、すべてを失っても、なお前に進む力。それは何か』


「生きる意志」


 私は、答えた。

 冊子に書いてあった通りだ。3問とも、冊子の答えと一致していた。

 ユーリアが石板に向かって告げる。


「生きる意志」


 扉が開いた。

 その先に、広い空間が広がっていた。天井は高く、壁には松明が灯っている。そして正面に、光を放つ門があった。

 脱出口だ。けれど、その門の前に人影があった。


「ベルタさん」


 ユーリアが呟いた。

 薄い茶色の髪。紫色の瞳。ベルタが、脱出口の前に立っていた。

 彼女の手には、何かが握られている。小さな鍵のようなものがいくつか。宝箱から回収したものだろうか。

 ベルタは私たちを見て、微笑んだ。


「あら、早かったわね」


 その声は、もうベルタのものではなかった。聞き慣れた声。幼い頃から何度も聞いてきた声。


「クララ」


 私は、彼女のメイドとしての名前を呼んだ。

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