退魔師協会
柳と幹斗はガシャドクロの事を聞き、退魔師協会を訪れた。
退魔師協会は新市街地にある。
退魔師協会は退魔師相互の互助・斡旋のための組織である。
協会は退魔師たちに仕事を紹介するほか、退魔師に仕事を要請することもある。
協会の理念は横の関係である。
元老院が縦の関係を重視するのに対して、退魔師協会は水平方向の人間関係を重視する。
これは創始者の性格の反映としか言いようがない。
協会と退魔師は同格でどちらかが上、とか下とかは関係がない。
協会が重視する価値は『連帯』である。
柳と幹斗は協会から最近起こっている問題について呼ばれたのだった。
退魔師協会・澄空市支部は白いオフィスだった。
il Ufficio biancoとも呼ばれることがある。
二人は協会の扉を開けた。
「こんにちは」
柳があいさつする。
「こんにちは。あら?」
柳たちは受付の女性に迎え入れられた。
「ひさしぶりですね、フォルネさん」
幹斗が答える。
「柳さんに幹斗さん、お久しぶりですね。先日はローズブラッドの一件を解決してくださってありがとうございます」
フォルネさんはこの協会の受付で、金髪の長い髪になぜかメイド服を着ている。
これはフォルネさんの趣味らしい。
「お待ちしておりました。奥の部屋にお入りください。大岩支部長が事件についてお話になります」
「わかりました」
二人は奥の部屋に入った。
フォルネさんがコーヒーを入れてくれる。
「あいかわらず、きれいですね、フォルネさん」
幹斗がフォルネをほめる。
「ほめても何も出ませんよ?」
「いやいや、これもコミュニケーションですから」
柳は軽くため息を出した。
「おう! よく来てくれたな! がははははは!」
そこに筋肉ムキムキの男が現れた。
この人は大岩支部長で、元退魔師である。
「久しぶりだな、支部長?」
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな! まあ、何だ、おまえたちを指名したのはあまりいいことじゃない」
「まあ、そうだろうな。俺たちが呼ばれるのはたいていトラブルがあった時だ」
「まあ、そういうことだ。じゃあ、さっそく事件について話をしよう」
大岩支部長が豪快にソファーに座った。
「で、いったい何の妖魔なんだ?」
「最近、澄空市で暴れている妖魔がいる。そいつの名前はわからない。そこで協会では通称『ドクロ』と呼んでいる」
「その妖魔がどうかしたんですか?」
「今、チーム『イナズマ』に調査と討伐を任せているんだが、荷が重くてな。この妖魔は退魔師を狙って、殺害行為を行っている」
「退魔師を狙って?」
柳がそこに関心を持った。
普通妖魔は退魔師を狙わない。
それはわざわざハンターを狙うものがいないのと同じだ。
「ああ、そうだ。こちらから派遣した退魔師チームはことごとく殺害されている。この妖魔はどうやら誰かに操られているらしい。どこのどいつが操っているかはわかっていない」
「厄介だな」
「おうよ。これ以上ウチとしても犠牲は出したくない。そこで、おまえたちを呼んだわけだ」
「つまり、そのドクロとかいう妖魔を倒せということか?」
「話が早いな。まあ、そういうことだ。できれば背後関係を当たってほしい。黒幕が誰なのか、それを俺たちも知りたいんだ」
「いいだろう。今夜から警戒を始める」
「俺たちが事件を解決してみせますよ」
「頼むな。もう、おまえたちしか頼りにできる者はいないんだ」
柳たちが呼ばれたということは、それだけ人材を欠いているということだろう。
つまり、それだけ犠牲が大きいことを意味する。
退魔師を狙った犯行――敵の狙いはわからないが、何か意図があるに違いない。
夜――。
「やっと現れやがったな! 今度こそ、こいつをぶっ倒してやるぜ!」
ハサンが意気込む。
チーム『イナズマ』はクリストファー、アシュトン、ハサン、ヒナノの四人のチームだ。
このチームはランクが高く、高度な任務を受け持っていた。
そんな彼らもとに、ガシャドクロが再び姿を現した。
「今度は三人で攻撃をかけるぞ!」
「わかっている!」
「当然だ!」
クリストファー、アシュトン、ハサンの三人が息巻く。
「ホーリーセイバー!」
「クロスブレイク!」
「ヒートナックル!」
三人はそれぞれ技を出した。
ところがガシャドクロは妖気を高めてそれらを無力化する。
「こいつ!? まだ力が上がるのか!?」
ガシャドクロは口に灰色の炎をともした。
ガシャドクロが口を開ける。
灰色の息――灰炎の息だ。
そこにドーム状のバリアが張られた。
ヒナノがバリアを張ったのだ。
ヒナノの力は後方支援、主に回復にある。
バリアが灰炎の息を防ぐ。
「くっ!? なんて力だ!」
ガシャドクロは忌々しそうにバリアに爪を叩きつける。
バリアにひびが入った。
「まずい! 後退だ!」
クリストファーが指示を出す。
アシュトンもハサンも後退した。
ガシャドクロは灰色の炎を両手にともした。
この攻撃は……。
回避は不可能、防御も不可能とクリストファーは全滅を意識した。
灰色の炎が放たれる。
「氷月斬!」
そこに一人の退魔師が現れた。
彼は灰色の炎をかき消した。
す、すごい! 彼はいったい誰だ?
これほどの力を持つ退魔師とは?
ガシャドクロはこの新たに現れた人物に関心を向けたようだ。
かの退魔師はちらりとクリストファーたちを見たが、すぐにガシャドクロに視線を戻す。
彼は冷気を刀に収束させた。
彼は氷の力を使うらしい。
「一撃で、終わらせる! 氷烈波!」
すさまじい冷気の一撃がガシャドクロを覆った。
ガシャドクロは凍り付き、粉々に砕け散った。
クリストファーは目の前の光景を疑った。
これは……こんなことができるなんて……。
「君はいったい?」
「俺は天草 柳。白薙会の退魔師だ」
「白薙会? 白薙 奈雲氏の?」
「おいおい、柳、俺の分も取っておいてくれよ!」
連れの人物は友人か同僚か?
「早い者勝ちだ」
「やれやれ、あっさり終わらせたな……ん?」
その時、バラバラになったガシャドクロの破片が振動を起こした。
まさか……ここまでやられて復活するのか!?
破片は一つに集まり、再び形を取って行く。
ガシャドクロは何もなかったように元に戻った。
ガシャドクロが牙をむける。
「こいつの弱点は光だ! それ以外では倒せない!」
クリストファーは柳に叫んでいた。
いくら彼が強くとも、氷ではこの妖魔は倒せない。
「……いいだろう。銀光!」
柳の刀に銀色の光が輝いた。
彼は光の力も使えるのか!?
ガシャドクロは警戒感を引き上げた。
その時、一人の男がそこに現れた。
彼は禿頭で、緑のプレートスーツを着ていた。
大柄な男だった。
彼は刀でガシャドクロに斬りかかっていった。
それだけで、彼はガシャドクロを圧倒した。
「す、すごい!」
クリストファーは声に出していた。
ガシャドクロは形勢不利と思ったのか、一目散に逃げて行った。
「逃げた、か……」
柳は刀をさやにしまう。
「あなたは?」
「私は金剛寺 羅道。フリーランスの退魔師だ」
「俺は天草 柳」
「俺は添島 幹斗です」
「危ないところだったな。あの妖魔は退魔師狩りだ」
「退魔師狩り?」
柳が目を細めた。
「そうだ。あの妖魔は我々退魔師を狙っている。我々はできる限り共闘体制を整えたほうがいい」
羅道は刀を戻した。
「今夜はひとます、解散と行こう。後日退魔師協会で再会しようではないかね? 情報の共有をしたい」
「……いいだろう。幹斗、いいな?」
「ああ、いいぜ」
「そちらのチームもいいかね?」
「あ、ああ。協力に感謝する!」
こうしてガシャドクロは再び退けられたのだった。




