ローズブラッド
「てんめえら! てんめえら! てんめえらあ!」
ロースブラッドが息を荒げる。
「よくも! よくも! よくも! よくも、この俺様のかわいいビオグランデをやってくれたな! 許さねえ!」
「おい! 吠えてないで出てこい! いい加減に出てきたらどうなんだ?」
「いいぜ! 俺様の美しい姿を見せてやる!」
自分で美しいとか言うなと柳は思った。
すると、空間が歪んだ。
中から緑の人間が現れる。
全身は緑色で、頭にはバラの花を乗せ、両手にツタをはやしている。
「ケケケ! 俺様がローズブラッドだ! バラの妖魔よ!」
柳が刀をローズブラッドに向ける。
「天草 柳だ」
「ケッ、てめえの名前なんてすぐに忘れるぜ! 俺の眠り姫は絶対に渡さねえぞ!」
「眠り姫? 彩月 姫乃嬢か?」
「きやすく名前を呼ぶんじゃねえ! おまえは俺がぶっ殺してやる!」
「俺を殺すか? いいだろう、やってみろ」
「なめんじゃねえ!」
ロースブラッドが柳にツタで打ちかかってきた。
柳は刀ではじく。
ローズブラッドはツタを鞭のようにしならせて、柳に打ち付ける。
ローズブラッドの間合いは広い。
柳はローズブラッドの攻撃をしのぐだけで精いっぱいだ。
ローズブラッドの猛攻が柳に襲いかかる。
「クハハハハハハハハ! どうした? その程度かよ? 俺のスピードについてこれないようだなあ!」
ローズブラッドがツタを正面に向ける。
するとツタは直線状に伸びてきた。
柳はそれを紙一重でかわす。
ローズブラッドはツタを伸ばして柳を貫こうとする。
だが、ローズブラッドの攻撃は柳に当たらない。
ロースブラッドは焦ってきた。
「くっ!? こいつ! これでもくらいやがれ! スパイクボール!」
ローズブラッドはとげとげがはえたボールを投げつけた。
ローズブラッドが焦って強引な攻撃をしてくる。
一方柳は冷静だ。
静かに柳の反撃が行われつつあった。
柳はスパイクボールを刀で斬る。
「なっ!? ウソだろ!? この俺様のスパイクボールだぞ!?」
ローズブラッドは驚愕する。
ローズブラッドは妖気を解放した。
柳も全身から霊気を放つ。
霊気の斬撃と妖気のツタがぶつかり合う。
ローズブラッドは妖気でツタを強化していた。
さすがの柳でもこれは切断できない。
霊気が様々なことを可能にする一方で、妖気もまたさまざまな効果がある。
ローズブラッドはツタを剣に変える。
「おらああああああああ!」
ローズブラッドが二刀流で攻撃を仕掛けてくる。
柳が攻めた。
ローズブラッドを通り過ぎる。
「フハハハハハハ! てめえの攻撃なんて俺様には通じなっ……がはあっ!?」
ローズブラッドが十字に斬られた。
胸から血を流す。
「て、てんめえ! よくもやりやがったな! 許さねえ! 許さねえぞ!」
ローズブラッドの傷が再生する。
やはり、氷でない攻撃はあまり効かないらしい。
「眠りのバラ!」
ローズブラッドが赤いバラの花びらを降り注がせた。
「これは……」
これは精神に影響を与える攻撃だった。
柳は急速な眠気を感じた。
「クハハハハハハ! そのまま眠っちまえ! そしてそれからくびり殺してやるよ!」
柳は霊気をさらに放出する。
柳がしようとしているのは霊気による精神攻撃の無力化だ。
気息を一層活性化させる。
気息は霊気の源だ。
霊気を扱えるようになるためには気息を扱う訓練をするということだ。
それに精神に影響を与える攻撃は闇に属する。
闇の力は精神に異常をもたらすことができる。
もっとも、柳のような気息を修行した人間には通じないのだが。
「無駄だ。そんな攻撃は俺には通じない」
「へっ! 強がりを言うんじゃねえ!」
「それが強がりかどうか、おまえが味わえ!」
柳は氷の剣でローズブラッドを斬りつける。
「ぐうっ!?」
氷の剣はローズブラッドのツタを破壊した。
ローズブラッドが目を見開く。
「なっ!? 俺様のツタが!?」
「どうした? その程度か?」
「くそがあ! なめんじゃねえ! 妖分身!」
「!?」
ローズブラッドは二体に分身した。
これで二対一……柳が不利になった。
「ケケケ! この技だけは使いたくなかったんだがなあ! ここまでやられたんじゃそうもいかねえ! さあ! 血で躍れ!」
ローズブラッドが二体になっても柳は冷静さを失わない。
柳は一気に間合いを詰めると、ローズブラッドき斬りつけた。
「ぐぎゃあああああ!?」
一体のローズブラッドが消える。
「てんめえ! よくも!」
ローズブラッドがツタを叩きつける。
柳はそれを切断すると、もう一体のロースブラッドに斬りかかった。
氷の刃がロースブラッドの首を斬る。
ロースブラッドの首が宙を舞った。
「バ、バカな……」
ロースブラッドは緑の粒子と化した。
「さすがだな、柳!」
「兄さん、すごいですね!」
二人が柳を称賛してくる。
「別にこの程度、たいしたことじゃない。それより、姫乃嬢だ。ん? 空間が……」
ローズブラッドが倒されたことで空間が元に戻った。
バラのツタは消えて、空間が正常化する。
「元に戻った、か」
路上に一人の女性が倒れていた。
茶色の髪のウェーブヘアーの女性だ。
「兄さん、あれが姫乃さんでは?」
「そうだな。車に運ぼう」
「お父様!」
「おお、姫乃!」
信仁氏と姫乃嬢は互いに抱きしめ合った。
二人には愛情があるのだろう。
柳はそれをほほえましく見守る。
無事に事件が解決してよかった。
柳は心からそう思う。
その気持ちは幹斗も詩穂も同じだろう。
「退魔師の皆様、よく娘を助けてくれました! 重ね重ね、お礼を申し上げます!」
信仁氏が頭を下げる。
「娘さんと再会できてよかったですね。これも私たちの仕事ですから」
柳が珍しく丁重な言葉使いをする。
「皆様はこれから予定はありますか?」
「いいえ、私どもは白薙会オフィスに戻るつもりです。何か?」
「いえ、臨時のパーティーなどどうかと思いまして」
「私たちにも帰るところがありますので」
「そうですか。今回は本当に心が凍る思いでした。娘が帰ってきて本当にうれしいです。今回はありがとうございました。報酬の方は追って連絡いたします」
「そうしてください。それでは」
柳たちは車で去っていった。