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アヤナウチテ  ~妖討手~  作者: 野原 ヒロユキ
~金剛寺 羅道編~
6/21

ビオグランデ

柳、幹斗、詩穂の三人は異界に侵入した。

すると、周囲を覆っていたツタが蛇のように動き出した。

「おいおいおい、これけっこう危険なんじゃないの?」

軽く愚痴を叩く幹斗の顔は不敵だった。

幹斗は弱くない。

柳と比べれば確かに、弱体だが、彼も霊学院の卒業生である。

そして妖魔との実戦も経験していた。

幹斗は愛用のバスタードソードを構える。

それに対して柳は霊刀を出す。

詩穂も静かに霊弓れいきゅう梅景うめかげを出現させる。

「来るぞ、各人自分の前のツタは払え!」

「私もここを抑えます!」

「いいねえ! 乗ってきたぜ!」

トゲをはやしたツタが幹斗に襲いかかった。

ツタはしなやかに揺れて幹斗に迫る。

「おりゃあああああ!」

幹斗は剣を振るってツタを切断する。

うねるツタは幹斗によってバターのように斬られていった。

柳もしなるツタを次々と刀で斬っていく。

詩穂はツタを正確に射抜いていた。

詩穂が使うのは霊弓だ。

これは霊力を矢に変換する力がある。

そのため、霊力がある限り、無制限に矢を撃てる。

三人は奮闘したが、この時貫之条から言われた言葉を思い出した。

切断されたツタは地面でくねくねと動いていたが、やがて再生して元通りになった。

「……貫之条が言っていたのはこのことか。確かに植物型妖魔は再生力があるようだ」

柳は険しい目を向けた。

これほどまでに再生できるとは思わなかった。

霊気は無限ではない。

三人とも霊気を扱うことができるが、無限ではない。

このまま戦い続ければこちらがやられる。

ロースブラッドは愉快に笑っているだろう。

「おい、柳! どうする?」

「待て。植物型妖魔は氷に弱いと聞いた。なら俺の技ならこいつらを撃退できる」

「ここは兄さんの技にかけましょう!」

詩穂が賛成してくれる。

幹斗もうなずいた。

幹斗の風では相性があまり良くない。

「ああ、詩穂が言う通りだ。ここは俺に任せてくれ!」

柳が刀に冷気をまとわせる。

身の危険を覚えたのか、ツタたちが一斉に柳らに襲いかかる。

こいつらはもしかしたら意思を持っているのかもしれない、原始的だが。

身の危険は最優先で感知するだろう。

巨大なツタが幹斗を押しつぶそうとする。

「へっ、でかいからってなめるなよ? おりゃあ! 霊風斬れいふうざん!」

幹斗が霊気で風を起こした。

霊気の扱いは退魔師の初歩の初歩である。

霊気が扱えなかれば退魔師にはなれない。

霊気は風や水、火などに変換できるのだ。

霊=光であり、その反対が妖=闇である。

闇の存在たる妖魔にはその反対の力でしか対抗できない。

つまり霊気=光の力だ。

幹斗は霊気の斬撃で巨大ツタを根こそぎ斬り刻んだ。

詩穂も前方のツタを霊気の矢で射る。

霊光矢れいこうや!」

光の矢がほとばしる。

詩穂の射撃は正確無比だ。

詩穂も毎日弓の鍛錬をしている。

詩穂いわく「毎日射っていないと、調子が狂うので」だとか。

二人が前方のツタを抑えているあいだに、柳の大技が完成した。

「よし! いいぞ! 二人とも、後ろに下がれ!」

「よっしゃ!」

「はい!」

柳の刀から恐ろしく冷たい霊気が放出されていた。

それを意識したのかツタが震えるようなそぶりを見せる。

だが、この程度の恐怖は序の口だ。

柳の真価はこんなものではない。

「一撃で終わらせる! 氷烈波ひょうれつは!」

柳が凍える一撃を放った。

その一撃は寒波のようにツタを通過した。

その瞬間ツタはすべて凍っていた。

凍ったツタはバラバラに砕け散る。

それは恐ろしく冷たい、幻想的な光景だった。

幹斗も詩穂も息をのむ。

二人とも見とれていたのだ、この美しく、凍てつく吹雪に。

それは幻想的、あまりに幻想的だった。

柳は刀をさやにしまった。

「こんなものか。奥には城がある。どうやらここは元の空間を歪めているらしいな」

「キーキキキキ! てんめえ! よくも俺のかわいいツタを殺してくれたな!」

柳は殺すという表現に違和感を感じた。

確かに植物には命はあるから、殺すと言えないこともない。

「ローズブラッド! いい加減に隠れてないで出てこい! 俺が相手だ!」

「フン! バッカじゃねえの? この俺様がわざわざ相手なんかするかよ! てめえらは俺様を怒らせた! もう我慢ならねえ! いたぶって殺してやるよ!」

その時空間が歪んだ。

勇敢のひずみからバラの花を乗せた植物の怪物が現れた。

その怪物は巨大だった。

「ケーケケケケケケ! こいつの名はビオグランデ! 俺様のしもべだ! こいつのパワーでおまえたちを圧死させてやる! 逝けえ!」

「幹斗、詩穂、来るぞ?」

ごごごとビオグランデが山のように巨大な体を震わせる。

ビオグランデは長いツタを柳たちに送ってきた。

「迎撃だ!」

「ああ!」

「はい!」

氷月斬ひょうげつざん!」

「ウインドストーム!」

梅嵐ばいらん!」

氷がツタを薙ぎ倒し、小型の竜巻が次々と襲来し、梅の花びらが螺旋を描いてツタを薙ぎ払う。

ツタの猛攻を柳たちはしのぎっ切った。

この程度の攻撃でやられる柳たちではない。

ビオグランデが頭部のバラから紫の霧を出した。

「くっ!? あれは毒だ! あれを吸い込んだら死ぬぞ!」

「なら、俺の風で霧散させてやるよ! ゲイルストリーム!」

幹斗が風の気流を送る。

風は毒の霧を遠くへと吹き飛ばした。

幹斗の風は広範囲に攻撃することができる。

しかし、ビオグランデには今だ一太刀も浴びせかけていない。

「幹斗!」

「柳!」

二人が駆けた。

一気に接近してビオグランデに斬りつける。

「ギギギギギギギ!」

ビオグランデは悲鳴を上げたが、二人の斬撃がダメージを与えた兆しはない。

ツタが二人を打ち据える。

二人はこの攻撃をかわした。

「やはり、氷でないとダメか……」

柳に刀に氷の粒子がまとわれる。

それはものすごく冷たそうだ。

だが同時に美しくもあった。

ふしぎだ。

柳の氷技は幻想的で美しい。

柳の技『氷粒斬ひょうりゅうざん』である。

ビオグランデはツタをまた送り込んできた。

バカの一つ覚えだ。

柳は前に出た。

氷の粒子を帯びた刀で、ツタを斬り捨てる。

柳の接近をもはやビオグランデは止められない。

柳の斬撃がビオグランデの胴を薙いだ。

「ギキイイイイイイイイイ!?」

ビオグランデが叫び声をあげる。

柳の攻撃は確実は効いている。

柳はさらに、氷の剣を振るって、とどめを刺す。

ビオグランデは全身を凍らせて、死んでいった。

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