表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アヤナウチテ  ~妖討手~  作者: 野原 ヒロユキ
~金剛寺 羅道編~
5/21

異界

柳たちは彩月家から白薙会に戻ってきた。

幹斗は車を駐車場に停める。

三人は車から降りた。

「ふいー、やっと帰って来れたぜー」

「幹斗、オヤジ臭いぞ?」

「しゃーねーだろ? あんな豪邸は息苦しかったんだからさ!」

幹斗は柳の批判をかわす。

そんなかんだでこの二人は互いに気心が知れていた。

「おっ、みんな帰ってきたね」

「貫之条」

「貫之条さん」

そこに現れたのは瀬戸見せとみ 貫之条つらのじょう

彼は細長い目をしており、狐のような顔つきで、和服を着ていた。

彼は白薙会の副社長で、奈雲の側近に当たる。

つまり、白薙会ナンバーツーだ。

「今回の仕事は骨が折れそうやろ? 異界に行くんか?」

「ええ、そうです。私たちは準備のため戻ってきました」

詩穂が軽く報告する。

奈雲がどこか厳しいところがるのに対して、彼は甘い。

貫之条は自分がリーダーを務められるとは思っていない。

彼は自分はみんなの相談役だと思っているのだ。

「ほな気をつけてな。植物型の妖魔は厄介や」

「どこが、厄介なんだ?」

「そうさなあ……あいつらは再生しよる」

「再生?」

「まあ、柳君が氷の技を使えば、いちころやろ?」

「そうだといいが」

「あら? 皆さん、お帰りなさい」

「舞葉さーん、ただいま戻りましたー!」

変な声を出したのは幹斗だ。

彼女は白薙 舞葉まいは、奈雲のシュヴェスターである。

彼女は金髪の長い髪をウェーブヘアーにして、白い帯の青い着物を着ていた。

身長もやや高く、洋風美人といった印象を受ける。

その割には青い着物は金髪の彼女に似合う。

着物を並の日本人以上にきれいに着こなしている。

彼女はもっぱら白薙会の事務を担当している。

戦闘能力がないわけではないが、性格的に穏やかなので、戦いは向いていない。

「みなさんはいつもご苦労様です。奈雲に代わってお礼を申し上げます」

そう言ってぺこりと彼女は頭を下げた。

舞葉は奈雲が気づかないところによく意識が行く。

彼女は自分の役割は社長=奈雲をサポートすることだと考えていた。

もちろん彼女もドイツ生まれ、ドイツ育ちなので、兄、妹というより、ブルーダー、シュヴェスターといった言葉の方がその関係はしっくりくる。

兄妹間に序列はない。

「みなさんはこれから異界に行きますか?」

「ええ、そうです。私たちは奈雲さんから直接仕事を承りました」

「そうですか。私には祈ることくらいしかできませんが、みなさんが元気に帰ってこれるよう待っていますね」

「もちろんだ。俺たちが帰ってこなかったときがあったか?」

「うふふ、ありませんでしたね。信頼されていますよ、みなさんは、奈雲から」

「それはわかっている。だから、それに泥を塗るようなことは俺たちはしない」

「もちろん、私も信頼していますから、ね?」

舞葉が笑顔で告げる。

白薙会はリーダー奈雲が欧州育ちなので、何事も主張すべきだと考えられている。

つまり、日本式のあいまいさや、阿吽の呼吸などどいった文化は白薙会にはない。

白薙会ではきちっと言語で表現すべきだとされている。

まあ、こんなところも奴ら……つまり元老院議員が気に入らないところなんだろうが……。

つまり、元老院は白薙会を非日本的な、外国人の集まりだとみなしているようだ。

それを奈雲が否定したことは一度もない。

白薙会の文化は業界の『異端者』たちであればこそ適応可能だったと言える。

「俺たちは奈雲から異界に向かうよう指示されている。話はこれくらいにしておこう。後は帰ってきたときに」

柳が会話を打ち切った。

柳には社交的なコミュニケーションをするという発想はない。

そのせいで不愛想な印象を与えがちだ。

柳は人一倍退魔師の仕事に誇りを持っている。

仕事は必ずやり遂げる……そんな決意がある。

もちろん、貫之条も舞葉もそれは理解している。

柳はやはりどこか不器用だった。

詩穂のフォローがなければ危険な状態にもなりかねない。

「そうやな。それじゃあ、またあとで」

貫之条が去っていく。

「みなさん、がんばってくださいね」

舞葉もその場を後にした。

「さて、準備しだい出発だ」

「OK!」

「そうですね」

この三人の指揮官は柳だった。

柳は判断力、決断力、指揮能力共に高い。

柳には奈雲のようなカリスマ性はない。

だが、それでいいと柳は思っている。

カリスマ性は使い方によっては否定的なものになりかねない。

その代表がアドルフ・ヒトラーだ。

否定的なカリスマ性は共同体を破壊しかねない。

柳は指導者ではない。

あくまで彼は指揮官だ。

かくして、三人は異界に出発した。



異界――長崎区にて。

澄空市は市内部を『区』という単位で区分している。

もともとは三つの町が合併してできた市で、笠原町かさはらちょう友野町とものちょう岩山町いわやまちょうの三つである。

澄空市は歴史と伝統が豊かだったが、文化や芸術も発達しており、その催しで全国でも知名度が高かった。

柳たちは異界にやってきた。

そこは想像以上にひどかった。

まるで空間がガラスのように凍っていたのだ。

「これは……ひどいな……」

「なんてことをしやがる……」

「こんなことをするなんて……許せませんね……」

三人ともそのひどさには呆然とせざるをえなかった。

いばらのツタが至る所にはえている。

まるでいばらの野原だ。

「ケケケ! おまえたち、退魔師か?」

「誰だ?」

空間から声がした。

おそらく、この空間自体がこの妖魔のテリトリーなのだろう。

柳たちの侵入に気づいたのだ。

別に柳たちとしては自分たちの気配を隠すつもりもないのだが。

「俺様はローズブラッド。美しきバラの妖魔だ。俺様の領域に足を踏み入れるとはいい度胸をしているじゃないか」

「俺たちの声が聞こえているのか。おい、彩月 姫乃嬢を解放しろ」

柳は命令した。

これは明らかにローズブラッドを不快にさせた。

「ケケケ、やだね! なんで俺様がおまえの命令なんて聞かねばならないんだよ? ふざけるにもほどがある」

「なら、力づくで解放するまでだ」

「ケッケケケ! できるかねえ! 俺のところまでたどり着けるかよ?」

「そうしてみせるさ」

「クヒャハハハハハハハ! こりゃいい! こんなバカは初めてだ! なら。来いよ! ぶざまに逃げ惑えや!」

こうしてロースブラッドの声は途切れた。

「はあ……兄さんって相変わらずですね」

「何かまずかったか?」

「そういうわけではありませんが、もっと相手から情報を引き出せればよかったのではないですか?」

「む……そうだったか……」

柳は闘志をむき出しにしていた。

戦士に直情的になるなという方が無理だろう。

「まあまあ、詩穂ちゃん、柳にそんなこと言っても始まらないぜ! ここはストレートに正面突破するしかないんじゃないの?」

「はあ……私、苦労しそうですね、いろいろと……」

「? なんなんだ?」

柳にはさっぱり分からない。

幹斗はそれを見て苦笑した。

詩穂はあきらめ顔だ。

詩穂が柳を慕っていることは白薙会の全員が知っている、柳をのぞいて。

柳たちは異界化した地区に足を踏み入れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ