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アヤナウチテ  ~妖討手~  作者: 野原 ヒロユキ
~金剛寺 羅道編~
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白薙会

白薙会の社長『白薙しらなぎ 奈雲なくも』はドイツ帰りの魔法使いである。

彼はドイツで魔法使いとして修行して、日本に帰ってきた。

奈雲はある経営者のもとで経営を学んだ。

やがて自分の退魔師会社を打ち立てるためである。

彼は自分の夢を実現した。

白薙退魔師会はそうして誕生した。

白薙会は設立当初から敵がいた。

元老院げんろういん』――。

日本の退魔師業界を牛耳る機関である。

元老院主導体制では、日本全国は『管区かんく』に分割され、その管区内での利益は有力家門が得る仕組みになっていた。

そして有力家門からは元老院議員が輩出される。

奈雲がやったことはこの体制にくさびを打ち込むことであった。

退魔師協会たいましきょうかい――おもに東日本に勢力を持つ退魔師の相互・互助機関である。

退魔師協会は一般の退魔師に仕事の斡旋や仲介をして手数料で収入を得ていた。

また退魔師向けの生命保険なども手掛けていた。

退魔師協会が東に影響を及ぼすことができたのは、逆に元老院の影響は西日本に及んでいたからである。

元老院の中心地は大阪だった。

元老院は建前としては、日本における『唯一の』退魔師機関である。

それを退魔師協会は崩したのだ。

正確には奈雲が。

元老院の怒りはすさまじかった。

元老院にとっては、公式の退魔師組織は自身以外ありえてはならなかったからである。

こうして奈雲、そして白薙会は元老院から嫌われ、否定された。

退魔師協会を設立したのは奈雲である。

奈雲には経営者、そしてオーガナイザーとしての才能があった。

瞬く間に、退魔師協会は一般の退魔師の支持を得るようになった。

日本の退魔師は大きく、三つに分けられる。

一つ、元老院議員の門下退魔師。

二つ、退魔師の家系に生まれた、非門閥の退魔師。

三つ、一匹狼的な退魔師。

退魔師協会はこうした退魔師の差別を終わらせた。

退魔師の世界では、非家門の退魔師は新参者として差別されるのが普通だった。

それを奈雲は根本的に変えたのだ。

それは彼が革命家としての側面を持っていたからだ。

それまで退魔師は元老院議員をトップとした、門閥退魔師が幅を利かせていた。

家門と退魔師の格は同一視されていた。

それを奈雲は自由市場型構造に変えたのである。

もともと管区制は競争を否定したところから生まれていた。

元老院議員になるには一定以上の『資産』が必要だ。

資産を持たない者は元老院議員にはなれないし、もし一定以上の資産を持っていないなら、議員資格がはく奪される。

そして元老院はオプティマテスと呼ばれる有力門閥の支配下にあった。

このような統治体制を寡頭制かとうせい=オリガルキアといった。

このような団体は己の利益に敏感で、全体の利益など考えない。

オリガルキアとは少数支配体制だからだ。

奈雲が吹かせた風はそこに競争原理を導入することだった。

それをこのような団体が望むはずがない。

かくして奈雲は元老院の『敵』=hostis publicusとなった。

今でも元老院は様々な言いがかりをつけて、白薙会を攻撃している。



「奈雲、呼んだか?」

「奈雲さん、何の用ですか?」

「よく来てくれた、まあ、かけてくれ」

奈雲は柳と幹斗にソファーを勧める。

二人はソファーに座った。

詩穂が自分の机にあるイスに座る。

奈雲は白いスーツに、水色のワイシャツ、青いネクタイをつけていた。

髪は半分垂らし、残り半分をオールバックにしていた。

そしてメガネをかけていた。

「現在、澄空市長崎区が異界化した。何者のしわざかはわかっていない。どうやら、そこに彩月あやつき家の令嬢が捕らわれたらしいんだ。そこで、退魔師協会から我々に至急解決するように要請が来た。というわけで、柳、幹斗、詩穂、君たち三人でこの事件を早期解決してほしい」

奈雲は三人に『仕事』を命じた。

通常退魔師の仕事はチームで行われる。

あくまでソロでやる者もいるが少数派である。

最初のうちはソロで活動し、慣れてきたらチームで仕事をするのが一般的である。

柳もプロフェッショナルの退魔師だ。

ただ、現場に行って敵を倒せば事件が終わりだとは思っていない。

「事件のことはわかった。問題は彩月家の令嬢をどう助けるか、だな?」

「事前の偵察では、長崎区はいばらのツタで覆われているらしい。おそらく、植物型の妖魔が関与しているのだろう」

「植物型の妖魔……ですか……」

幹斗としても思うところがあるのだろう。

ちなみに妖魔の種類は動物型が最も多く、次いで植物型、物質型と分かれている。

「さらわれた令嬢のことはわかっているのか?」

「うむ。さらわれたのは彩月 姫乃ひめのさんだ。茶色のウェーブヘア―だそうだ」

「なら、問題はどこに囚われているかですね?」

詩穂が質問した。

詩穂は巫女として霊的鍛錬を積んでいる。

武器は弓だ。

「君たちはまず、彩月家に行って父親の信仁のぶひと氏から事情を聴いてほしい。彼が今回の事件の依頼主だ」

「それじゃあ、俺たちはまず車で彩月家に行けばいいんですね?」

「幹斗、忘れてないか?」

「あん? 何をだ?」

「幹斗さん、彩月家って文房具のメーカーで有名な企業の創業家ですよ?」

「あー、そういうことか。じゃあ、きっちりとあいさつしないとな」

幹斗はどこかめんどくさそうだ。

「つまり、姫乃さんは社長令嬢ってわけね」

「犯人は人質を取って脅迫することはなかったのか?」

柳が奈雲に聞く。

普通、この手の事件では人質として誘拐するのがセオリーなのだが……。

「いや、そのような話はなかった。犯人がどういう理由でさらったのかは分からない。どういう待遇で囚われているかもな」

「もっと情報があればいいんだが……まずは情報を少しでも集めよう。異界に乗り込むのはそれからでも遅くない」

柳は情報の価値を理解していた。

この手の事件では解決のために情報が必要になることも多いのだ。

柳たちはまず、姫乃嬢救出のため、彩月家に行くことにした。

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