ヴリトラ
柳はパトロポリスの中央エレベーターにやって来た。
ヴァイツが言っていたように、道はほかに二つあった。
おそらく、防衛のために通路を分散させているのであろう。
「羅道はこの先か。幹斗と詩穂はまだ来ていないな。まあいい。先に進むだけだ」
柳はエレベータに乗った。
エレベータが上にあがる。
ここはパトロポリスを外観から見たら、中央に塔のようなものがあった。
今柳がいるのはそこだろう。
エレベーターが止まった。扉が開かれる。
そこは四角い闘技場のようなフロアだった。
そしてそこに羅道がいた。
彼はビームサーベルを持っていた。
「羅道……とうとうここまで来たな。おまえの日本征服という妄想も、ここで終わりだ!」
「グハハハハハハ! よく吠える! 私はおまえが来るのを待っていた。だが、残念だ。一人だけでこの私に勝てると思っているのかね?」
「倒すさ。俺はおまえを倒すためにここまでやって来た。俺はみんなの信頼を一身に背負っている。それに俺は答える!」
柳は刀を羅道に向けた。
「ふむ……その霊刀……忌まわしい光の力を感じる……大天使ガブリエラの作かね?」
「ああ、そうだ。いくらビームサーベルでも折れないし、折れても自然と修復される」
「では、かかってくるがいい。この私が相手となってやろうではないか」
柳はその瞬間に飛び出していた。
柳が刀で羅道を斬りつける。
「正面から来るか!」
羅道はビームサーベルで柳を突き付けた。
羅道がにやりと笑う。
「む!?」
その時柳は消えていた。
これは幻影だったのだ。
柳は消えた。
柳も羅道相手に馬鹿正直に攻める気はない。
「はっ!」
柳は上にいた。
そのまま落下の反動を利用して羅道に斬りかかる。
「上か」
羅道はそれに反応した。
柳の刀と羅道のビームサーベルがぶつかる。
柳はいったん羅道と距離を取る。
柳は再び攻めた。
今度は氷の刃を刀に乗せて、斬る。
羅道のビームサーベルはそれを簡単に受け止める。
「氷月斬!」
柳が氷の斬撃を出した。
凍てつく氷が羅道を襲う。
「ふんぬ!」
羅道が氷を砕く。
「ふははははは! 涼しいな! はあっ!」
羅道は大きくジャンプすると、柳めがけてビームサーベルを下げて、落下してきた。
柳はバックステップでよける。
柳は霊気を氷に変換する。
柳の左手に膨大な氷が集まる。
「くらえ! 氷竜破!」
柳が出したのは氷の竜だ。
氷の竜は柳の手から放たれて、まるで暴風雨のようにアギトを開けて羅道に向かう。
「氷の竜か! すばらしい!」
羅道はビームサーベルを氷の竜のアギトに突き入れた。
「むううううう!?」
羅道は押される。
この氷竜破は膨大な霊気を消耗する。
羅道の手下には使えなかった。
だが、羅道との決戦の今、この大技を使うことができた。
「むうん! 雷霆斬!」
羅道は雷の斬撃を起こした。
氷竜破はかき消された。
「……」
柳は沈黙する。
この技を迎撃されるとは思っていなかった。
「ふはははははは! どうかね、私の力は?」
「おまえ……その力は……」
「ふむ、それに気づいたか。そう、私の力は妖気だ」
「まさか……」
「フフフ、その通り。私はすでに人間ではない。私は他者を必要としない。私の必要なものは部下だけだ。他者など信頼できん。他者は必ず、裏切る。人間とは醜いものだからな。私は完全な存在になりたいのだ」
「……それがおまえの答えか? 俺は一人じゃない。俺は他者と共に在る。だからこそ、俺はおまえを倒さねばならない」
「さあ、続けよう、この戦いを! そして、私は完全な高みへと……!?」
刹那、柳は羅道の首を斬っていた。
羅道の首が宙を舞う。
「終わったな……」
羅道の体が倒れる。
柳は羅道を哀れに思った。
この男はきっと仲間に恵まれなかったのだ。
昔、仲間から裏切られたことでもあるのかもしれない。
彼には心に傷でもあったのだろう。
それがこの男を自分一人だけで完全にさせるように方向づけたのだろう。
他者を斬り捨て、自分か完全になる……その先にあるのはいったい何だ?
神にでもなるつもりか?
「クフフフフフフ……さすがは天草 柳」
「!? 羅道!?」
羅道の首がくるりと回転した。
目には光があった。
普通生物は首を斬られたら生きていられない。
「まだ、生きているのか!」
「ふははははははは! 私はもはや人間ではない! 私は神だ! その私がこの程度で死ぬわけがあるまい! さあ、続きだ! この私の真の力を、真の姿を思い知らせてくれよう!」
羅道の首が浮かびああがった。
羅道ん首を中心に妖気が膨れ上がる。
これほど膨大な妖気は柳は見たことがない。
羅道が取った姿はいったいの龍だった。
「ははははは! はーははははははは! 我はヴリトラ! 神龍ヴリトラなり!」
柳は霊刀をかかげた。
「? 何の真似だ?」
「霊刀解放」
「!?」
その時霊刀から光が放たれた。
それは周囲をまばゆく照らした。
柳の刀は大型化していた。
さらに銀色の粒子の刃が左右につく。
柳自身の体からも光の翼が出ていた。
「何だ、その力は!?」
「銀月カガミノミコト――俺の霊刀の真の姿だ。これなら、おまえを倒すのに不足はない」
「ふははははははは! はーははははははは! はっはっはっはっはー! 無駄なことだ! 完全な存在である私におまえは勝ち目がない!」
「なら、試してみるか?」
柳は刀で斬りかかった。
ヴリトラの体がえぐれる。
「ぐおおおおおおお!?」
「!?」
羅道の腕が叩きつけられる。
羅道の体には痛覚はないようだ。
「死ねい! サンダーブレス!」
羅道は口から雷のブレスを出した。
柳の霊刀との間でスパークを生じさせる。
「くっ!?」
柳は押された。
そのまま地滑りする。
まずい……このままでは追いやられる。
「梅閃!」
梅の花ビラが舞った。
「テンペストブラスター!」
青い風が吹き荒れた。
「兄さん! 無事ですか!?」
「柳! どんな状況だ?」
「おまえたち!」
そこに現れたのは詩穂と幹斗だった。
柳は味方の加勢を喜んだ。
「あのドラゴンが羅道だ。あいつの言い分では自分は神だとな」
「へへえ、なるほどねえ! なら全力を出させてもらうぜ!」
「わたしのすべてをここで出し切ります!」
「では、行くぞ、羅道!」
「無駄だ! 完全な存在である私には、神である私にはおまえたちは勝てぬ!」
羅道がサンダーブレスをふきつけた。
「くらいやがれ! 円月斬!」
幹斗が円月の斬撃を飛ばす。
「霊光回転撃!」
詩穂が回転する霊気の矢を撃ちだす。
「ぐおおおおおお!? バ、バカな……なぜだ!? なぜ人にこれだけの力がある!? なぜ、私が押される!?」
「おまえにはわからないだろうな。人間をやめたおまえには! 人間は社会的な生き物だ。人間は不完全だ。だから他者を必要とする。おまえは人間をやめた。だから、おまえには俺たちに勝てない! さあ、これで終わりだ! 退魔撃滅! 銀粒斬!」
柳の刀から銀色の粒子が満ちる。
柳は羅道の頭部……正確には首があるところを狙って刀を突き刺した。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
羅道は大絶叫を上げて消えていった。
「バカな! バカな、バカな、バカなー!? 完全な存在が、死ぬだと!? バカな……」
羅道は紫の粒子と化して消えていった。
柳の刀が元に戻る。
柳はふらついた。
「兄さん!」
「柳!」
「ああ、大丈夫だ。やはり霊刀解放は大きな霊力をくうな」
柳は刀をさやにしまう。
「金剛寺 羅道は死んだ。これですべては終わった。さあ、帰ろう、俺たちの仲間のところへ」
「そうだな」
「はい、そうですね」
柳たちは崖からパトロポリスを見ていた。
パトロポリス爆発しながら、海へと落ちて行った。
「これで羅道の反乱も終わった」
奈雲が感慨深そうに漏らす。
その場には、柳も詩穂も幹斗もいた。
「さすがですな、みなさん」
「お帰りなさい」
「舞葉、貫之条……来ていたのか」
柳が振り返る。
「結局、今回の事件って何だったんでしょうね?」
詩穂が言っているのは今回の事件に意味があったのかということだ。
「人は一人じゃないってことさ。俺たちは生きていくためにも他者を必要とする。信頼がないところには他者は存在しえない。羅道は人間を信頼できなかったんだ」
柳が今回の事件を包括する。
「さて、今回は死闘だった。今日から二週間の有給休暇を与える。しばらく、休むがいい」
奈雲の言葉にみんなが喜ぶ。
こうして羅道の反乱は幕を閉じた。




