分かれ道
柳たちはザコ妖魔を倒しながら、パトロポリスを奥へと進んだ。
「ん? これは……」
「どうした、奈雲?」
四人が走っていると、奈雲が何かに気づいた。
パトロポリス内の移動はもっぱら走りだ。
退魔師は普段から、走る訓練をしているため、この程度の移動は苦ではない。
「あちらから、何かを感じる。おそらく、このパトロポリスの動力炉だろう」
「どうするつもりだ?」
「私は動力炉の破壊に向かう。羅道を倒すのはおまえに任せる」
「わかった」
奈雲はそのまま飛行して、下のエリアに向かった。
柳たちの前に三つの道が現れた。
「三つ、道があるな」
「やれやれ、どこが本当の道なんだ?」
「困りましたね。舞葉さんがいればこういう霊感は得意なのでしょうけれど……」
三人は立ち止まってしまった。
柳はこのままじっとしているのは危険だと考えた。
ここは敵の牙城だ。
こんなところにいれば、大量の敵に包囲されかねない。
「クヒャハハハハハ! ヒントを教えてやろうか?」
そこにメットのような顔をしたサイボーグ妖魔が現れた。
「!? おまえはヴァイツ!?」
「ほう……よく知っているな。俺の名はヴァイツ。俺は羅道軍の将軍だ。この三つの道はどこも羅道のもとに通じている。どこを選んでも問題ない。ただ……」
「ただ?」
「一つの道に付き、おひとりさまだけだがなあ? ククク、さあ、どうする? どの道を選ぶかはおまえたちしだいだ。それじゃあな」
ヴァイツはそう言うと、空中を飛行して去っていった。
「どうする、柳?」
「……俺は真ん中の道に行く。幹斗と詩穂はどうする?」
「私は右の道を行きます」
「なら俺は左だな」
「よし……生きてまた再会しよう、またな!」
「ああ!」
「当然です!」
三人はそれぞれの道への進んでいった。
幹斗はひたすら直線的な道を進んでいった。
幹斗は大型のハチ型妖魔と会った。
「エアカッター」
風の刃がハチ型妖魔を切り刻む。
ハチ型妖魔は落下した。
「それにしても、蒸し暑いな。ここはいったい何なんだ?」
幹斗は突然、何か危険を感じ取った。
「危ない!」
幹斗がよけると、そこには大型のクモ型妖魔がいた。
「なんだ、こいつ!?」
そのクモは何とサイボーグ化されていた。
幹斗の勘が告げる。
わかる、こいつはボス妖魔だ。
「こいつはこのエリアのボスか! いいぜ! 相手になってやる!」
クモ型妖魔ボシュパイダー(Boschpeider)である。
ボシュパイダーは妖魔兵器と呼ばれるものの一種だった。
ボシュパイダーは上方の密林に消えた。
「あの野郎……また上から奇襲してくるつもりか」
幹斗は風の霊気を収束させる。
これによって不意の襲撃を避けることができる。
というより、幹斗にはそれしか対策がない。
密林で動きが生じた。
「来る!」
密林の中から小型のクモが落ちてきた。
おそらくこいつらは毒グモだ。
このクモたちもサイボーグ化されていた。
コグモたちは周囲に分散して幹斗を追いつめる。
「なめんな! ウインドスラッシャー!」
幹斗は風の刃をコグモに向けて放った。
コグモは切り裂かれる。
その瞬間上からボシュパイダーが落ちてきた。
「うおっ!?」
幹斗は前に跳び出した。
ボシュパイダーの牙が空を切る。
「こいつも毒持ちか!」
よく観察すると、ボシュパイダーにはビームウェブがついていた。
ボシュパイダーは不満そうに上へと消えていった。
「くそ……このまま上から一方的に攻撃されたら霊気が持たないぞ……」
幹斗は覚悟を決める。
「大いなる風の力よ! この俺につどえ!」
再びボシュパイダーが落ちてきた。
幹斗はその時、風を上方に向けて放った。
「トルネードサイクロン!」
ボシュパイダーは風でズタズタに切り刻まれた。
「ギシイイイイイイイイイイ!?」
ボシュパイダーは地面に落ちた。
そのまま動かなくなった。
「よっし! 俺の勝ちだ!」
詩穂は青いフロアを駆けた。
そこはまるで海のようだった。
突然詩穂にミサイルが撃ち込まれた。
詩穂は身をかがめてかわす。
「ほっほっほ! よくかわしましたねえ!」
「? あなたは?」
「私はオットパルド(Ottopardo)。見ての通りタコ型人型妖魔です。もちろん、羅道様によりサイボーグ化されていますが……」
「あなたはボス妖魔なのね?」
「ほっほっほ! その通り! 私がここにいる以上、これ以上先には進ませませんよ!」
オットパルドは八本の触手を持っていた。
「なら私はあなたを倒します!」
詩穂は霊弓を構えた。
これはこれから戦うという宣言だ。
「テンタクルミサイル!」
オットパルドは触手からミサイルを出した。
それは性格に詩穂を狙ってくる。
詩穂は霊矢ですべて撃ち落とした。
戦いは双方の射撃戦を呈してきた。
詩穂は霊気の矢で攻撃し、オットパルドはミサイル攻撃に徹する。
これでは消耗戦だ。
詩穂は危機感を持った。
これでは霊気を無駄に使ってしまう。
「ホーミングトーピドー!」
オットパルドは魚型のミサイルを撃ち出してきた。
これは湾曲しながら、詩穂に向かってくる。
詩穂は正確に向かってくる魚型ミサイルを軌道を予想して、撃ち落とした。
「ほほー! やりますね! ですが、二つのミサイルは同時に出せるのです! これで終わりですよ!」
オットパルドは詩穂にテンタクルミサイルとホーミングトーピドーを同時に出してきた。
詩穂は霊弓に霊気を集める。
これは詩穂の大技。
紅色の粒子が詩穂の弓に集まる。
「行きます! 梅閃!」
「なっ、なんですと!?」
詩穂の技『梅閃』は二種類のミサイルをすべて吞み込み、オットパルドに直撃した。
「グアアアアアアアアアアアア!?」
「大霊矢!」
詩穂は極限まで収束した霊気の矢をオットパルドに放つ。
霊気の矢はオットパルドのボディーを貫いた。
「ガ、ガガガガガ……ま、まさか……この私が……」
オットパルドは爆発した。
「ふう……勝てましたね……」
柳は走っていた。
移動は基本的に走りだ。
このパトロポリスはおそらく中央に行くように道が作られている。
柳の前に雷の弾が撃ち込まれた。
その主はヴァイツだった。
「クヒャハハハハハハハ! よく来たなあ!」
「おまえは、ヴァイツか。俺の道にどうしておまえがいる?」
「ヒャハハハハハハハ! 俺は通すとは言ったが、行かせるとは言っていないぞ?」
「……なるほどな。おまえは俺と戦いたかったのか」
「ヒャーッハッハッハッハッハ! その通りだぜ! うおりゃああああ!」
ヴァイツはビームスピアで柳に斬りかかってきた。
柳はそれを受け止める。
二人の間にスパークが巻き起こった。
柳はヴァイツをはじき飛ばす。
ヴァイツは柳と距離を取る。
ヴァイツは肩についた雷撃砲から、雷の弾を発射する。
柳はそれを斬り裂く。
ヴァイツは典型的なサイボーグ妖魔だ。
おそらく生体パーツはほとんどあるまい。
「ライトニングスラスト!」
ヴァイツの、雷をまとった突きが柳に繰り出される。
柳は氷を出して、それを防ぐ。
「ヒャーッハッハッハッハッハ! どうしたあ? そんなものかあ? 俺様に反撃してみろ!」
今のところ、柳はヴァイツからの一方的攻撃を受けていた。
ヴァイツの攻撃は猛烈な攻撃だった。
だが、柳に反撃のチャンスがないわけではない。
「クヒャハハハハハハ! ハーハハハハハハハハ! さあ、とどめを刺してやるぞ! 雷霆突!」
すさまじい雷の突きが柳に放たれた。
しかし、柳はそこにいなかった。
ヴァイツの首が飛んだ。
「なっ、なにい!?」
ヴァイツの首と胴が分断された。
「俺の勝ちだ」
「く、くそったれ……」
ヴァイツは死んだ。
「くっ……羅道……待っていろ……」
柳は再び走り出した。




