澄空市
白薙会のメンバーはテレビで戦況を見守っていた。
「くそっ! 羅道の奴!」
幹斗が歯ぎしりした。
羅道は事実上、東日本への支配権を手にした。
これは白薙会ではどうにもならない。
「羅道の目的はこの国の『王』になることのようだ。これはもはや一退魔師企業が行えることを越えている。私たちには今のところ事態を見守ることしかできない」
奈雲は羅道との戦いは放棄してはいない。
白薙退魔師会は羅道軍とは戦えないだろうが、羅道個人となら話は別だ。羅道個人を討つ――それなら可能だ。
柳も傷が言えたので事務室でテレビを見ていた。
「これからいったいどうなるのでしょう、この国は?」
詩穂が不安を吐露する。
これは誰もが思っていたことだった。
皆は奈雲を見ていた。
柳もそうだ。
こういう時、人は指導者の顔を見る。
「羅道は王政を樹立すると言った。この国の体制をひっくり返すつもりだろう。そもそも、羅道の活動はすべて未来のビジョンを見据えてのものだった。羅道は究極的には日本全土を支配するつもりだ」
「それを、止める方法はあるのか?」
柳が奈雲に聞いた。
それは希望はあるかということだ。
「方法の問題はあるが、一つだけある」
「それは?」
「羅道を倒すことだ」
全員が息をのんだ。
奈雲が言っていることは理にかなっている。
羅道軍は羅道を頂点としたヒエラルキーを持つ組織だ。
だが、羅道軍には同時に、羅道がいなければ、羅道でなければ機能しえないという欠陥を持っていた。
「羅道を倒せば、羅道軍は瓦解する。私たちの今後の活動は、羅道を倒すことだ」
「さすが、奈雲さん。目の付け所が違いますわ」
貫之条が同意する。
「でも、羅道を倒すとして、どうやって羅道のもとに行くんですか?」
詩穂が疑念を述べる。
詩穂が言っているのは至極まっとうなことだ。
「奴がパトロポリスにいるところを狙う。こちらからパトロポリスに乗り込み、羅道を討つ。それができるのは柳、君だけだ」
全員の視線が柳に集まる。
柳はうなずく。
柳は白薙会のエースだ。
その柳にできないのなら、ほかの誰にもできないだろう。
「それでは誰が出撃しますか?」
舞葉が促す。
「私、柳、幹斗、詩穂この四人だ。貫之条と舞葉にはオフィスで待機していてもらいたい」
奈雲が人選をする。
この人選は文字通りの精鋭である。
「私の召喚獣・霊鳥フォイニクスなら退魔師をパトロポリスに運べる。問題は奴がパトロポリスに乗っていてくれるかだ。国の掌握が進むほど、羅道を抹殺するのは難しくなるだろう。今はまだ奴は地上が安全だとは思っていない。安全性が確保されるまでは、パトロポリスにいるだろう。そのあいだがチャンスだ。そこしかチャンスがない。事態はスピードが求められている。今すぐ行動を……!?」
奈雲が顔色を変えた。
何かに気づいたらしい。
奈雲以外の人物はそれに気づいていない。
「どうした?」
「どうやら、先を越されたようだ。敵が来た」
「ケケケケ! ここが白薙会のオフィスかあ? 退魔師どもは引きこもっているのか?」
カメレオン型の妖魔が白薙会を侮蔑する。
「おい、カメリオーネ? 先にここに来たのは俺だぞ?」
ペンギン型の妖魔が異論を出す。
「なら最初は私だ。私は空が飛べたからな」
ワシ型の妖魔が主張する。
その時どしんどしんと大きな音がした。
「俺様もやって来たぞい。何してんだおまえら?」
象型の妖魔はふんぞり返る。
「ケーケケケ! 俺の邪魔はするなよな?」
「それはこっちのセリフだぜ!」
彼らは羅道が白薙会に送った刺客であった。
彼らはオフィスを囲むように陣取ることにした。
時間は過去にさかのぼる。
羅道の前に四人の妖魔が集められた。
ペンギン型の妖魔ピングイーニ(PInguini)。
カメレオン型の妖魔カメリオーネ(Camelione)。
ワシ型の妖魔イリード(Iglido)。
象型の妖魔ナウマンド(Naumando)。
彼らは妖刃衆といって羅道配下の直属の妖魔だった。
羅道が抜擢するだけあって彼らは非常に強い。
並の退魔師ではかなわないだろう。
だが、彼らには大きな欠点があった。
彼らは協調性に乏しいのである。
互いに協力するなど、死んでもできないことだった。
羅道が玉座……パトロポリスの中の間から話しかける。
「君たちに集まってもらったのはほかでもない。白薙会の問題に手を討つためだ」
「「「「ははっ、羅道様!」」」」
全員が首を垂れる。
羅道の権威は絶大だった。
「君たちにやってもらいたいのは白薙会の抹殺だ。白薙会のメンバーはすべて殺すように」
「「「「ははっ!!」」」」
「私はこの戦争で最大の脅威は白薙会だと思っている」
「一退魔師企業を、ですか?」
ピングイーニが疑問を呈する。
「フッ」
羅道は笑った。
それは羅道からすれば、白薙会の脅威を認識できなかったということだ。
彼らでも白薙会がどれほど日本人の希望かわかっていないらしい。
「確かに、白薙会は一企業にすぎない。だが、そのメンバーは一騎当千だ。彼らは強い。彼らを侮るな。それではおまえたちが返り討ちに会うぞ?」
「失礼ですが、羅道様、一退魔師企業を過大評価しておられるのですか?」
イリードが反論する。
「ぐははははははは! 要は危険な退魔師をぶっ殺せばいいんだろ?」
「ケケケケケ! いたぶってもよろしいでしょうか?」
「戦い方は君たちに任せる。それぞれ自由に戦うがいい。だが、目的を忘れるな? いいかね? 白薙会は最強の退魔師集団なのだから」
羅道はここまで言わねばならなかった。
こいつらは実力はあるのだが、退魔師を過小評価する。
まったく、困ったものだ。
油断をすれば、倒されうることも分からないとは。
だが、逆のことを言えばその程度の連中だということだ。
「それでは出撃を命じる。白薙会の首を取ってこい」
「「「「ははっ!」」」」




