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アヤナウチテ  ~妖討手~  作者: 野原 ヒロユキ
~金剛寺 羅道編~
14/21

羅道軍

羅道軍は本格的に東京を攻撃し始めた。

羅道軍による東京攻撃は『バットルシップ』による空爆だった。

羅道軍は自衛隊の重要施設を重点的に爆撃した。

特に空自駐屯地が狙われた。

さらに羅道軍は焼夷弾を使い、一般大衆が外にいるところを狙い撃ちした。

民衆は恐怖に包まれた。

羅道軍は自衛隊の航空部隊を壊滅させると、なんと民間人を攻撃し始めた。

羅道にとっては『人間』も殺戮対象らしい。

民衆は恐慌状態に陥った。

これまで民衆は自分たちが攻撃されるとは思わなかったのだ。

民衆にはこの戦争は日本政府と羅道とのあいだで行われているにすぎないと見ていた。

つまり、民衆には攻撃は及ばないと思っていたのである。

羅道軍による民間人殺戮は民衆の目を覚ますのに十分だった。

ただ、東京にいる、それだけで羅道軍から攻撃されるには十分だった。

羅道軍の攻撃対象は『日本人』である。

『日本人』というだけで、羅道軍からすれば攻撃の対象になるのだ。

この民間人殺戮に対して、羅道軍に厳重注意要請と攻撃停止が、日本人の団体によってなされた。

この団体は羅道と直接会うことを要請したが、無視された。

羅道側はこの団体への空爆で解答した。

日を追うごとに犠牲者は増えていった。

羅道軍はある区を狙って、虐殺を行った。

これはジェノサイドであった。

実行したのはヴァイツである。

ヴァイツはこのジェノサイドを実に楽しみながら行った。

このジェノサイドには暴行、略奪、強姦が伴った。

この事件を聞くと、国民は正気を失った。

彼らは必要な荷物を車に乗せて、首都東京から逃げ始めた。

これは羅道軍の戦略だった。

国民に恐怖を叩き込み、東京から逃亡させる――それが羅道の狙いだった。

そして国民がいなくなった東京を、妖魔が支配する。

村山総理は絶望的な情報を官邸で受け取っていた。

「総理……羅道軍によって東京の制空権は奪取されました。どうでしょう? ここは西日本に撤退なさっては?」

部下が『撤退』という単語を口にした。

村山総理は机に会った辞書を部下に投げつけた。

「ひあっ!?」

「何をふざけたことを言っているのです! 西日本に逃げるなんて、できるわけありません! そんなことをすれば羅道の思うつぼです!」

村山総理は感情的になっていた。

彼女は羅道の反乱によって追いつめられていることが気にくわないのだ。

「し、しかし……もはや戦況は絶望的です。まもなく首都は落ちるでしょう。その前に、西日本に退避すれば、首都機能を移転できます!」

部下は必死に説得しようとする。

しかし、村山総理はそれを聞き入れない。

村山総理も実のところ、わかってはいるのである。

軍事に無知な頭でも、理解はできているのだ。

だが、羅道軍にいいようにやられて、攻めて一矢報いてから退避したいというのが総理の本音だった。

村山総理はその機会を待っていたのである。

だが、戦況は冷酷だ。

村山総理の思惑に反して、戦況は悪化の一途をたどっていた。

現在はかろうじて、政府機能が維持されているが、どこかで何かが起きればそれも消えてなくなるだろう。

つまるところ、村山総理が気にしているのは『メンツ』だった。

名誉ある撤退こそ望ましいが、せめて羅道軍に打撃を与えてから撤退したい……そう総理は思っていた。

「このままでは国民に対する被害も生じます。総理の権威が傷つくのはわかりますが、今は決断すべき時です!」

「そのために時期を待っているのではありませんか! そもそも自衛隊がこれほど役立たずだとは思いませんでした! 自衛隊さえ羅道軍と戦えたのなら、私がこんな立場に追いつめられることはなかったのです!」

村山総理は頭にきてつい本音をしゃべってしまった。

そもそも、自衛隊は羅道軍と戦えるように訓練されていない。

自衛隊は『軍隊ではない』が準軍事組織だ。

村山総理の言葉は彼女の無知ぶりをさらけ出していた。

前提が間違っているのだ。

村山総理は自衛官個人の立場など気にしたことはない。

自衛官は政府に服従すべきだと考えている。

村山総理はこの組織を個人的に好きにはなれなかった。

なぜなら、この組織では隊員が猥談をするというではないか。

何とけがらわしい! 不潔だ! 汚い!

村山総理は軍隊と性ということに過剰なまでな嫌悪感を持った。

そもそも軍隊と性は切り離せない。

『そういうもの』として理解するしかないのである。

だが、彼女はそれを拒絶した。

一般隊員の、若い男性の性欲を毛嫌いしたのだ。

村山総理の倫理観は立派だったが、それを自衛隊に強制しても無駄なことは彼女は理解できなかった。

軍には規律が必要か? 

それはイエスとも言えるしノーとも言える。

それはその民族や文化によって変わってくるだろう。

羅道軍のように、規律などない軍隊も存在したのだ。

羅道軍にとって婦女子は強姦の対象でしかない。

「……現在の戦況は絶望的です。我々は負けたのです! それを素直に認めようじゃありませんか! 西日本に首都機能を移転しましょう! それがせめてもの希望です!」

部下は必至だった。

さすがの村山総理も自衛隊では羅道軍に勝てないと、ここにきて悟るほかなかった。

自衛隊の普通科連隊は壊滅的被害を受けている。

それは彼らが旧日本軍からの伝統『白兵突撃』を執拗に行ったからだ。

羅道軍は狙撃兵連隊を組織していた。

狙撃兵の正確無比な射撃によって、白兵突撃は無力化された。

羅道軍は軍隊だったが、自衛隊は『軍隊ではない』という建前があるのである。

その差は大きかった。

首都にいる自衛隊は壊滅状態だ。

「……わかり、ました……自衛隊が羅道軍と戦っているあいだに、大阪に行きましょう。首都の機能を大阪に移すのです」

「は?」

部下は白けた顔をした。

今、総理は何と言った?

それを村山総理は部下の顔から読み取る。

「ですから、自衛隊が戦っているあいだに、撤退するのです」

「し、しかし、それでは自衛官を見捨てるおつもりですか!?」

「最高司令官さえいれば体勢はどうとでもなります。いいですね?」

これは自衛隊を見捨てるということであった。

前線で戦っている自衛官を見殺しにするということだ。

「おかしなことを言いますね。撤退を進言したのはあなたでしょう?」

村山総理は自分さえ生きていれば、自衛隊はいくらでも再編できると思っているのだろう。

かくして、日本政府は首都機能を大阪にうつした。

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