ヴァイツ
「クハハハハハハ! ハーハハハハハハハ!」
ある妖魔がライドマシーンに乗って戦場を駆け抜けていた。
この妖魔の名はヴァイツ。
羅道軍総司令官である。
ライドマシーンとは機動力のある、二足歩行で腕を持つ機械兵器であった。
ヴァイツはまるでライドマシーンでドライブするかのようにライドマシーンの上に乗っていた。
ここは戦場だった。
現在行われているのは市街戦。
東京の一区である。
そこでヴァイツは殺戮を楽しんでいた。
「ククククク! ヒャーハハハハハハハ!」
建物に隠れて自衛官が射撃してくる。
ヴァイツはビームスピアでそれをはじき飛ばす。
そのままライドマシーンのニードルナックルで自衛官たちを殴り飛ばす。
自衛官はトゲに刺されて絶命した。
そのままヴァイツは自衛隊のバリケードをライドマシーンのパンチで粉砕する。
「いいぞ! もっともっと俺を楽しませろ! あがけ! それをすべて踏みつぶしてやるよお!!」
ヴァイツはある意味で狂っていた。
彼は戦闘狂なのだ。
彼は最強で、最凶で、最狂だった。
ヴァイツにとって殺しは楽しみだった。
戦争は合法的にその機会を彼に与えてくれる。
最高だった。
彼はある意味で、輝いていた。
殺戮こそ、ヴァイツの快楽だった。
ヴァイツはライドマシーンから降りて、ビームスピアを操った。
これがヴァイツの獲物だ。
ヴァイツはビームスピアを振るって、次々と自衛官を殺害していく。
自衛官は銃で撃つが、ヴァイツに見切られかわされる。
ヴァイツはビームスピアを縦横無尽に動かして、刺し、貫き、斬りつけた。
自衛官たちは次々とやられていく。
「ハーッハッハッハッハッハ! どうしたあ! もっともっとこの俺を楽しませろ! 絶望的な抵抗をしてみろ! もっとあがけ!」
ヴァイツはわざと自衛官がたくさんいるところにやってきたのだ。
それは殺しを楽しむためだ。
このような男は平時にとっては害でしかない。
羅道もそれはわかっている。
だが、戦争の時代では……戦場ではこの手の男は役に立つ。
むしろ敵に恐怖を与えられる。
ヴァイツは羅道から戦場で戦ってよいとお墨付きを得ていた。
人材とは使い方次第なのだ。
ヴァイツのようなバトルマニアも戦場では一騎当千の猛者だ。
「撃て! 撃て―! あいつを止めろ!」
幹部自衛官が叫ぶ。
ヴァイツを弾幕で殺すつもりだろう。
だが、自衛隊には不利な点があった。
それは日本は資源が足りないということである。
資源不足……これは日本の自衛隊のアキレス腱だった。
そもそも、日本は資源を輸入に頼っている。
資源が足りないということは、銃弾も連射で撃つことができないということ。
それはつまり、一発の命中率を高めるような訓練にならざるをえない。
「クヒャハハハハハハハ! いいねえ! 死ねえ!」
ヴァイツがビームスピアにい雷光をまとって斬りつけた。
「うわあああああああ!?」
「があああああああ!?」
「うごおおおおお!?」
「だああああああ!?」
自衛官たちはヴァイツによって薙ぎ倒される。
気づくと、戦場にはヴァイツしか残っていなかった。
「足りねえ! 足りねえ! 足りねえ! もっとだ! もっと人を殺させろ! 血を見せろ! ヒャーハハハハハハハ!」
ヴァイツは自衛官の死体を踏みつけで、侮辱した。
羅道側は今回の戦争を『独立戦争』と定めている。
それに対して、日本政府は羅道の『反乱』としか、思っていない。
羅道の目的は新秩序の樹立――すなわち、『王政』の実現だった。
羅道が新しい国の『王』となる。
それは日本という単語が消えることを意味する。
論理的必然だが、民主主義は廃止される。
羅道は議会の存在は容認していた。
これだけ複雑になった現代で、王一人で統治するのは無理があるからだ。
羅道は司法の独立も理解していた。
そもそも、自分自身が最高裁判所所長など兼任したらどうなるか……。
まず、忙しくて仕事が回らなくなる。
さらに、法律の問題で、王が恨まれたり、批判される。
それを回避するために、司法は独立していた方がいいのだ。
もっとも、自分の息のかかった者を送り込むことは必要だったが。
羅道の王政では宰相をはじめとする大臣たちはおかれる。
羅道は次の国を『王州』と名付けるつもりだった。
当然、国旗も変わる。
国歌も変わる。
日本は滅びる。
羅道は日本を滅ぼして、新しい国を樹立するつもりだった。
羅道にとって、日本とは唾棄すべき国にすぎない。
王州は君主制の国家である。
天皇は羅道にとって邪魔な存在にすぎない。
天皇制は廃止される。
天皇は処刑されねばならない。
皇族は皆殺しにされねばならない。
それがたとえ赤子であっても、必ず、殺さなくてはならない。
羅道にとって君主は一人で十分だからだ。
これは羅道の政治的な野望であった。
すべては羅道の野心が駆り立てるのだ。
戦況は羅道軍有利に進展していた。
羅道軍の妖魔たちは対自衛隊の訓練をして編成されている。
それに対して自衛隊は妖魔との戦闘は想定されていない。
これが戦略的に不利な状況を自衛隊にもたらしていた。
村山総理は自衛隊に不満を漏らした。
いわく、情けない。
いわく、なぜ精神異常者の軍隊に押されているのか。
いわく、敵に手加減をしているのではないか。
これらの発言は末端の自衛官にまで伝わった。
このような発言は失言の見本のようなものである。
村山総理は第一線で戦う者の気持ちが分からなかった。
村山総理には想像力が欠けていた。
彼女は自分が経験したことしかわからないのだ。
死と隣り合わせの環境がどれだけ、精神をすり減らすか……。
それに彼女の認識が部隊の行動の妨げになっていた。
自衛官はいくら『反乱』と聞かされても、実際にやっていることは『戦争』であった。
日本政府は戦争という解決策を放棄している。
だが、自衛のための戦争は禁じられていない。
それは国際的にも認められている。
だが、村山総理は反戦主義者だ。
防衛であっても戦争はいけないと思っている。
そもそも、村山総理の考えでは、防衛を理由に戦争を始めることは歴史上見られたと考えている。
これが総理の一個人の考えで済めば問題はなかった。
しかし、彼女は日本国内閣総理大臣である。
個人の認識では済まなかった。
ゆえに羅道の行動を『反乱』と捉えているのだ。
だが、現実を誤って認識したしっぺ返しはある。
それをのちのち村山総理は思い知ることになる。




