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アヤナウチテ  ~妖討手~  作者: 野原 ヒロユキ
~金剛寺 羅道編~
12/21

柳と詩穂

「う、ううん……」

俺はどうした?

確か、俺は羅道に刺されて……。

柳は海のようなまどろみの中にいてが、やがて浮上するように目覚めた。

「俺は……? ここは?」

「兄さん! 気が付いたんですね!」

「詩穂?」

柳は自分の状態を認識する。

柳はベッドで寝ていた。

隣には詩穂の顔があった。

詩穂の顔は涙でクシャクシャだ。

「詩穂……泣いていたのか?」

「だって、兄さんが刺されたって聞いて、私、ずっと心配で……もう!」

「はははは……すまないな、心配をかけた」

「本当ですよ! 幹斗さんが兄さんを連れてきて、刺されているっているからって!」

「俺はどのくらい眠っていた?」

「三日です」

「そうか、三日か。ふしぎだな。傷が痛まない……」

「お医者様が言っていました。内臓には傷がなかったって」

内臓に傷がない……それはつまり……。

「そうか、羅道は俺を殺さなかったんだな。ここは白薙会オフィスか?」

「はい、そうです」

「事情は聞いたか?」

「はい、幹斗さんから聞けることは……」

どうやら羅道は俺に何か期待しているのだろうか?

そうだ、羅道だ。

羅道は俺が寝ているあいだに何をした?

あれから何があった?

「詩穂、あれから羅道は何をしたんだ?」

「それは……」

「? どうした?」

「羅道は日本国に宣戦布告しました」



時間は柳が倒れた直後にさかのぼる。

羅道は塔の上にいた。

「フハハハハハハハハハ! さあ、日本よ! この私と戦おうではないか! 私はこの時をどれほど待ち望んでいたか! 日本との戦争をな! そうだ! これは戦争だ! 大東亜戦争以来の、戦争なのだよ! さあ、どうする? 我々は戦争をする気だ! 宣戦布告のミサイルは気に入ってくれたかな? くはははははは! 日本人よ! この戦争でせいぜいあがいて見せるがいい!」

羅道はただひたすら哄笑を響かせていた。

羅道は戦争を望んだ。

これは日本にとって太平洋戦争以来の初めての戦争だった。

羅道の真の目的は日本国を支配することに他ならない。

羅道は自らを『王』として日本の歴史に名を刻むつもりだった。

羅道の軍隊の中枢は妖魔が占める。

羅道はこの戦争のために長い間準備してきた。

すべては自らが『王』となるためだ。

この国に『王政』を樹立すること――それが羅道の野望である。

それは暴力による支配だった。

羅道が日本を掌握したら、天皇や総理大臣はもちろん処刑される。

皇族は子供に至るまで皆殺しとなる。

そうやって、『種』を絶やす。

つまり、根絶やしだ。

有力政治家も処刑される。

血が流れるであろう。

羅道はすでに戦後日本を築いた体制を破壊するつもりだった。

羅道は東日本の割譲を日本政府に求めた。

もちろん、日本政府は拒否した。

というより、相手にしなかった。

そんなことは非現実的だと思われたからだ。

だが、羅道の行動は早かった。

羅道軍は東日本に攻撃をかけてきた。

最初の一週間で北海道が落ちた。

続けて東北が占領された。

羅道は支配地では軍政を敷いた。

妖魔の軍は勝利者としてふるまった。

占領地では暴行、略奪、虐殺、強姦が相次いだ。

羅道も『勝者の権利』としてそれを認めているようだ。

羅道がこの国を掌握したら、『日本』という国は地図から消える。



日本政府は羅道からの宣戦布告をまともに取り合わなかった。

日本政府は今回の事態を『戦争』ではなく『反乱』と見なしたようだ。

これは実態を糊塗するもの以外の何物でもなかったが……。

頭のいかれた男による反乱などあっさりひねりつぶせる……。

日本政府はそう考えた。

だが、事態は日本政府には不利な方向に向かっていた。

この時の日本の最高指導者は『村山 静』総理だった。

初の女性総理大臣である。

しかし、女性だからといって、歴史は痛打をやめてはくれない。

羅道の反乱は村山総理にとって、寝耳に水だった。

金剛寺 羅道とかいう男は頭がおかしい……。

それが日本政府首脳の共通認識だった。

自衛隊がいる日本が、たかが一退魔師の反乱で覆るはずはない。

反乱はたやすく鎮圧される。

そう内閣は思っていたのである。

村山総理は自衛隊と防衛省幹部に命令を出すだけで、この問題は解決済みと見なした。

それがいかに甘かったか、しっぺ返しをくらうことになる。

この問題は軍事問題ではなく、精神分析家の問題だと考えたのだ。

羅道とかいう男は病的誇大妄想に侵されている。

そんなものが現実化するはずがない。

ただの夢想だ。

村山総理は女性というだけで総理大臣になれたわけではない。

政局を見据えて、権力闘争に勝ち上がったのだ。

だが、彼女には致命的な欠点があった。

それは軍事ミリタリー経験がないという欠点だった。

こればかりはどうしようもない。

従って、羅道軍に先制攻撃と、東日本への侵略を許してしまった。

これは最高指導者としては無視できない欠点だった。

自衛隊高官を補佐官として抜擢したが、軍事的無知だけはどうしようもない。

自衛隊は男社会である。

近年は女性の自衛官も増えつつあるが、その組織の体質が男社会であることは変わっていない。

村山総理は潔癖主義だったので、自衛隊のそうした組織文化を嫌っていたのだ。

内閣総理大臣は自衛隊の最高司令官でもある。

その彼女が自衛隊とぎすぎすした関係になっていた。

防衛大臣はこの機会をチャンスと考えたのか、自衛隊と村山総理を引き離すような工作を行った。

つまるところ、日本政府は羅道と戦うべき時に、足の引っ張り合いをしていたのである。

当然、そんな組織が精強な羅道軍に勝てるはずがなく、連戦連敗していった。

羅道軍は関東にまで触手を広げてきた。

首都東京にまで羅道軍の妖魔が出現した。

羅道軍の最高司令官は羅道自身であり、軍総司令官はヴァイツ(Weiz)という鎧の妖魔だった。

戦乱は狂気を帯びて行った。

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