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アヤナウチテ  ~妖討手~  作者: 野原 ヒロユキ
~金剛寺 羅道編~
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ガシャドクロ

Fantasie ist wichtiger als Wissen.


空想は知識より重要だ。

               アインシュタイン。


澄空市すみそらしの夜――。

町の中ではガイコツの半身をした、灰色の怪物が暴れていた。

この世界にはこのような怪物たちが存在している。

それを我々は『妖魔ようま』と呼んでいる。

この妖魔には名前があった。

それは『ガシャドクロ』。

最近になって澄空市で夜に活動している妖魔であった。

この妖魔による被害は大きく、もはや放置は許されなかった。

「くっ!? こいつ! 手ごわいぞ!」

クリストファーが顔を歪める。

彼はチーム『イナズマ』のリーダーだ。

クリストファーは茶色の髪に白い鎧、赤いマントをつけていた。

彼が指揮するチーム『イナズマ』は目下ガシャドクロと戦っていた。

彼のチームは四人メンバーで、剣士のクリストファー、戦士のアシュトン、武道家のハサン、そして治癒師のヒナノで構成されていた。

「うおおおおりゃああああ!」

ハサンが拳でガシャドクロの額を打ちつける。

ガシャドクロはガードもせずにまともにハサンの拳を受けた。

「へっ! こんな奴! ぶっ飛ばしてやるぜ!」

ハサンはさらなる追撃を試みようとした。

ガシャドクロの目が光る。

「ハサン! 後退しろ!」

アシュトンがハサンに声を送る。

ハサンはとっさにバックステップで後退していた。

ハサンがいたところをガシャドクロの鋭い爪が走った。

「くうっ!? この野郎!」

「ハサン、大丈夫?」

ヒナノがハサンに近寄る。

ハサンの傷は軽い。

ガシャドクロの爪がかすった程度だ。

だが、だからといってこのまま放置すると悪化しそうだ。

ヒナノは回復の霊術れいじゅつを唱える。

ハサンの傷がみるみる治っていく。

これは霊的な力による癒しだった。

霊術と魔法は似ているが異なる。

霊術はおもに霊力を消費して、ふしぎな効果を引き起こす。

それに対して、魔法は魔力を使ってふしぎな効果を発揮する。

「助かったぜ、さすがだな、ヒナノ! ありがとよ!」

ハサンは筋肉ムキムキのマッチョだった。

この筋肉はハサンの自慢だった。

「このくらい、当然ですよ」

くすっと、ヒナノが笑う。

チーム『イナズマ』は国際色豊かだった。

「行くぞ! トルネード・スラッシュ!」

アシュトンが自慢の双剣で軽いが鋭い竜巻を巻き起こす。

ガシャドクロは直撃は危険と判断したのか、片手で身構える。

アシュトンの攻撃はガシャドクロの腕を粉砕した。

「どうだ!」

アシュトンが双剣で構える。

だが、恐るべきことに、ガシャドクロの腕は灰色の炎が起こると、再生していた。

「何だと!? 再生したのか!?」

アシュトンが驚きの顔を浮かべる。

アシュトンは一流の戦士だ。

彼の攻撃は軽くない。

そんな彼の攻撃を受け止めるなどそう簡単にできることではない。

ガシャドクロが大きく右手を振りかぶってきた。

鋭い爪が振り下ろされる。

アシュトンは双剣を交差させてガードした。

「ぐうっ!?」

アシュトンはガシャドクロの膂力にうめく。

「アシュトン! はああああ! ホーリーセイバー!」

その時、クリストファーが動いた。

長剣を構えて刺突を繰り出す。

聖なる光の剣がガシャドクロを貫いた、かに見えた。

「なっ!?」

ガシャドクロはホーリーセイバーを手でつかんでいた。

ガシャドクロの手から闇があふれる。

闇はホーリーセイバーの光をかき消した。

「そんなっ!?」

クリストファーが呆然とした。

ホーリーセイバーはそれほど弱くない。

中級クラスの妖魔なら一撃で倒せる。

クリストファーはそのまま長剣ごとガシャドクロによって投げ捨てられた。

「うわあああああ!?」

「クリス!? こんの野郎!」

ハサンは今度は霊気をまとってガシャドクロを殴りつけた。

ハサンはただ、打撃するだけが取り柄なのではない。

こうした、霊気と武道との合体攻撃こそ、ハサンの得意とするところだった。

さすがにこの攻撃はガシャドクロもひるんだ。

その隙を逃すアシュトンではない。

アシュトンは剣を交差させてクロスブレイクを放った。

「はっ!」

ガシャドクロの顔に傷ができる。

ガシャドクロは怒りの顔を見せた。

自分への不遜な攻撃は許さないとでも言いたそうだ。

ガシャドクロがクリストファーたちをにらみつける。

ガシャドクロは両手で炎の列を起こした。

灰色の炎が一直線に道路を駆け抜ける。

クリストファーたちは左右に割れた。

「くううう!? なんて炎だ! あんなのくらったらひとたまりもないぞ!」

クリストファーはぞっとした。

仲間はみんな無事だった。

クリストファーはこれほど命をかけた戦いは知らない。

彼らは外国から日本にやってきた。

現在、日本は『光と闇の戦い』の最前線に当たる。

そのため、猛者が日本を目指してやってくるのだ。

戦士は戦うことが本義。

クリストファーたちもそんな戦士たちの一団だった。

「アシュトン、ハサン! ガシャドクロを抑えてくれ! 俺が最強の技で決める!」

「わかった!」

「ああ、いいぜ!」

アシュトンとハサンは二人でガシャドクロに攻撃をかけた。

二人にはどこか余裕がある。

この二人はクリストファーを信頼している。

クリストファーなら、必ず、決めてくれると思っているのだ。

さすがのガシャドクロも二人の歴戦の戦士の攻撃はしのぎきれないようで、一方的にやり込められていく。

「今だ! 二人とも! 離れてくれ!」

「待ってたぜ!」

「フッ!」

アシュトンとハサンが後退する。

その前には隙だらけのガシャドクロがいた。

このチャンスを狙わない手はない。

「はああああああ! グランドホーリースラッシュ!」

クリストファーが持っている剣が白く輝いた。

白い輝きは斬撃となり、ガシャドクロを押していく。

これはクリストファーの最強技だった。

これ以上の攻撃はクリストファーにはできない。

ガシャドクロは両手で白い斬撃を受け止めた。

だが、徐々に押されていく。

ガシャドクロはそのまま白い斬撃に斬り裂かれた。

「よし! やったぞ!」

クリストファーは早くも勝利を宣言した。

通常ならガシャドクロはこのまま粒子化して消えるはずだ。

だが、いっこうにそうならない。

ハサンが不審に思った。

「おい、何かおかしい!」

ハサンが警告したのが遅かった。

ガシャドクロの肋骨が伸びて、アシュトンとハサンを襲った。

「くおおおおお!?」

「がああああああ!?」

二人とも後退したが、ガシャドクロの攻撃を回避しきれなかった。

「アシュトン! ハサン!」

ヒナノが二人に近づく。

「くっ!? 俺の攻撃でもびくともしないのか!? このままでは……」

このままではチームは全滅だろう。

クリストファーの頭に全滅の二文字がちらついた。

そんな時である。

ガシャドクロは背を向けると、そのまま消え去っていった。

「これは……どうしたんだ?」

後には呆然としたクリストファーが立ったまま残された。

からくも、クリストファーたちは生き延びた。



ある男がクリストファーとの戦いを見ていた。

ふむ……四人のチームか……戦闘能力的には悪くない。

アタッカーが三人と、攻撃重視のチームのようだ。

それにガシャドクロには光の攻撃が有効だ。

ガシャドクロは光属性に弱い。

あの中では茶髪の剣士が危険な相手か。

彼はそれを理解すると、ガシャドクロに茶髪の剣士を注意するよう指示を出した。

ガシャドクロは操られていた。

彼らは仲間を守るように戦う。

実に美しい。

だが、それは幻想だ。

仲間などというものは信用できない。

いつ、なんどき、くだらない理由で空中分解するものだ。

彼はガシャドクロを操って、そんな仲間たちをいくつも葬ってきた。

今度のチームも同じ末路をたどるだろう。

そう思っていたが、なかなか今度のチームはできるようだ。

個々の実力も、チームワークも実に見事だった。

ガシャドクロも無敵ではない。

貴重な手駒がやられるのは惜しい。

今夜はここまでとすべきだろう。

彼はガシャドクロを撤退させた。

夜の中、茶髪の剣士が立っていた。

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