表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「恋じゃないけど、隣にいてほしいの」

「砂に書いたの、見てたくせに」

作者: 七星ぺろり

【おはなしにでてるひと】

瑞木 陽葵みずき・ひより

朝の公園、砂場にひとりでしゃがんで文字を書いていた。

書いた文字は、すぐに風で消えそうなくらい軽くて、でも気持ちはそこに残る。

――「今日もがんばれ」って書いたのに、最初に読んだのは、たぶん彼だった。


荻野目 おぎのめ・れん

気がついたら、砂場の隅で砂の城を作っていた。

別に競ってたわけじゃないけど、陽葵の視線には気づいてた。

――「たまには俺の方が先に動いてみるか」って、朝の思いつき。


【こんかいのおはなし】

朝。

土曜の空気は、ちょっとゆるくて、すこしだけ自由。

公園の砂場にしゃがんで、陽葵は指で砂をなぞる。


「今日もがんばれ」


書いたその文字は、ちょっと揺れてて、なんか自分の心みたいだった。

風が、ふわっと吹いた。


……あっ。

見たら、隣の端っこで蓮が黙々と、なにかを積み上げてる。


「なにそれ」


「見てわかんない? 砂の城」


「えっ、めっちゃちゃんとしてるじゃん! てか、いつの間に!?」


「集中するとまわり見えなくなるタイプだよね」


「む……それは……正解だけど!」


立ち上がって、ちょっと砂を握る。


「なんか悔しいなー」


「なんで」


「だって、わたしが先に来てたのに、作品の完成度で負けてるの、くやしい!」


「対抗心、出るとこそこなんだ」


「わたしもつくるー!」


言って、向かい側に座る。


「なにつくるの?」


「秘密」


「へー。楽しみにしとく」


砂の上にちょっとずつ形を描き始める。

丸くて、屋根っぽくて、小さな階段がついてて。


「……なんかこれ、神社っぽいな」


「はは。砂の神様、住んでそう」


「ご利益ありそうじゃない?」


「たぶん“笑顔成就”とかだな」


「ちょ、それ最高じゃん……」


ふたりで、ちいさな城とちいさな神社を見合った。


「写真、撮っとく?」


「うん」


パシャ。

スマホのなかに、朝の時間が封じ込められた。


「……砂って、すぐくずれるのに」


「だから、覚えてるんだろ」


「……だね」


笑って、もう一度、自分の指で砂をなぞる。

今度は、こんな文字を書いた。


「ありがとう」


読まれたのは、風が吹く直前だった。


【あとがき】

砂場って、消えていくものを愛でる場所だなって思うんです。

陽葵と蓮が、何気ない朝に“形にならない想い”を共有する。

そういう時間こそ、ずっと心に残っていくのかもしれません。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ