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どうしましょう。
わたしのせいで、レイさんの魔力がなくなってしまったのね。
目の前で憮然とするレイさんとストなんとかさんを見て、申し訳なさが込み上げてくる。困惑と心配でおろおろしていると、アルなんとかさんが朗らかに笑った。
「そんなに心配しなくても、なんとかなるって」
「えっ……?」
彼は人懐こい笑みを浮かべて、こちらを覗き込むように首をかしげた。
見れば見るほどコロ兵衛に似ていて、頭の犬耳を触らせてはもらえないかしら、などとつい邪なことを考えてしまう。
いけないわ、と首を振ったところで、アルなんとかさんが自己紹介をしてくれた。
「俺、アルフォル・レガルゼス。見て分かると思うけど、獣人種の狼人族」
狼人間のようなものかしら。
柴犬と同一視したことを少し申し訳なく思っていると、今度は彼が訊いてきた。
「きみは? タキマツセンセーでいいの?」
「滝松というのはペンネームなんですのよ」
「ペンネーム?」
「世を忍ぶ仮の名前でございます」
「おおっ、かっけー!!」
目を輝かせる彼につられて、わたしも思わず微笑んだ。
「うふふ。本名は黒滝まつ江と申します。よろしくお願いいたします」
膝の前で手を揃えてお辞儀をすると、アルなんとかさんは慌てたように両手を振った。
「わわっ、そんなにかしこまらないでよ!」
「ええと……。アル、アルフォンス・レゴデスさん?」
「アルフォル・レガルゼス! アルって呼んで。あっちはストラな」
「ごめんなさいねぇ。年寄りはカタカナに弱いんですよ」
「年寄りって……。まつ江ちゃん、何歳なの?」
あらまあ。まつ江ちゃん、なんて呼ばれるのは何年ぶりでしょう。
妙にくすぐったくてつい頬が緩んでしまうけれど、年齢を言うのはちょっと恥ずかしいわね。
「享年は八十八ですが、満年齢は八十七ですよ」
「それって人族の年齢だよな? 魔族でいうと──」
指折り数えたアルさんがピタリと動きを止める。そして、犬歯を剥き出して驚愕の表情で振り返った。
「九百歳!? すげーババアじゃん!! どうりで年寄り臭い話し方すると思った!!」
「アルフォル!! 先生に失礼なことを言うんじゃない!!」
レイさんの鋭い叱責に、アルさんは肩をすくめて犬耳を伏せる。
「いいんですよ。立派なババアですからね」
「いや、その見た目で言われても……」
アルさんが複雑そうな顔で呟いた。
そんなやりとりの中、レイさんが改めて真剣な表情になった。
「さぁ、事情が分かったのなら、お前たちからも先生にお願いしてくれ」
「私は承服しておりません」
ストラさんがきっぱりと言い放つ。対照的に、アルさんはにこにこと笑いながら言った。
「俺は読みたいな! 続き描いてよ、まつ江ちゃん!」
「先生、いかがでしょうか!?」
レイさんが食い入るような視線で訴えてくる。
わたしは、ぎゅっと拳を握りしめた。
「ごめんなさい、漫画の続きは……描けません!!」