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「いわゆる、異世界転生ということかしら……?」
「そう考えていただいて差し支えございません」
「あらまあ! 曾孫がね、転生モノ大好きなのよ。聞いたら喜ぶでしょうねぇ」
つい浮かれてしまったものの、はたと気がつく。
「ということは、おじいさんには会えないのかしら」
「申し訳ございません……」
レイさんが申し訳なさそうに目を伏せた。
「そう……」
失望、とまではいかないものの、やはり寂しさが胸をよぎった。
けれど、生来の好奇心旺盛な性格もあって、未知の世界への興味がじわじわと湧いてくる。
「まあ、生き返ったようなものですからね。それに、こんなに若返るなんて、なんだか得した気分だわ」
「先生……」
明るく笑ってみせると、レイさんはほっとしたようだった。
「レイヴィダス様。私にも分かるようにご説明いただけますか」
爬虫類を思わせる鋭い瞳を細め、ストなんとかさんがレイさんに問いかける。魔王であるレイさんにこうもハッキリ物申すということは、地位の高い方なのかしら。
そういえば、着ているローブのような服も仕立てが良さそうだし、立ち振る舞いもどこか洗練されている。
「そうだな、お前たちにも紹介しなくては。こちら、漫画家の滝松黒江先生だ!」
「漫画家ってあれか? レイの持ってる本! あれを描いたやつなのか!?」
犬耳の青年が、耳をピンと立ててこちらを振り返った。尻尾があればブンブン振っていそうな表情だ。
なんだか、昔飼っていた柴犬のコロ兵衛を思い出す。コロコロしているからコロ兵衛。名付けたのは光一だったかしら──って、それどころではないのだったわ。
「あの本は、異世界の物ではありませんでしたか?」
ストなんとかさんが、ちらりとこちらを見た。表情から察するに、この事態を快くは思っていないようだ。
「つまり、異世界よりすでに亡き漫画家とやらの魂を召喚したあげく、人工精霊に転移させた、と。先程の膨大な魔力はその儀式によるものですね?」
レイさんは無言のまま、グッと親指を立てた。サムズアップというやつね。
「変なポーズしないでください腹立たしい」
ストなんとかさんが低い声で吐き捨てる。
魔王さま相手にそんな態度で大丈夫なのかしら、と他人事ながらヒヤヒヤするものの、レイさんは気にした素振りもない。きっと風通しの良い職場なのね。
「しかし、転移か転生か、ジャンル分けが難しいところですね、先生!」
「えっ? え、ええ……」
「最近では召喚モノも別枠のようですし……」
「本当によくご存知ですのね」
「異世界の漫画が大好きなんです!」
レイさんは屈託なく笑った。
「特に先生の作品はデビュー当時からファンで、全部持ってます!!」
「まあ……」
まさか異世界にまで読者がいるとは思わなかった。
しかしどうやって入手したのかしら。まさか取り次ぎを介して仕入れているわけではないでしょうし、出版社と直接取引──は、もっとあり得ないわね。
わたしの魂を喚びよせるくらいだから、漫画本を召喚するくらい、レイさんには朝飯前なのかしら。
なんてことを考えていると、レイさんが表情を引き締めた。
「──先生、改めてお願いします。『恋手帖』の続きを描いてください!!」