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「わたしはこの後どうなるのでしょう? できれば、おじいさん──光太朗さんの待っている天国に行きたいのですけれど」
応接室のような部屋へ案内され、レイさんが手ずから淹れてくださったお茶を飲んでほっと一息。
落ち着いたところで、わたしが希望を口にすると、レイさんは長椅子から飛び降りて、勢いよく膝をついた。
「先生!!」
「レイさん!?」
立派な角が絨毯を裂き、床に突き刺さりそうなほど深く頭を下げる。
「お願いします! ここ魔界で『異類恋手帖』の続きを執筆してください!!」
「えっ……?」
「先生の未完の大作を、どうか完結させてください! 物語の結末を見届けたいのです!!」
「あら、まあ……」
あまりに意外な申し出に呆気にとられ、レイさんの後頭部をただただ見つめていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。
「レイヴィダス様!!」
「レイっ!!」
バンッと扉を破るような音がして、藍白の髪をした壮年の男性と、頭に赤銅色の犬耳の生えた青年が飛び込んできた。
「儀式の間より、膨大な魔力の波動を感知いたしましたが、何事で──」
壮年の男性が、ずれた片眼鏡をかけ直しながらこちらを見て動きを止めた。
「お邪魔いたしております」
ぺこりと会釈をすると、途端に彼の顔色が変わる。
「その人工精霊はなんです!?」
「騒々しいぞ、ストラスール」
ストなんとか、と呼ばれた男性が言葉に詰まっている横で、犬耳の青年が引き気味の表情をみせる。
「レイ、お前ロリコンだったのか」
「違う。失礼なことを言うな」
こんな年寄りを捕まえて、ロリコンとはどういうことでしょう。
「お兄さん、それを言うなら枯れ専──ではないかしら」
「はあ?」
犬耳の青年が眉をひそめ、窓のほうへと顎をしゃくった。
促されるままに視線を向けると、窓ガラスに、小柄な少女の姿が反射して映る。
年齢は曾孫より少し上、十代半ばくらいかしら。
大きな丸い瞳が、じっとこちらを見返している。
透き通るような羽二重の頬に、形の良い桃色の唇。着ているものは入院着のように簡素なのに、藤色の髪がくるくると縦ロールのツインテールに結われていて、とても華やかな印象だ。
「えっ……?」
窓に映る少女が、大きな目をさらに大きく見開いた。
もしかして、窓に映る少女はわたし──なのかしら。
「レイさん、大変! わたし、どなたかの身体に取り憑いてしまっているみたい!!」
「大丈夫です、先生」
レイさんは背をかがめて、わたしの両肩に手を置いた。
「先生のそのお身体は、人工培養で生み出した人工精霊という器です」
「人工精霊……?」
孫が持っていた漫画で見たことがあるような、ないような。
いやだわ、この歳になるとなにを読んでもすぐに忘れてしまって、思い出すのに時間がかかる。
「先生の本来のお身体は、耐用年数を超えていらっしゃいました。そのため、魔界にお喚びするにあたり、誠に勝手ながら人工精霊へ先生の魂を移動させていただいたのです」
「それって」
つまり────