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3

「わたしはこの後どうなるのでしょう? できれば、おじいさん──光太朗さんの待っている天国に行きたいのですけれど」


 応接室のような部屋へ案内され、レイさんが手ずから淹れてくださったお茶を飲んでほっと一息。

 落ち着いたところで、わたしが希望を口にすると、レイさんは長椅子から飛び降りて、勢いよく膝をついた。


「先生!!」

「レイさん!?」


 立派な角が絨毯を裂き、床に突き刺さりそうなほど深く頭を下げる。


「お願いします! ここ魔界で『異類恋手帖』の続きを執筆してください!!」

「えっ……?」

「先生の未完の大作を、どうか完結させてください! 物語の結末を見届けたいのです!!」

「あら、まあ……」


 あまりに意外な申し出に呆気にとられ、レイさんの後頭部をただただ見つめていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。


「レイヴィダス様!!」

「レイっ!!」


 バンッと扉を破るような音がして、藍白の髪をした壮年の男性と、頭に赤銅色の犬耳の生えた青年が飛び込んできた。


「儀式の間より、膨大な魔力の波動を感知いたしましたが、何事で──」


 壮年の男性が、ずれた片眼鏡(モノクル)をかけ直しながらこちらを見て動きを止めた。


「お邪魔いたしております」


 ぺこりと会釈をすると、途端に彼の顔色が変わる。


「その人工精霊(ホムンクルス)はなんです!?」

「騒々しいぞ、ストラスール」


 ストなんとか、と呼ばれた男性が言葉に詰まっている横で、犬耳の青年が引き気味の表情をみせる。


「レイ、お前ロリコンだったのか」

「違う。失礼なことを言うな」


 こんな年寄りを捕まえて、ロリコンとはどういうことでしょう。


「お兄さん、それを言うなら枯れ専──ではないかしら」

「はあ?」


 犬耳の青年が眉をひそめ、窓のほうへと顎をしゃくった。

 促されるままに視線を向けると、窓ガラスに、小柄な少女の姿が反射して映る。

 年齢は曾孫より少し上、十代半ばくらいかしら。

 大きな丸い瞳が、じっとこちらを見返している。

 透き通るような羽二重の頬に、形の良い桃色の唇。着ているものは入院着のように簡素なのに、藤色の髪がくるくると縦ロールのツインテールに結われていて、とても華やかな印象だ。


「えっ……?」


 窓に映る少女が、大きな目をさらに大きく見開いた。

 もしかして、窓に映る少女はわたし──なのかしら。


「レイさん、大変! わたし、どなたかの身体に取り憑いてしまっているみたい!!」

「大丈夫です、先生」


 レイさんは背をかがめて、わたしの両肩に手を置いた。


「先生のそのお身体は、人工培養で生み出した人工精霊(ホムンクルス)という器です」

人工精霊(ホムンクルス)……?」


 孫が持っていた漫画で見たことがあるような、ないような。

 いやだわ、この歳になるとなにを読んでもすぐに忘れてしまって、思い出すのに時間がかかる。


「先生の本来のお身体は、耐用年数を超えていらっしゃいました。そのため、魔界にお喚びするにあたり、誠に勝手ながら人工精霊(ホムンクルス)へ先生の魂を移動させていただいたのです」

「それって」


 つまり────

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