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「──っせい!!」


 鋭く振り抜かれた剣身が、光の玉に衝突した。

 刹那、空気がビリビリと震え、まばゆい閃光が爆ぜる。わたしの放った光の玉は弾け飛び、そのまま中空で霧散した。


「よかった……」


 アルさんの無事を確認して、ほっと胸をなで下ろした、その瞬間。

 チリッ、と左頬をなにかがかすめた。熱いような、痛いような、どちらともつかない衝撃に、一瞬、思考が停止する。


「……っ」


 遅れてやってきた頬の鋭い痛みに驚いて手をやると、ぬるりとした感触が伝わった。

 遠くから、リアの悲鳴が聞こえた。同時に、駆け寄ってくる複数の足音。その音に合わせるように、どくん、どくんと心臓が速くなる。


「クロエちゃん!!」

「クロエ様!!」


 次の瞬間、ぐっと誰かに引き寄せられた。


「先生、失礼します!!」


 声と同時に、顎をぐいっと持ち上げられる。

 気がつけば、レイさんの端正な顔がごく近くにあった。


「あ……」


 呆けたまま目を合わせると、彼の表情は驚くほど険しく、眉間には深い皺が刻まれている。その手はわずかに震えていた。


「早く止血しないと」


 どうやら、打ち返された魔力の残滓が飛んできて、わたしの頬を切り裂いたらしい。

 レイさんは上着の内ポケットから、白い布を取り出した。金糸で刺繍が施された、高価そうなハンカチだ。


「それ……」

「じっとしていてください」


 そんなもの使ってはもったいない、と言う間もなく、レイさんはそのハンカチをそっとわたしの頬に押し当てた。


「うっ……」

「すみません、少しだけ我慢を」


 レイさんの真剣な眼差しに、わたしは一瞬、痛みも、息をするのも忘れそうになった。

 怪我をしたわたしよりも痛そうな顔で、レイさんが言う。


「私のせいで、申し訳ございません」

「どうしてレイさんが謝るの」


 こうなったのは、わたしが魔力をうまく操れないからであって、彼のせいではないというのに。

 けれど、レイさんは静かに首を振った。


「私が魔力を失わなければ、こんなことには……」

「レイさん……」


 わたしが言葉を探していると、凛とした声が割って入った。


「おどきになって!!」


 青ざめた顔の男性陣をかき分けて、そのままレイさんを突き飛ばしたリアが、わたしの前に勢いよく躍り出た。


「リア……」

「大丈夫ですからね、クロエ」


 彼女はそっとわたしの顎に手を添えると、頬に唇を近づけてきた。


「え!? ちょっ……」

慈しみの光よ(ラーフィナ・ルミエ)


 触れるか触れないかのところで何事かを呟くと、ひんやりとした感覚が肌に伝わり、熱を持っていた患部に染み込んでいった。痛みがスーッと引いていく。


「……気持ちいい」

「回復魔法ですわ。傷も残っておりませんから、安心なさって」

「すごいのねぇ」


 口吻でもされるのかと身構えてしまった自分が恥ずかしい。

 そんなわたしの様子を見て取ったのか、リアは唇に指先を当てて、風に乗せるような仕草でキスを投げてきた。


「ふふっ。期待しました?」

「もうっ、リア!」

「先生っ!!」


 わたしたちのやり取りを遮るように、レイさんが再び割り込んできた。

 わたしの肩を掴むと、ぐっと顔を近付けてくる。


「先生! 痛みは大丈夫ですか!? 視界がぼやけたり、めまいなどは!? ……ああ、まだ少し頬が赤い。リディア、先生は本当に大丈夫なんだろうな!?」

「あら。わたくしの治療では信用なりませんか?」

「そういうわけでは……」


 レイさんがへどもどとわたしの肩から手を離した途端、今度はアルさんが飛び付いてきた。


「クロエちゃ〜ん!!」

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