28
レイさんがちょこんとレジャーシートに収まるのを見届けてから振り返ると、アルさんが声をかけてきた。
「クロエちゃん、いけそ?」
「……はい、多分」
「多分じゃないのよ〜」
冗談めかして肩をすくめたアルさんの後ろから、整地を終えたストラさんが静かに近付いてくる。
「まずは、魔力の塊を作ってみましょう」
「魔力の塊?」
すっと差し出されたストラさんのてのひらの上に、みかんくらいの大きさの光の玉が浮かびあがった。緩やかに明滅しているけれど、輪郭ははっきりしている。
「これを、こうです」
そう言って、ストラさんは光の玉を無造作に放り投げた。ぽいっと放たれたそれは、油断していたアルさんの太股に命中し、バチッと小さな火花を散らす。
「痛ッ!!」
「──このように、魔法を的に当てる訓練です」
「ちょっと、地味に痛いんだけど!?」
脚をさすりながら喚くアルさんを無視して、ストラさんは説明を続ける。
「本番では的が動き回るので、よく狙いを定めてくださいね」
「大丈夫なの……?」
「この程度の魔力でしたら怪我はしません。静電気の放電みたいなものです。さあ、やってみましょう」
わたしは深呼吸を一つして、てのひらに魔力を集中させた。
アルさんに怪我をさせないよう、慎重に、できるだけ魔力の出力を絞る。
「どんな形か、どんな魔法か、具体的に想像してください」
ストラさんの助言に軽く頷く。
的当てと聞いて、わたしの頭の中には、縁日の屋台でよく見かける射的が思い浮かんでいた。的を狙ってコルク銃を撃つ感覚を、そのまま魔法に変換できないかと想像してみる。
眉間にしわを寄せながら考え込んでいると、横から茶々が飛んできた。
「クロエちゃん、まーた便秘の顔になってる」
「アルさんうるさ──」
その瞬間、わたしのてのひらからバンッとなにかが発射され、驚くべき速さでまっすぐ上空へ飛んでいった。
「……俺のこと殺す気か!?」
「い、今のはアルさんが邪魔したからっ」
ぞっとした顔のアルさんに言い返していると、ストラさんから冷静な指摘が入る。
「クロエ様、もう少し威力を落としていただけますでしょうか」
「……はい」
銃をイメージしたのがよくなかったのだろう。
気を取り直して、わたしは再びてのひらに集中した。
今度こそ球体を作ろうと思い浮かべたのは、卓球の球。あれなら丁度いい大きさだ。
「いでよ、ピンポン球……」
「ピンポン球ってなに」
怪訝そうに呟いたアルさんを、ストラさんがしっと言って黙らせる。
集中がきれないように意識しながら、てのひらの上に球体をイメージして魔力をこめる。すると、徐々にオレンジ色の光が集まり、やがて丸みを帯びた揺らめく玉が形成された。
ストラさんの目配せに、アルさんがぱっと走ってわたしから距離を取る。
「よーし、いつでも来い!」
アルさんの合図を受け、わたしは野球のピッチャーよろしく右腕を大きく振りかぶった。
「えいっ!」
もっさりとした投球フォームから繰り出された光の玉は、徐々に加速して威力を増し、そのままあらぬ方向に飛んでいった──かと思いきや、中空で突然カクンと角度を変え、まるで砲弾のように、アルさん目掛けて飛んでいく。
「げっ!!」
「アルさん避けて!!」
ゴウッと激しい音を立てて宙を走る光の玉は、当たれば怪我では済まない勢いだ。
アルさんが咄嗟に剣を抜いた。