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 レイさんがちょこんとレジャーシートに収まるのを見届けてから振り返ると、アルさんが声をかけてきた。


「クロエちゃん、いけそ?」

「……はい、多分」

「多分じゃないのよ〜」


 冗談めかして肩をすくめたアルさんの後ろから、整地を終えたストラさんが静かに近付いてくる。


「まずは、魔力の塊を作ってみましょう」

「魔力の塊?」


 すっと差し出されたストラさんのてのひらの上に、みかんくらいの大きさの光の玉が浮かびあがった。緩やかに明滅しているけれど、輪郭ははっきりしている。


「これを、こうです」


 そう言って、ストラさんは光の玉を無造作に放り投げた。ぽいっと放たれたそれは、油断していたアルさんの太股に命中し、バチッと小さな火花を散らす。


「痛ッ!!」

「──このように、魔法を(アルフォル)に当てる訓練です」

「ちょっと、地味に痛いんだけど!?」


 脚をさすりながら喚くアルさんを無視して、ストラさんは説明を続ける。


「本番では的が動き回るので、よく狙いを定めてくださいね」

「大丈夫なの……?」

「この程度の魔力でしたら怪我はしません。静電気の放電みたいなものです。さあ、やってみましょう」


 わたしは深呼吸を一つして、てのひらに魔力を集中させた。

 アルさんに怪我をさせないよう、慎重に、できるだけ魔力の出力を絞る。


「どんな形か、どんな魔法か、具体的に想像してください」


 ストラさんの助言に軽く頷く。

 的当てと聞いて、わたしの頭の中には、縁日の屋台でよく見かける射的が思い浮かんでいた。的を狙ってコルク銃を撃つ感覚を、そのまま魔法に変換できないかと想像してみる。

 眉間にしわを寄せながら考え込んでいると、横から茶々が飛んできた。


「クロエちゃん、まーた便秘の顔になってる」

「アルさんうるさ──」


 その瞬間、わたしのてのひらからバンッとなにかが発射され、驚くべき速さでまっすぐ上空へ飛んでいった。


「……俺のこと殺す気か!?」

「い、今のはアルさんが邪魔したからっ」


 ぞっとした顔のアルさんに言い返していると、ストラさんから冷静な指摘が入る。


「クロエ様、もう少し威力を落としていただけますでしょうか」

「……はい」


 銃をイメージしたのがよくなかったのだろう。

 気を取り直して、わたしは再びてのひらに集中した。

 今度こそ球体を作ろうと思い浮かべたのは、卓球の球。あれなら丁度いい大きさだ。


「いでよ、ピンポン球……」

「ピンポン球ってなに」


 怪訝そうに呟いたアルさんを、ストラさんがしっと言って黙らせる。

 集中がきれないように意識しながら、てのひらの上に球体をイメージして魔力をこめる。すると、徐々にオレンジ色の光が集まり、やがて丸みを帯びた揺らめく玉が形成された。

 ストラさんの目配せに、アルさんがぱっと走ってわたしから距離を取る。


「よーし、いつでも来い!」


 アルさんの合図を受け、わたしは野球のピッチャーよろしく右腕を大きく振りかぶった。


「えいっ!」


 もっさりとした投球フォームから繰り出された光の玉は、徐々に加速して威力を増し、そのままあらぬ方向に飛んでいった──かと思いきや、中空で突然カクンと角度を変え、まるで砲弾のように、アルさん目掛けて飛んでいく。


「げっ!!」

「アルさん避けて!!」


 ゴウッと激しい音を立てて宙を走る光の玉は、当たれば怪我では済まない勢いだ。

 アルさんが咄嗟に剣を抜いた。

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