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「……想像以上の威力ですね」
「すっ、すみません!」
ストラさんが裾を軽くはたいた。見れば、彼の足元ギリギリまで土が抉れた跡が走っている。
つるはしで地面を掘るようなイメージをしたのに、現れたのは落雷のような魔法だった。想像力が足りていないのかと少しショックを受けてしまう。
そこへレイさんが駆け寄ってきて、ぴたっとわたしの正面に立ちはだかった。
「先生、ご無事ですか!? お怪我は!?」
「ちょっと手がビリビリするけど、大丈夫です」
「手がビリビリ!?」
レイさんがぎょっとした顔でわたしの手をすくい上げる。
「もう止めましょう! 怪我でもしたら大変です!!」
「でも……」
ちら、とストラさんを見上げると、首を振って肩をすくめた。
「魔力を制御できない状態で鬼人領へ赴く方がよほど危険です。しかし、これほどの威力となると、どう教えたものか……」
「いっそ実戦訓練にしたらどうだ?」
草むらに寝転がっていたアルさんが、思いついたように言った。
「このまま練習しても、本人の感覚が追いつかないだろ。だったら、模擬戦でもした方がよっぽどコツが掴めるんじゃね?」
「それはあなただけでしょう。……ですが、そうですね。訓練内容をより具体的にした方がよさそうです」
ストラさんは、ちょいちょいと指先でアルさんを呼んだ。
「あなた、クロエ様の的になりなさい」
「はあぁ!?」
「ええっ!?」
アルさんが勢いよく跳ね起きる。
わたしも同じくらいの勢いでストラさんを見上げた。
「模擬戦ではなく、動く的に魔法を当てる操作性の訓練にしましょう」
「当てる、って……」
さきほど自分があけた穴を振り返る。あんな魔法がアルさんに当たったら、大怪我では済まないのでは。
そんなわたしの考えを読んだように、ストラさんは微笑んだ。
「魔法の出力を調整する訓練も兼ねています。アルフォルに怪我をさせないよう、制御してみてください」
「無茶ですよ!」
「アルフォルは頑丈ですから、少しくらい威力を間違えても問題ありません」
「問題あるよ! あんなん当たったら再起不能だわ!!」
ぶつぶつ文句を言いながらも、アルさんは肩を回したり屈伸したりと、準備運動を始めた。なんだかんだ言いつつも引き受けてくれるらしい。
みんながこうして協力してくれるのだから、怖がってばかりではいられない。わたしもちゃんと、自分の魔力と向き合わなくては。
「リディア、少し手を貸してくれ」
「はぁい」
ストラさんの呼びかけに、リアが軽やかな足取りでやって来た。
二人は並んで魔法を使い、抉れた地面を元に戻し始めた。土がふわりと舞い上がって、自然と形を整えていく。
レイさんはその横で、落ち着かない様子でそわそわしていた。
「私もなにか手伝いたいのだが、アルフォルとともに的になるのはどうだろうか」
「レイヴィダス様はおとなしくしていてください。スライム以下のあなたが被弾すれば、それこそ消し炭になりますよ」
「消しっ……」
ストラさんにピシャリと言われて、レイさんの顔が凍りつく。
「……私は向こうで見学している。先生、くれぐれもご無理なさらないでくださいね」
「ええ、分かりました」
レイさんはしょんぼりと肩を落としてレジャーシートに戻っていった。
その背中には、ほんのりと哀愁が漂っていた。