15
「レイさん大変っ!!」
「レイヴィダス様!!」
わたしとストラさんがレイさんの私室へ駆け込むと、そこには一糸纏わぬ姿のレイさんが立っていた。
堂々たる全裸。その身体は意外にも逞しく、しなやかな筋肉に覆われていて、まるで美しい彫刻のようだった。
「キャ────ッ!!」
レイさんが要所を隠して大声で叫んだ。
「せんっ……!? スト、ちょっ、え!? なに!?」
ジタバタと後退り、カーテンの後ろへ隠れるように潜り込んだレイさんは、カーテン布を無理矢理引き寄せて身体を隠すと、顔だけひょこりと覗かせた。少しだけ尖っている耳が、先まで真っ赤に染まっている。
「……二人揃って、何事ですか?」
「ごめんなさい、お着替え中でしたのね」
「お目汚し大変失礼いたしました。レイヴィダス様は就寝時に全裸になることを失念しておりました」
ストラさんが真顔のまま丁寧に頭を下げる。
「余計なこと言うなーッ!!」
レイさんが身を乗り出した勢いで、カーテンがビリッと音を立てて裂けた。
「ギャー!!」
「ああもう、なにやってるんですか」
ストラさんは自身のローブを脱いでレイさんの肩にかけると、前をきっちりと重ねて身体を隠した。
月白色の布に流れる白銀の髪が神秘的で、却って目が引き寄せられてしまいそうだ。
「洗って返してくださいね」
「お前……」
レイさんはローブをしっかりと押さえながら咳払いすると、ようやく声を落ち着かせた。
「……それで、そんなに慌ててどうしたんです?」
平静を装っているようだけれど、視線が合わない。
それでも、話を聞く体勢なのが分かって、わたしはストラさんと目配せしてからレイさんに向き直った。
「わたしとストラさん、主従契約を結んでしまったようなんです」
「…………はい?」
レイさんはぽかんとしてストラさんを振り返った。まばたきすら忘れたようにじっと見つめる。
「本当なのか、ストラスール?」
「ええ、間違いありません」
「貴様、なにを考えている!」
「違うんです! ……わたしが、ストラさんを服従させてしまったんです」
「ふくじゅ……」
口を開けたまま固まっているレイさんを尻目に、ストラさんが渋い顔で訂正を求めた。
「せめて従属と言っていただけませんか」
「そうね、服従だとなんだか語弊があるわね」
どうやら、スライムのゆかりちゃんと契約を結んだ直後に、わたしが魔力を解放したままストラさんに呼びかけてしまったことが原因らしい。そのせいで、ストラさんまでわたしに従属する形になってしまったのだ。
説明を終えると、レイさんの目が大きく見開かれた。
「契約魔法の対象は下級魔族だけのはずだろう。どうしてストラスールが。それに、人工精霊である先生にそれほどの魔力があるとは……」
「転生魔法は術者の魔力を著しく消耗させると聞いております。ですが、消耗するのではなく、引き継がれるのだとしたら……」
ストラさんの静かな口調に、部屋の空気が張りつめる。
「今のわたしは、魔王さまに匹敵する魔力を持っている、ということ?」
「いえ……」
おそるおそる尋ねたわたしを、レイさんはまっすぐ見据えた。
「──魔王そのもの、と言えるでしょう」