12
「寝間着まで用意していただいて、ごめんなさいね」
夕食を終えて部屋に戻ると、整えられた寝具と清潔な衣類が目に入った。
食事の前に、リディアさんが他の使用人に用意を言付けていたらしい。彼女の気配りの細やかさには、本当に感心させられる。
「ありがとう、リディアさん」
「……リア、と」
感謝を伝えると、彼女は少し緊張した面持ちで、もじもじと指先を弄びながら申し出た。
「よろしかったら、リアと呼んでください」
「えっ?」
「こう申しては失礼かもしれませんが、わたくし、年の近い友人が少ないものですから、クロエ様が来てくださって、とっても嬉しいんです」
「まあ……」
リアの真っ直ぐな瞳に、純粋な気持ちが伝わってくる。
「でしたら、わたしのこともどうぞクロエと呼んでください」
「よろしいのですか?」
驚いたように、リディアさん──リアがわたしを見つめた。
彼女の戸惑いが可愛らしくて、わたしは思わず笑みをこぼした。
「もちろんです。中身はお婆さんですけど、仲良くしてくださいね」
「クロエ……!」
途端にリアは、ぱっとわたしに飛びついてきた。
彼女の抱きつき癖には慣れてきたところだ。しっかりと抱きとめながら、わざと顔をしかめてみせる。
「急に抱きついたら危ないですよ、リア」
「えへへ、ごめんなさい」
リアの甘えるような表情は、年相応の可愛らしさに満ちていた。
頭を撫でたい気持ちにかられたけれど、子供扱いをしたら婆臭いと怒られてしまうかもしれない、と思いとどまる。
「今日はゆっくり休んでくださいね。また明日、たくさんお話しいたしましょう。おやすみなさいませ」
リアは軽やかな足取りで部屋を出て行った。
「まさか曾孫に近い年齢の友達ができるとは思わなかったわ」
ぽつりと呟いてから、ハッと顔を上げる。
「わたしは十五歳、わたしは十五歳……」
自分に言い聞かせるように何度か繰り返していると、なんだか可笑しくなってきた。
こんなにも意識しないといけない時点で、やっぱりわたしは『元お婆さん』なのである。
「──さて、どうしましょうねぇ」
わたしは小さく伸びをして、ベッドの縁に腰かけた。
休むといっても、先程たくさん寝てしまったから眠くはない。
魔界の夜は思ったよりも静寂に満ちていて、城内もしんと静まり返っている。
「少しお散歩でもしてみようかしら」
わたしはそっと立ち上がると、廊下へと足を踏み出した。