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目を開けているのか、閉じているのかも分からない、真っ白な世界。
それなのに、どこか温かみを感じるのはなぜなのかしら。
「──先生、先生!」
うわんうわんと、反響する声が聞こえた。
わたしのことを、いまだに先生と呼んでくれるのは、担当編集の榊くんくらいだわ。
あんなに必死になって呼ぶなんて、いったいどうしたのかしら。
「どうか、漫画の続きを描いてください!」
いやね、もう描けないって言ったはずよ。
想像力はすっかり枯れてしまったし、ペンを持っても手が震えて思い通りの線が引けない。
だから、ごめんなさいね。
わたしは、もう────
「滝松先生!」
急にハッキリとした声が聞こえたかと思うと、次いでキィィィンという高音が鼓膜をつんざいた。疾風が吹き抜け、パキンッとなにかが割れるような音と同時に、純白だった視界に、濃紫の強烈な光が差し込む。
「先生、死んでる場合じゃありません!!」
「あら、まあ……」
瞬きをした次の瞬間。
目の前に、なんとも珍妙な格好をした、半泣きの美青年が跪いていた。