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消えた巡査長⑥

栞里しおりさんも村を出てから、まだ戻ってないんですね?」


 駐在の田所だけでなく、田所を探しに行った妻の栞里も行方不明――話を聞けば聞くほど嫌な予感が募る。


「今頃、田所さん、本妻と愛人に詰め寄られて、脂汗かいてるんじゃないの?」

 沢木がおどけた。「修羅場だね」


「宇佐美さんが来ること、忘れちゃったのかね」

 小春がうどんをすすりながら言うと、皐月が冷たい声でピシャリと断じた。

「職務怠慢ですよ」


 宇佐美は沢木に目を向けながら話題を核心へ戻した。

「——深夜三時に、田所さんが担ぎ込まれた時の様子を、詳しく教えてください。一緒にいた男の顔を見ましたか?」


「顔は見てないけど、若い警官だったよ」

 沢木は箸を置いて「ごちそうさま」と手を合わせた。


「制服を着ていたんですか?」


 二本目の缶ビールをプシュッと開けながら沢木は首を振った。

「いや、普通の服装だった。でも、田所さんの飲み仲間は警察の人が多いし、身体が大きかったから間違いないよ。その人、周平くんぐらい大きかったんだ」


「そりゃあ、大きいね」

 小春がうどんをすすりながら、うなずいた。


「……若いというのは、どうしてわかったんですか?」

 宇佐美は再び沢木に尋ねた。


「若い人がする格好してたからだよ。ほら、帽子二つかぶるやつ」


「帽子を二つ……ですか?」


「そうそう」

 沢木は自分のTシャツの襟ぐりを引っ張りながら言う。

「つばのある帽子と、もう一つ。こういうとこについてるやつ、わかるだろ? あれも被ってたんだよ」


 ——パーカーのフードのことか。


「二つも帽子を被ってたし、大きいマスクもしてたから、顔なんか全然わからないよ」


「その男が担いでいたのが田所さんだったのは、確かですか?」


「間違いないよ。顔、見たし。『どうしたの田所さん、ツブれたの?』って、その男に聞いたら、うなずいたしさ」

 沢木は自信ありげに言った。

「でもさ、その後、車で橋を渡って行ったんだよ。あの橋、文化財なのに、車で通るなんてひどいよな」


 沢木の言葉に宇佐美はすかさず質問を重ねる。

「車はどちらから来ました? 『うねり橋』側からですか? それとも八王子方面から?」


 宇佐美はスマホを取り出しながら尋ねた。


「どっちかなあ……」

 沢木は腕を組んで考え込む。「車が駐在所に停まる音で目が覚めたから、どっちから来たかはわかんないなあ……」


 宇佐美は延寿署の地域課に電話をかけ、静かに言った。

「蛇神村駐在所で研修中の宇佐美です。至急、応援をお願いします——」


 その言葉に、沢木は驚いた表情で宇佐美を見つめた。

「どうしたの宇佐美さん、なんかあったの?」


 全員の視線が、宇佐美に集まった。

 宇佐美はスマホを手にしたまま、田所行方不明の経緯を淡々と説明する。


 もう誰もうどんに手を伸ばすこともなく、缶ビールに口をつけようとする者もいなかった。

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