表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

(9)

「ふぅ~、初日から飛ばし過ぎの感はあるけど、何時何が起きるか分からないからな。しっかりとできる事はしておかないと」


 実は最後にギルドまでの道順を聞いたのは失敗だったのかと思ったのだが、酔いが回っているのか登録したてなので道順を忘れていると思われたのかは不明だが、特段怪しまれる事無く普通にギルドに到着したタケジ。


 ここは冒険者の巣窟だと理解できており、どう考えてもあの酒場よりも慎重に行動しなくてはならないと思い、緊張からかゴクリと唾をのんだ後に頬を軽く手でたたき気合を入れて、両開きの扉を開ける。


―――ガヤガヤ―――


 想像通りに静かな場所ではなく、軽く見ただけで見た事も無い様な大剣や斧を背負っていたり、槍を持っていたりする人物が多数いる。


 ここで絡まれイベントが発生すると全てが終わると理解しているタケジは、自分の存在は空気だと言い聞かせつつ慎重に受付方面に移動している。


 受付では冒険者と職員が会話をしているので近接した以上は嫌でも内容が聞こえてくるのだが、とても楽しい会話とは言えなかった。


「おい!何時までかかっているんだよ。依頼の品がコイツで、想定数よりも多い分については規定数量の買い取り額から割増しで買い取りなんだろう?さっさと計算してくれよ!」


「は、はい。少し複雑な計算なので少々お待ちください」


「まったくよぉ~、さっきから同じセリフしか言ってないじゃねーかよ!」


 と、事前に聞いていた通りに何やら計算が必要な状況にあるらしく、あまりその辺りの能力が高くない受付は目の前の冒険者からの圧力もあっていつも以上に手際が悪くなる悪循環に陥っている。


 当然文句を言っている冒険者が計算できるわけもないので誤魔化されればそれで終わりではあるが、後々調べれば嘘はバレるし、何かあった際に半強制的に冒険者にお願いする特殊依頼を受けてくれなくなるので、受付も真摯に対応している。


「ま・だ・か・よ!!あんまり遅せーと、ギルドマスターに話を持っていくぞ?あぁ?」


 荒くれ者もいる冒険者と呼ばれる職業なので、受付を総括している立場のギルドマスターはギルドの大半において戦闘力が高い者であり、騎士を引退した人物の時もあれば、相当な実績を積んだ冒険者の場合もある。


 何れにしても受付を総括する人物である事は間違いないので、ある意味顧客である冒険者の対応が疎かと判断すれば叱責を受け、場合によっては給金にも反映されてしまう。


「お、お待ちください。もう少しで……」


 より一層慌てふためいている受付を見て、逆に優しく対応してあげた方が効率はどう考えても良いだろうに……と思ったタケジは、さり気なく計算に必要な情報が書いてある依頼書を覗いている。


 冒険者が言っていた通りに規定数量の買い取りは金額が明示されているので迷う事はないのだが、それ以上に納品した場合は一つ当たり10%上乗せの金額で支払うと書かれていた。


 規定数量は鉱石50個で1個当たり小銀貨一枚(千円)、冒険者が納品した数は60個と紙に書かれて提出されているので、タケジが想像していた以上に演算が不得意な世界なのだと認識する。


 その間にも冒険者はイライラが募り態度が悪化し、その態度を受けて受付はより対応出来なくなっていたので、タケジは助け舟を出す事にした。


 いくつも仕事を投げられて休みも無い状況で、見かけ上は助けてほしいと縋る形で更なる仕事を押し付けられながらも何とか納期に間に合わせようと必死で仕事をしていた程なので、優しい性格なのか放っておけなかったようだ。


「あの……横から申し訳ありません。報酬は小銀貨60枚(6万円)だから大銀貨に直すと6枚(6万円)、10個分の加算が小銀貨1枚(千円)です。つまり、大銀貨6枚と小銀貨1枚(6万1千円)ですね」


「「………」」


 日本の教育を受けていればこの程度は誰にでもすぐ回答できるのだが、この世界ではタケジが想像していた以上に演算部分のレベルが低かったらしく、受付も文句を言っていた冒険者も何故かタケジを尊敬の眼差しで見つめているのだが、当人はそのような視線を受けた記憶がないので何か気分を害したのかと思っている。


「えっと、割込んですみません」


 取りあえず謝罪をし、受付が手すきになった時点で職員募集について話をしようと一歩引いた位置に移動する。


兄ちゃん(タケジ)!スゲーな。熟練の職員でもこれほど早く計算なんて出来ねーぞ?見かけによらず、随分と頭が良いじゃねーか。助かったぜ。ホレ、お前(受付)も早く仕事を進めろ」


「は、はい。ではこちらが報酬になります。お待たせしました」


 トントン拍子に対応が済み、冒険者も去り際に再びタケジに謝意を示して帰って行く。


兄ちゃん(タケジ)、助かったぜ。じゃあな!」


 ぶっきらぼうであるが、日本では半ば強引に仕事を押し付けて来る同僚や上司から謝辞を受けた経験がないので、これだけで嬉しくなりギルド受付の仕事に希望を見出している。


「あの……」


 冒険者が去った後に受付の手が空いたのを見計らい、職員になるべく一歩を踏み出すタケジ。


「先ほどは本当にありがとうございました。依頼の受注ですか?」


「大したことはしていませんので。それと……大変申し訳ありませんが、可能であれば冒険者として活動するのではなく職員として活動させて頂ければと思っています。職員の募集は行っていますでしょうか?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ