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 午前は未だに出社しない武治と沢田に関して、社会人としての自覚がないだの責任感がないだのと勝手な事を言っていたこのフロアの面々だが、午後になっても出社せずに電話も共に繋がらないので、一気に雲行きが怪しくなる。


「ぶ、部長!高橋部長!!室田(武治)に任せていた例の件、今日が納期です。どこまで進んでいるのか、いや、ソフトの有り場所を教えてください!」


 午後一番、武治の上司である部長の高橋に対して担当営業の橋本が慌てた様に詰め寄っているのだが、コレは営業の仕事である納期管理すら武治に丸投げして今日が納期と分からないまま、何時もの通りに適当に仕事をしていた結果だ。


 当然納期が本日中なので納品先から未だに訪問の連絡すらないと電話がかかって来た為に、慌てて納品の品を探したのだが……ソフトの保管場所など分かるはずも無く、過去は武治がUSBメモリーにマニュアルも保管の上で先方とアポイントまで取っていたので、今更ながら何をどうして良いのか分からなくなっている。


「わ、私に聞くな。君がアイツ(武治)の担当営業だろうが!」


 部下の管理と言う面では、自らを持ち上げる面々の仕事とは異なる部分の面倒はよく見るが、益の有る本来の仕事、本業の部分では付き合いの悪い無能のレッテルを貼った武治と沢田にある程度(・・・・)任せておけば良いと思っていたし、事実それで上手く回っていたので今更何かを聞かれても答えられるわけもない。


「そんな……今日納期なのですよ?遅延したら、罰則がある上に出入り禁止になる可能性すらあります!」


「はぁ?なら、情報システム部に行って、迷惑極まりないあいつ(武治)のパソコンのパスワードを解除させろ!」


 未だに出勤せず連絡もつかない二人にイラつきつつも、差し当たりできる事と言えば継続した連絡と作業していたはずのパソコンのロックを解除し、出来上がっていると推測されるソフトを客先に持っていく事だと指示を出している部長の高橋。


「本来個人のパソコンにデーターを保管する事は認めていないのだがな……こっちに保管されているのを見逃したかもしれない」


 担当営業である橋本が既に探している前提で独り言を呟いているが、橋本がソフトの在りかを探すわけがない。


 高橋部長は自分のパソコンからポチポチと武治が作業しているコンピューター上の保管場所であるフォルダーと呼ばれている場所を始めて覗くのだが、あり得ない程に膨大な顧客を抱えている事を今更ながら知る羽目になる。


「あ、あいつ、一体どれだけ仕事を抱えていたんだ……」


 労務管理、つまりどれほど仕事を抱えて実際に仕事をしている時間や有休消化等の管理を全く行っておらず、更に自分より上の役員にゴマをするのに全力を使っていたので、武治が作成したソフトの承認もはっきり言って適当に処理していた為、漸くどれだけ負荷がかかっていたのかを知る。


 もう会社の体質が顧客を向いているのではなく自分より上の存在に向いているので、今の役員も同じ考えと行動でのし上がっている以上は改善される事はないのだが、今更そこを言っても始まらない。


「ひょっとして、沢田もか?」


 本来探さなくてはならないソフトをそっちのけでもう一人の使えない人材認定していた沢田のフォルダーを開けると……武治と同レベルの仕事を抱えていた事を知る。


 これだけ過剰な仕事を押し付けた結果出勤しなくなっているのであれば証拠隠滅の必要があるし、万が一訴えられた時には相当不利になると保身に意識が大きく傾く。


 現実的に沢田は別次元の存在で、武治は過労とストレスによって死亡した後に異世界に送られているのだが、そんな事は分からない上に自分は社内営業で“のし上がって”いるので過酷な仕事を経験しておらず、過労死と言う言葉すら思い浮かばない。


「部長、セキュリティー解除しました!」


 普段はゴマすりを除いてこれほど早く何かをする事がない橋本は、今日は営業の本来あるべき姿で普通に対応できるのが当たり前の、直接顧客から納期管理についての問い合わせがあり焦っており、カタカタと武治のパソコンを弄ってソフトを探している。


「あっ、履歴がありました。何だ……このパソコンに保管している訳じゃなかったのか。良し!念のために起動チェックをしておきますね」


 本来あるべき場所、このフロアの社員ならば全員が閲覧できる場所にソフトが保管してあったので、過去の履歴からソフトを開いて場所を確認した橋本は安堵する。


 ソフトさえ見つかれば過去の経験から間違いなく納品できる状態になっていると確信しているので、念のためにきちんと起動するかチェックすれば良いと軽い気持ちでソフトを動かす。


「部長!大丈夫です。しっかりと動きます。マニュアルは……コレか。良し。お騒がせしました。じゃあアポ取って行ってきます」


 部長の高橋としても直近の問題は一つ片付いたので安堵し、冷静に考えれば無能二人の為に何かをするのがばからしくなり平常運転に戻る。


「お~い。誰か、今日の納品のソフトがあれば二人のフォルダーをチェックして持ち運べる状態にしておいてくれ。他のフロアの営業も問い合わせに来ていただろう?対応を頼むぞ」


 乗り切った感にあふれているので仕事をしたつもりになっている部長高橋は、部下の慰労と言う名の飲み会開催について検討を始める。


 毎日のように腰巾着と飲んだり上層部と飲んだりしているのだが、フロア全体の飲み会は月一程度の開催でそろそろだと思い、仕事とは言えない作業に没頭する。


 腰巾着以外の社員からしてみれば有難迷惑以外の何物でもなく、立場上断る事も出来ずに宴の席でも上司の独演会に笑顔で対応しなくてはならず苦痛しかないのだが、上司側からすれば笑顔で対応されているので慰労になっていると大きな勘違いをしている。


「良し、できた。今回はあの二人のおかげで迷惑をかけられたからな。その分の指導も併せて行う必要があるから強制参加だ。毎度毎度不参加など、認められるか!」


 社内のメールに業務時間中に作成した業務外の連絡を飛ばすのだが、仕事と思っているので改善する事はないし、抑圧されているので文句を言える人材も皆無だ。


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