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「おい、室田(武治)!お前は協調性がないんだよ。それに、会社が決定した資格を取得していないのは、ウチの部ではお前と使えない沢田だけだ。新入社員じゃないんだから、そろそろしっかりと自分を見直せ!」


 週末の定時後、と言っても翌日に武治が休める訳も無く出勤の予定で、沢田と武治以外が翌日は休みなので予定通り部の飲み会を開催している。


 不参加は今日もまだまだ仕事が終わっていない武治と沢田の二人だけであり、部長から不条理な叱責を受けてしまう。


 沢田に至っては武治よりも社歴が長いために、間違いなく今以上の暴言や態度を取られているだろう。


「わかりました」


 勝手に怒り散らしている人物であっても上司であるため、肯定の意しか示せずに悔しそうにしている武治だが、反撃しようものなら扱いが更に劣悪になる事は火を見るよりも明らかで、より仕事が終わらなくなるために謝罪している。


 これから飲み会で明日は休みの上使えないと思っている部下は素直だったので、部長は他の部員と共にさっさとオフィスから消えて行った。


「武治君、よく我慢したね。本当はコンプライアンス(法令順守)を管轄している部門がもう少しだけ真面なら上申できるんだけど、ウチの場合はそこも形上は立派な事を言っている反面、中身は全く機能していないからね」


「そうですね。分かっています。じゃあ、早速仕事を始めましょう」


 諦めの表情になり始めている武治を見て、先輩である沢田は少しでも心を軽くさせる為なのか、突拍子もない事を言い始める。


「武治君、人生色々。でも、誰にでも限界はあると思うんだ。その場合、本当に全く違う環境、俺は時々小説を読むけど、その中によく出て来る異世界とかで生活するような事もアリじゃないかと思っているんだ」


 確かに今でも害のない程度に現実逃避して妄想している武治なので、知識としては持っている異世界での生活で新たな一歩を踏み出す事もアリなのかな……と、あり得ない未来について漠然と考えて、何となく返事をする。


「そうですね。御伽噺ですけど、そんな世界があれば行ってみたいですよね。正直……疲れちゃいましたよ」


「そっか……わかった」


 普段であれば弱音を見せた武治を慰めるような言葉をかけるのだが、自分の仕事も切羽詰まっているのか理解だけ示した形で自席に戻る沢田と、目の前の仕事を終わらせなければ日曜日も出勤が確定するので、疲れた体に必死で活を入れて作業を始める武治。


 結構頑張って作業したが、どうしても顧客に確認しなくてはならない部分が出たので窓口の担当営業に電話をかける。


―――プルルル―――


「はぁ~い。俺だよ!付き合いの悪い武治ちゃん。今更参加したいのかなぁ?」


 完全に酔っぱらっている様子だが、月曜日納期の為に今聞かなければ間に合わなくなるので、何とか説明した結果……


「今更……面倒(・・)だからお前が対処しておいて!じゃあな!」


 一応仕事の話しで重要度が高いと理解したのか、ふざけた話し方ではないが対応は相当ふざけており、本来の業務でないはずの顧客との直接的な交渉も行わざるを得なくなってしまった武治。


 定時後あまり時間は経過していないが、週末だけに今更客先の担当者がいるかどうか不安がありつつ連絡をすると、運良く繋がる。


「……と言うインターフェースですが、ご指定の通りに二分割の画像で作成しましたが、情報量が多いので大きなモニターでないと文字が見辛く、詳細が把握しきれないと思いまして確認させて頂きました」


 二つのウィンドウが立ち上がる仕様でプログラムを組んでいたのだが、月曜日に提出の為最終チェックをしたところ、場合によっては表示される情報量が膨大になり画面の大きさにもよるが、高い確率で文字が小さくなり判別し辛くなる事が判明した。


 仕様である以上は納品後のクレームにはなり得ないと思っているのだが、会社の力量や評判に大きく影響するので改善する可能性について連絡していた。


 本来顧客からしてみれば素晴らしい対応以外の何物でもないのだが、残念な事に今回はそうならなかった。


「あれ?困るなぁ、今更。昨日御社の担当の営業さんに急で申し訳ないけど変更する様に伝えたはずだけど。月曜日納期なのにまだ反映されていないって事?大丈夫?納期遅延は出来ないんだよ?」


 どうやら顧客はこうなる事を予想していたようで、事前……と言っても納期から考えると直前と言った方が良いが、しっかりと改善する様に担当営業に伝えていたらしく、そうなると完全に武治側に非がある。


「も、申し訳ありません。営業に確認の上対応させて頂きます!」


 善意での改善であれば多少納期を調整できるのかと思っていたのだが、直前の連絡とは言っても営業が許可したのであれば納期は必達になり、どう考えても土曜に加えて日曜日も朝から夜中まで出勤になると愕然としつつ、僅かな望みにかけて再び営業に電話をする。


「はいよ!調整できたか?」


 本来の業務を丸投げにしていたはずなのに、謝罪でもなくお礼でも無しに初手から高圧的な営業。


「一応確認しましたけど、仕様変更は昨日伝えているはずと言われました。聞いていますか?」


「……あぁ、そうだったな。そんな事を言っていた気がするな。じゃあ対応頼むわ」


 心底自分勝手な対応だが、これだけ言うとさっさと電話は切られてしまった。


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