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一部実話が含まれていたり・・・いなかったり・・・

 4月1日。


 世間一般では立場が大きく変わる日であり、立場とは退職によって会社勤めから卒業する人、学生から社会人として働き始める人、年代が下がれば学校に入学する人、進級する人、様々な人達に変化が訪れる。


 変化があれば環境が良くなる人、変わらない人、悪化する人がいるのは当然で、とあるソフトウェアを開発している企業に勤めている室田 武治は、自分の環境、立場は変わらない状態で今年度が始まった。


 武治はいつもの通りに就業時間前から自席についてパソコンを立ち上げ、辞令の中身を見ている。


「今回も変わらず……か」


 “ボヤいて”いるのは、企業の中で大きく立場が変わる昇進に関する表示を見ているのだが、未だ新入社員と同様の役職が付いていない平社員であり、同期は全員昇進済みの為だ。


「は~、どう考えても公平じゃないよなぁ~」


 武治の部署では誰も出社していない時間なので、聞かれる事が無いと知っている為に不平不満を口にしてしまうが、確かにこう呟いてしまうのも仕方がない。


「ソフトウェアの開発をしているのに、会社命令で電気工事士の資格を取れなんてさ?電気関係の業務には必須だろうけど、俺には全く畑違いの分野。取らなきゃ評価を下げるなんて、ちょっとあり得ないよな」


 電気工事士とはとは電気関係の工事を行う際に必要な資格になるのだが、ソフトウェア開発業務に対して直接的に必要かと言われると、正直疑問符が付く。


 今日は辞令が発令されるので仕事を始めてはいないのだが、日々多くの業務を抱えているので一人早くから出社して仕事をこなし、夜遅くなって帰る毎日。


 業務内容が異なる部署にいる同期は、営業もいれば経理や法務関連の業務をしている人物もいるが、夫々がしっかりと決められた範囲の業務で収まっている。


 例えば営業……顧客に対して要望を聞き、それを武治が所属する開発部門に投げて見積もりを得、販売に向けて交渉する。


 営業担当は本来交渉時にソフトウェアの知識が必要なはずなのだが、あまり知識を持っておらず、結局同期で話しをし易いからか武治が駆り出されて営業の様な仕事をする事が頻繁にある。


 この時点でなし崩し的に開発担当が武治になり抱える業務は増える一方なので、朝も早くから仕事をする羽目になっている。


 こうなると電気工事士の勉強などできる訳も無く、当然試験には受からない。


 ある意味この一点だけで本来の仕事についての評価も下げられる憂き目を見ており、本当に見る目のない不当な評価しかしない上層部に不信感しかないのだが、正直転職するにも買い手市場、企業が有利な世代である以上は今以上の給料を得る事は厳しい現実を理解し、泣く泣く現状に甘んじている。


 だからと言って仕事の手を抜ける訳も無く、直接顧客と話をさせられているので責任感から納期を守るべく必死で作業している中で、武治を顧客の所に半ば強引に連れ出した同期の営業は上司と飲みに行っている。


「本当にイヤになるな。ああやって社内営業をする事で何故か評価が高くなる。実際利益になる仕事をどれだけ実施しているのか、上司も含めて疑わしいよな」


 今日も変化のない一日が終了しているので、一人寂しく自宅に帰ってありあわせの食事をしながら今後について考える。


「はぁ~、宝くじでも当たればもっと気楽に仕事が出来るんだけどな」


 現実的な武治なので当たるとは思っていないながらも、仮に当たったとしても仕事はやめずに働くつもりでいる。


「今みたいに同期や後輩の昇進に妬む必要も無くなるし、大きな心で仕事ができると思うんだよなぁ」


 貧すれば鈍すると言われる通り、先立つモノが無ければ心に余裕がなくなるのは当然なのだが、逆に金持ち喧嘩せずと言われる通り、懐がこれ以上ない程に裕福であれば妬みの感情など湧いてこない可能性が高い。


 そんな人物は本当に一握りなので、確立としては非常に低い宝くじに当たる妄想をして現実逃避をしている武治。


 妄想では上司に気に入られて昇進している同期達を見ても、余裕の対応が出来ている……と言う非常に情けない代物だが、性格的にここが限界だ。


 それでも現実を一瞬忘れる事が出来るので時折妄想してしまうが、何かのきっかけで現実に引き戻された瞬間に非常に空しくなる。


「止め。空しいだけだ。明日も早いからさっさと寝るか」


 明日も変化の無い一日が……既に時間的には今日と言った方が良いのだが、朝も早くから出勤して仕事をしなくてはならないので、早々に寝る準備を始める武治。


 孤独に悩んでいる状態が続けば給料が下がろうがリスクがあろうが転職していたのだが、同じ環境に置かれて時折愚痴を吐く仲間として、更に仕事の先輩として優しく接してくれる人物が武治を辛うじてこの会社に留めていた。


 逆に言えば、武治をこの会社に縛っている存在と言えなくもない。


「おはよう、武治君。毎日頑張っているな」


「おはようございます。ありがとうございます」


 武治の次に出社するのは必ずこの先輩であり、帰りは大体同じ時間に帰るので共に最寄り駅まで移動する事が多く、稀に会社の愚痴を言い合っていたりする。


「今日は、仙台に出張だったかな?」


「そうです。同期の営業と一緒に先方(顧客)と打ち合わせですね。アイツ(同期)は仙台で一泊のようですが、俺は仕事があるので戻ってきます」


気持ちを新たに、頑張りましょう!

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