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第62話 調査

「何を企んでいるの?」

 グランディス先生の部屋を出ると、私はニヤニヤ笑うクリスの背中に声をかけた。


「別に、何も企んでなんかいないよ」

「そんなの信じられるわけないでしょ。聖女候補の魔力が落ちていることと、あなたがエルーダ様に近づこうとしていることはどんな関係があるの?」

「アリエル様、極秘事項だよ。こんなところで口に出すのは軽率だ」

 つい声を荒げてしまった私に、意外にも冷静な口調で諭され言葉に詰まる。確かに、一般生徒がいる廊下で話していい話題ではない。でも、ここで丸め込まれるわけににはいかない。


「なぜ神殿じゃなくて王宮魔術師の弟子が調査を? これはマギ様の意向?」

 聖女候補を管轄しているのは教会である。

 表向きは教会と王宮魔術師は対立してはいないが、教会が魔術師を嫌厭しているのはあきらかな事実だ。


 ノイシュタイン城は今でこそ王国の魔法学院としての役割を果たしてはいるが、教会にとっては昔と変わらず聖女ラナが眠る重要な城である。自分たちの聖域で聖女候補の魔力が減少している原因を魔術師の弟子に嗅ぎ回られるなんて許せないだろう。


「何を心配しているのかわかるけど、これはマギ様とは関係ないよ。グランディス先生からの個人的な頼みだからマギ様に報告もしない」

「そんなこと信じられるわけがないでしょ」

 クリスは幼い時からマギに引き取られ手先として色々裏の仕事もしてきたのだ。しかも、ここ最近はずっと私に付きまとっている。今回のこともマギに内緒なんてあるわけがない。


「グランディス先生は何度も教会に調査するように進言したのに、無視をしたのは向こうだ。まあ、事実を認めないで隠蔽しようと思っている気持ちはわかるけどね」

「わかった。あなたを信じたわけではないけど、グランディス先生に頼まれた調査については協力する」

 クリスが何を企んでいるわからない以上、近くで見張るしかない。



「じゃあ、早速平民の聖女候補から話を聞いていこうか」



 ✳︎



 私の目の前には3人の平民の聖女候補が緊張した面持ちで座っていた。

 3人とも、こげちゃ色の髪と黒色の瞳でチラチラと部屋を観察している。

 この世界では一般的な髪の色と目の色でたいていの平民は手がかからないように髪は肩より短く切られている。

 それでも、聖女見習いとして教会でみっちり行儀作法を学んできたのか、姿勢もきちんとしていた。


「そんなに固くならなくて大丈夫よ」

「それは無理なんじゃないの? なんたって、公爵家の執務室なんて平民は一生入ることを許されないよ」

「クリス、大袈裟ね。執務室とかじゃないわよ。お茶会に使ったり、打ち合わせに使ったりするくらいで休憩室とでも思ってちょうだい」

「休憩室ね。普通、お城の中に自分の休憩室なんて持てないから」

 クリスが大きなため息をつきながら、「こんな上品なお菓子、もう食べられないから食べたほうがいいよ」と3人に進める。


 遠慮がちに口に運べば、一口でパァッと表情が明るくなる。

 うん、美味しいは正義ね。


 ひとまず、緊張が解けて何よりです。

 多額の寄付をすれば寮では広い部屋を与えられたりするが、ノイシュタイン城の中に個人的な部屋をもらっているのは王族の他には数人だ。

 それぞれが、国の要職につく後継者で、この部屋も私に与えられたというより、ユーリのためのものだと言える。


 まあ、今はもっぱらエルーダ様から隠れるのに使っているけど。


「お茶を飲みながらでいいので、ちょっと話を聞いてほしいの。今日来てもらったのは、聖女の力についてこの学院に来てから変わったことはあるかどうか聞きたくて……」

 言葉が終わらないうちにクリスが勢いよく立ち上がり、私の腕を掴んで部屋の隅へと連れていかれる。


「ちょっと、何するのよ」

「何するのよ、じゃないだろ。いきなり直球で聞いてどういうつもりか聞きたいのはこっちだ。よもや忘れてないと思うけど、これは極秘任務なんだよ」

 いつの間に極秘任務になったのかは知らないが、まあ、おおっぴらに聴きすぎてしまったかもしれない。


「魔術師が調べていることがバレるとまずいから私に聞けって言ったんじゃない」

「そうだけど、もっとさりげない会話に挟むもんでしょ」

「そういう貴族的な会話って苦手なの」

「それでも公爵家の令嬢? 君が任されている平民と貴族のトラブルについて聞けばいいだろ」

 確かにそうね。


「わかったわ」とクリスの腕を振り払い、3人にとびきりの愛想笑いを送る。


「今日ここに来てもらったのは、なにか困っていることがないか聞きたかったの。噂では随分と貴族の聖女候補から嫌がらせを受けていると聞いたから、生徒会でも調査しようということになってね」

「ご心配には及びません」

 ガチャンと持っていたティーカップを乱暴に置いて、真ん中に座るカヤと名乗った少女が強張った声で返事をした。


 隣に座る2人もそれにならい、食べていたお菓子をお皿に戻すと、そそくさと帰り支度をし始める。


「ちょっと待って、別に責めるつもりで呼んだんじゃないのよ。身分が関係ないなんて綺麗ごとは言わないけど、一方的にやられては勉強に悪影響が出てくるでしょ。どうすれば落ち着いた学校生活がおくれるか方法を探したいだけなの」


 3人は私たちを探る様な眼差しで見ると、意を決したように話してくれた。


「勉強に支障が出ていますが、私たちにはどうすることもできません。フェリシア様に逆らえばこの学院で学ぶことさえできなくなるでしょう」

 残念だがそれは大袈裟ではない。

 それにしても名前言っちゃってるけどいいの?

 そう突っ込みたいのを我慢して、私は精一杯同情していると伝わるように、大きく頷き3人の愚痴を聞いた。


 チラリと横に座るクリスに目をやれば、笑顔が引きつり、さっさと魔力について話せと圧をかけられる。


 わかってる!

 わかってるけど、女の子の会話には順序があるのよ。

 聞きたいことだけ言っても真実は返ってこない。

 本音を言わせるには、無駄な話も聞かなくちゃならない時があるの。

 そう目で訴えたが、クリスには伝わらなかったようで、「アリエル様ならきっと何とかしてくれるから」と勝手に話を締めくくり、「ところで、学院に来てから聖女の力が弱くなること何かした?」と私よりも直球に聞いた。


 クリス、あんただってダメじゃん。


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