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第50話 悪役令嬢虫除けになる2

「私の希望ですか……」

 特別室の食事や公休の他に、なにか思いついたのか?


「ああ。先日の提案は的外まとはずれだった。マリアンヌが言うように君は魔女なんかではない。それをふまえてよく考えてみた。君の希望は今も昔も変わらないと気づいた」

 それって、まさか。

 ああ、言わないで!


「妃は無理でも側室なら考えてやろう」

 そんなことだろうと思った。


「マリアンヌは君をいたく気に入っている。君に遠慮して私を避けていたのだろう。彼女は優しい人だからな、自分だけ幸せになれないと考えても不思議じゃない。だが、君が側室になれば問題ないだろう」


「は?」

 意味不明です。

 あまりに攻略対象が残念過ぎてがっかりだ。


「エルーダ様。何か誤解があるようですが、私は殿下にそのようなことは決して望みませんのでご安心ください」

「誤解? 君は私を愛しているんだろう?」

 あああ……いったい何処をどう勘違いしたらそうなるんだろう。


 まさか、誕生日会の「結婚してください」をまだ覚えているの?

 あんなにひどい捨て台詞を言って、私にまだ好かれていると思っているなんてびっくりだ。


「エルーダ様、僭越せんえつですが、殿下と私がきちんとお話をするのは初めてです。人づてに伺っている殿下は素晴らしいお方ですが、聞いた話だけで人を愛することはできません。政略結婚だというなら別ですが、エルドラ家と王家が婚姻関係を結ぶことはないでしょう」

 ちょっと言い過ぎた感じはあるけど、ここはきちんと誤解をといておかなくては。


「確かに、私は君を誤解していたのかもな。はっきり言ってもらえてよかった」

 どうやら怒ってはいないようでほっとする。


「とんでもございません。誤解が解けてホッとしました。周りにも勘ぐるものがいるかもしれませんから」

「マリアンヌも周りから誤解されたくないと思っているのだろうか?」

 エルーダ様が目をすっと細めて聞いて来た。

 これは、答えようによっては何か問題が起きそうな質問である。

 質問の意図を深く掘り下げて聞いた方がいいが、ちょっと疲れすぎてこれ以上話をしていたくない。

 取り合えず、当たり障りなくスルーしよう。


「マリアンヌの気持ちを私から申し上げることはできませんが、誰であっても周りから誤解されるのはいい気分ではないと思います」


「そうか。今日はよい事を聞いた。君が私と結婚したいと思っていないなら、マリアンヌが君に気を使う必要もないし、周りに誤解されなければ問題ないな」

 満足げに頷くと、エルーダ様はご機嫌で部屋を出て行った。


 ああ、やっぱり嫌な予感がする。

 マリアンヌごめんね。

 私も頑張ったんだけど、殿下が残念すぎて……。




 *


「姉さま?」

「ユーリ」

「忘れ物を届けてくれたんですよね。ありがとう。でも、ここで何を?」

 心底疲れて部屋を出ると、廊下の向こうから小走りに駆けてくるユーリと会った。その後ろからゆったりと、銀髪の青年が歩いてくる。


「やあ、ユーリ君の姉君ですね。私はアンガス フェノールです。堅苦しい挨拶は不要です」

 私がカーテシーをするのをさえぎると、洗練された笑顔でウィンクした。


 うわぁ、なんてキザなの!

 色素が薄いのに存在感が半端ない。

 シルバーウルフという荒々しい二つ名はどこ? 

 物静かで一匹オオカミの鋭さを微塵も感じない。

 毛並みのいい上品なワンちゃんじゃない。

 目で人を殺せるって、まさか女の子たちだったの?


「やっとユーリ君の大切な、姉君に会えて光栄です。何度言っても紹介してもらえなかったから」

「当然です。狼に羊を紹介するわけないでしょ。姉さま。先輩……アンガス様とは絶対に二人きりにならないように。真面目な顔をしてるけど手あたり次第口説くから」

「嫌だなぁユーリ君。一度として自分から女性を口説いたことなんてないよ」

「なおさら悪いです。先輩は目で女性を殺すんですから」

 やっぱりそっちなんだ。


 なんかゲームのイメージと激しく違うわぁ。

 陰険で人間に興味がなさそうで魔物退治ばかりしていたイメージがあるけど、違うのね。

 まあ、どちらにしても攻略対象とは二人きりになんてならないけど。


 ゲームと違ってヒロインが側にいるから巻き込まれて会うことが増えるのは仕方ない。

 でも、エルーダ様のように、虫よけに使われるのはこりごりだ。

 相手の女の子にうらまれるのはたまったもんじゃない。


「この前はベランダから手を振ったんだけど、気が付いた?」

「マリーにですよね」

「マリー? ああ、マリアンヌ嬢か。彼女もキュートだけど私が振り向いて欲しかったのはアリエル嬢だよ」


「私?」

「先輩!!」

 ユーリが私を隠すようにアンガス様の前に立ちふさがる。

 私より頭一つ以上高くなったユーリでも、その更に頭一つ分大きいアンガス様から私を隠すことはできない。

 目を吊り上げて怒るユーリは、子供っぽく頬を膨らませている。


 珍しいな。

 自分で言うのもなんだけど、ユーリは私のこととなると見境がなくなる。あのエルーダ様にも決闘を申し込んじゃうくらいなのだ。

 本気で怒っていたら、こんな拗ねたような反応はしない。


 それにフェノール家とは常に筆頭公爵家の座を張り合っている。1つ学年が上で、確か生徒会長だ。ユーリと親しかったなんて設定はなかったはずなのに。


「仲がいいのね」

 思わず出た言葉に、ユーリが「どこがです?」と目くじらを立てる。

 こんな無防備なユーリはソールやラキシスの前以外見たことが無いのに、本人は自覚がないらしい。


「そんなことより、姉さまはここで何を?」


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