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第47話 シルバーウルフ


「生徒会室のあたりよね」

 城の4階のバルコニーに誰か人影が立っている。

 3階より上階は一般生徒は立ち入りを禁止されていた。

 教室は、もともと城とは別棟にあるし実際に一般生徒が使用できるのは食堂と講堂や面会室のみだ。


 あのバルコニーに入れる人物はこの学院でも多くはないはずなのに……。



 *


「エルーダ様?」

「ううん、たぶん銀髪のロング。あ、手を振ってくれてるけど」

 銀髪?

 心当たりはあるけど、面識はない。



「いい男だわ」

 マリーが珍しく男を褒める。

 そういえば、この世界では一番、と言える顔の良さを誇るエルーダ様さえ、「いい男」なんて表現しているのを聞かない。


「好みなんだ」

 ニヤリと、マリーが口角をあげる。


「まあ、エルーダ様よりわね。私は頼れる男が好きなの」

 心当たりの人物だと、確かにエルーダ様とはタイプが違うかも。

 シルバーウルフという二つ名を持つように、物静かで一匹オオカミ。目で人を殺せるって設定だ。派手なイベントはないけれど隠れファンがいっぱいいたはず。


 エルーダ様はちやほやされて育った。いい意味で人を疑うことを知らない。守られて生きるの当たり前で、その甘さが顔に出ている。


「あ、赤髪も出てきた。あれはユーリ君ね」

 赤鬼みたいに呼ばないでよ。


「ユーリ君も好きよ。出世しそうだし。誠実そうだし。秀才」


 ユーリはすでに生徒会室に出入りしている。

 彼はなんとエルーダ様の側近という立場を利用して飛び級試験を受け、私と同学年に入学したのだ。

 マリーは呆れて「シスコンを拗らせている」と萌えていたが、これもシナリオにはないので、まあいい事ではある。


「波乱の予感がする」

 マリーが何故か嬉しそうに、ベーコンをフォークでもて遊びながらベランダを見てニヤニヤする。


「波乱?」

「ねえ、アリィはいつ彼に会ったの?」

「会ってないよ」

「でも、アリィに手を振ってるじゃない」

「私じゃないでしょ。マリーにじゃない?」

 やる気が無くてもヒロインなんだから。

 イベントも、もれなく起こってるし攻略対象が手を振ってくるのも無理はない。


「私じゃないわよ。アリィの方を向いていたもの」

「この距離で私達の区別がつくかな?」

 親しいならまだしも。彼とは本当に会ったことはない。


「そりゃわかるでしょ。ピンクの髪なんて珍しいもの。特にユーリ君は鑑定眼も持ってるし、もう一人の銀髪は絶対シルバーウルフよ」

 やっぱり、攻略対象か。


「攻略対象には興味がないと豪語していたのに、ずいぶん嬉しそうね。彼に興味があるの?」

「あるわけないでしょ。でも彼はフェノール公爵領の魔物を一掃するのよ」

 そういえば、そんな設定もあった。ただし、ヒロインと結ばれなければ魔物の毒に侵されて狂気に飲み込まれてしまうのだ。


 なんだか不幸の匂いがする。

 どうして、乙女ゲームの攻略対象ってヒロインに救われないと幸せになれないのかしら。

 ヒロインには全くその気が無いっていうのに。


「マリーの考えてることはわかる。でも、攻略対象全員を救うなんてことできないよ。私にもマリーにもね」

「うん、ここはゲームの世界じゃないもの」

「でも、まあ彼には健全に領地経営してもらわないと困るのも確かね」


「?」


「彼の領地は私の最推し、ネイト様が住まうジェラード王国に隣接してるのよ!」

「そうなんだ」

「もう、感動が薄いわね。街道に魔物がいなくなれば、断絶された国交が再開するのよ。留学や旅行だって可能になるかもしれないでしょ」

 マリーは拳を振り上げて力説する。

 まあ、推しに会いたい気持ちはわかるけどね。


「攻略対象には近づかないんでしょ」

「私はね。でも、ユーリ君とは仲良しみたいよ」

「ユーリからは聞いてないけど?」

「シ・ス・コ・ン。この歳になっていちいち姉に友人関係を報告するわけないでしょ。早く弟離れしなさい」

「うっ。確かに。それにしても視力がいいってうらやましい」

 私にはようやっと人影が見えるくらいで、人物の特定はできない。



「私は、聖女の力で見たいものが見えるのよ」

「へー、凄いわね。でも、じゃあ何であれが見えなかったのかしら」

 私は、噴水を横切ってこちらに向かってくるエルーダ様から視線を動かさずにため息をついた。


「あー、見たくないものは見えないの」

 それって、意味ないじゃん。


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