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勇者視点 ラキシス15歳 ユーリ14歳

「そう言えばユーリ、この国の王子を知っているか?」

 朝からずっと、ユーリに付き合ってまとになっているものの、もうそろそろ飽きてきたので質問をしてみた。


「王子?」

 ぴくりと眉が上がるのと同時に、魔力を極限まで小さくした固まりが、俺めがけて数十個ほど飛んでくる。

 なんとか避けると、後に張った結界にバチバチとあたり、めり込んでる。

 イメージ的には壁にめり込んだ機関銃の弾痕のようだ。

 

 あれ当たってたらヤベーだろ。

 な、なんか俺に恨みでもあるのか?


「ちょっと噂を聞いてね。今度の剣術大会に出場するんだろ」

「ああ、エルーダ様ね」

 ただ、名前を言っただけなのに、ユーリの言葉の端に棘があるのを感じ、最大限警戒すると、横からだけじゃなく上からも魔法の弾が降り注いできた。

 激しくムカつく人物、っていうのが伝わってくる。


「何だ? 知り合いか?」

「一応王子なんで魔力量もあるし、王都学院中等部代表としてジュニアの部に出場するみたいだよ」

 まったく興味はなさそうな返事なのに、この仕打ち。

 そんなに話題にしちゃダメだったか?

 これ以上突っ込んで聞いたら確実に死ぬな俺。



「もしかしてラキシスも出場するの?」

 急に動きを止め、期待のこもった目で質問される。

 まあ、今までは目立たず、力を隠して山で生活していたからな。ユーリにも何度か剣術大会や王都の学院にも誘われていたけれど、興味がないと断っていたし。


「いや、俺は出ない予定だ」

「なんだぁ。つまらないな」

 あれだけの魔力を使っても、ユーリは少しも疲れた様子もなく、草むらに座り込んで水を飲んで肩を落とした。


「ユーリは出るのか?」

 さして興味もなかったが、聞かれたのでこちらも聞き返す。


「出るよ。王子の側近としては目立たないように、適当なところで脱落するけど」

「は? 王子の側近? 誰が?」

「あれ、言ってなかった? 不本意だけど僕、エルーダ様の側近なんだ。って言っても候補だけど」

 こともなげに、ユーリは山の麓の練習場にごろんと寝そべって、手足を伸ばし大きなあくびをした。


「聞いてない」

「そうだっけ」

「じゃあ、ユーリも学院に通ってるのか?」

「うん、剣術大会が終わったら、中等部二年進級だよ」

 ここで、鍛錬するようになって3年。

 あっという間に過ぎたけど、なんてこった。

 小学生からいつの間にか中学生になってたんだこいつ。

 この世界に小学校はないけど。


 親戚の子が久し振りにあったら、結婚していたときの気分に似ていて、なんだか理由もなくショックだ。


「じゃあ何で、いつもいつもここで俺と鍛錬してるんだ?」

「そりゃあ、ラキシスと修行した方がずっと成長出来るからに決まってるだろ」

「だからって、学校をサボっていいのか?」

 俺の言葉に、プッっと吹き出して、ユーリはゲラゲラと笑った。


「ラキシスって時々すごく真面目だよね」

 そりゃあ、もとは勤勉な日本人だからな。


「もしかして、前に王都学院に入る気はないのか聞いたのは、一緒に鍛錬するためか?」

「そうだよ。僕に学校をサボらせたくなかったら、高等部からでも一緒に通う?」

 クスクスと笑うユーリはまさか高等部もサボる気だったのだろうか?



「王都学院の中等部は優れた平民が主に学ぶ所なんだ。貴族の子息は基本的なことは家庭教師から教わるから本来僕が行く必要はない」

 そうなのか?


「優れた平民の子って言うのは?」

「まあ、商売をして財を成している家の子供や、魔力の高い子供、芸術面で優れた者や、剣術大会で好成績な者も対象だよ」

「じゃあ何で、ユーリが通っているんだ?」

「僕は、王子の側近だからしかたなくって言うのが一番の理由だけど、これでも公爵家の息子だからね。良家の息子として中等部に入学した平民が、高等部に上がったときに少しでも貴族との摩擦が押さえられるように導く役目と、将来領主として優れた人間の早期勧誘かな」

 なるほど、ピンと来ないが、身分差があるのに一緒に学校生活を過ごすというのは意外に大変なのかも知れない。


「じゃあ、王子がわざわざ中等部にいるのも、将来国を治めるための練習みたいなものか?」

「本来ならね。でも、エルーダ様は目的をすっかり忘れて平民をあからさまに蔑んでるけど。学院という小さな世界も治められないんじゃ、皇太子としては失格だね」

 側近とは思えない厳しい言葉に、俺はちょっとだけ王子様に同情した。


「それを導くのが側近じゃないのか」

「僕が側近をしてるのは、姉さまが害されないためのスパイだから」

 堂々とスパイだと胸を張るユーリに俺はもう何を言っても無駄だなと、弁当の残りを口に放り込んだ。

 ユーリにとって、一番は出会ったときから変わらずアリエル嬢なのだ。

 

「ユーリ、お前は十分アリエル嬢を守れるようになったよ」

 この3年はあっという間だったけれど、決して短かった訳じゃない。

 チートの俺から見てもユーリは抜きん出て強くなった。


「どうしたのいきなり?」

「いや、子供の成長は早いと思ってね」

「ラキシスだってまだ成人してないだろ」

 確かに、この国の成人は16歳だ。


「そうだけど 、うかうかしてたら、あっという間におじさんになっちゃうもんなんだ」

 せっかく、やり直しのチャンスをもらったのに、チートの能力に気を取られて、子供時代を修行で終わってたな。

 そう考えると、なんだかすごくもったいないことをしてしまった。

 おじさんでは出来ないことをしなくっちゃ。


「ユーリ、俺も剣術大会に出ようかな」


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