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勇者視点 勇者と悪役令嬢の弟の友情

「別に、貴族のお坊ちゃんが治安の悪いところに来るのはよくないと思っただけですよ」

「ごまかすのは無しだよ。さっきの言い方は他に何かあるんだろ」

 ただのシスコンだと思っていたのに、騙されてはくれないようだ。


「俺に魔力封じをして捨てたのはマギなんです」

 まあ、今さらユーリ様に隠すようなことではないか。


「魔力封じをして捨てられたのか?」

「そうですけど、あれ? 前に話しましたよ……あっ、あれはお嬢様とだったか」

 そうだ、俺が捨てられた話をしたのは、用水路に落ちて流されたときか。

 似ている顔をしているから、こんがらがった。


「なんで、姉さまが捨てられた話をしたんだ?」

 ん?

 ずっしりと重たい質問が返ってきて、俺は思わずユーリ様の顔を見た。

 思った通り、暗く傷ついた顔をして俺の答えを待っている。


「お嬢様が捨てられた話じゃなくて、俺が捨てられた話です。以前領地でお嬢様が襲われたとき、たまたま一緒に用水路に流されたんですよ。その時、魔力封じが俺にもあるのを見て話をしたんです」

「その時、姉さまも家族に捨てられたっていったんだろ」

 さっきの元気はどこへやら、悲しそうな声は今にも消え入りそうだ。


「ユーリ様。ユーリ様はお嬢様がそう言っているのを聞いたんですか?」

「いや、聞いてないけど。そう思っていたとしても不思議じゃない」

「そうですか。俺もそんな話聞いてません」

 嘘をつくのにためらいはない。


 あの時、お嬢様は「お前も私を見捨てるの」かと聞いた。

 その時のお嬢様はまだ7歳で、家族と一緒に暮らせないのは見捨てられたも同然だったのだろう。

 でも、過去がそうだったとしても、今のお嬢様と家族は仲が良さそうで、ユーリ様からは溺愛されている。

 しかもお嬢様が、ユーリ様に言っていない以上、俺から話すのはルール違反だ。


 さっきのは失言だったな。

 未だ、納得してないようにユーリ様は俺を見ていたが、今さらどうしようもないことを蒸し返す気はなかったのか、俺の返事に反論はしなかった。


「あの時はこの魔力封じを誰にされたのか分からなかったんですが、サスキ様と出会い、これがマギに施されたことを知りました」

「宮廷魔術師の?」

「そうです。ユーリ様やお嬢様と一緒ですね」


「だから、ここで俺とユーリ様が一緒にいるところを見られるのはまずいんです」

「だから、の意味が分からん」

「ここから先は、俺の命がかかってる秘密なので、《《無力》》なユーリ様には話せません」


 俺の無礼な言葉に、ユーリ様は一瞬、唖然あぜんとしたようだったが、言葉の意味を理解したのか、傷ついたように眉を寄せて顔をしかめた。


「そんな言い方しなくたって……」

 良心が、チクチク痛んだが、どうやらこの姉弟とは縁がある。

 それが良縁なのか悪縁なのかまだ分からないが、関わる以上は味方でいて欲しい。


 適当にごまかせば信頼は得られないだろう。かといってすべてを話してしまうには彼らは幼すぎる。



「ユーリ様。俺はマギに魔力封じされた上で孤児院に捨てられたんです。それが何を意味するかおわかりになりますか?」

 俺の言葉に、はっとしたようにユーリ様が顔を上げる


「マギにとって、俺は邪魔者なんです。いつ、消されてもおかしくない」

「消されるって、それは大げさじゃないか」

 緋色の揺れる瞳に無表情な俺の姿が映っている。


「ラキシスはいったい何者なんだ?」

「それは、いつか話します」

「そうか」と俯いたきり、ユーリ様は黙り込んだ。


「心配してくれてるんですか?」

「心配なんかしていない」

 即答である。

 でも、いつの間にか、つかまれている服の裾が、なんだかとてもくすぐったい気持ちにさせる。


「ありがとうございます」

「心配してないって言っただろ」

「はいはい。ユーリ様は俺のことは心配していないんですね」

 ちらりと、つかまれている服の裾を見ると、慌てて手を離される。



 思わず、笑いがこみ上げてきて、プッと吹き出すと、みるみるユーリ様の頬が赤く染まっていった。

「心配していただいて嬉しいです」

「……」


「忘れないでください。いつかマギは、俺がアイツの魔法陣を解除したことを知るでしょう。その俺と公爵家が関わっていると知れれば、アリエル様の魔力封じのことも疑われます」

 ユーリ様は、はっとした顔で俺を見た。


「まずは、ユーリ様はアリエル様を守れるようにもっと強くなって下さい」

「もちろんだ」


「森でなら剣術の相手をいつでもしますから。ただ、こうやって呼びに来られては困るので、通信魔法を早く使えるようになってくださいね」

「練習している」

「そうですか。さすがですね」

 俺はふわふわの真っ赤な髪をくしゃくしゃとかき回し、やさしく撫でた。


「ラキシス」

「何でしょう」

「それ、やめろ」

 あ、やっぱり、頭撫でるのはやり過ぎでしたね。

 ぱっと手を離し「すみませんでした。つい調子に乗りました」と謝っておく。


「違う」

「?」

「敬語だ。これからは必要ないから」

「ですが、俺は平民ですし」

「教えをうのはこっちなんだし、そんなの関係ないから」

「ですが……」

 やはり、この世界身分制度は重要だ。


「と、」

「と?」

「友達に敬語はおかしいだろ!」

 叫んだ後、なぜかユーリ様は俺の脇腹を力一杯グーで殴った。

「グゲッ」

「いちいち恥ずかしいこと言わせるな」

「それはすみません」

 脇腹を抱えながらクスクスと笑いがこぼれると、「敬語!」ともう一発拳が飛んできた。

 今度は手のひらで受け止める。


「ふん」とそっぽを向いてどんどん先を歩く友人の背中を見つめて、ちょっと嬉しくなった。

 この世界に来て初めての友人だな。

 あっ、そう言えば昔、アリエル様にも友人認定されていたはずなんだけどな。

 まあ、友人にもすれ違いはつきものだ。

 ゆっくりこの関係を育てていこう。


 なにせ幼い友人はまだ気づいていない。

 公爵家という身分は友人だから味方になるという単純なものではない。

 だけどね。

 俺はチートだから。友達でいつづけるためなら何でもするよ。







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