表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/110

26話 寿命が縮むでしょ!

「はぁ〜」

 帰りの馬車に乗り込んで、私はようやく安堵のため息をついた。

 まじ死ぬかと思ったよ。


 それなのに当のユーリは「大丈夫ですか?」なんて呑気に聞き返してくる。


「大丈夫なわけないでしょ。さっきのあれは何なのよ。無謀にも程があるでしょ」

「決闘ですか?」

「それもそうだけど、だいたい馬鹿って何よ。王子に向かっていう言葉じゃないし。不敬って言われても弁解できないよ」

「別に王子が馬鹿だとは言っていませんよ」

「馬鹿じゃないなら謝れって迫ったんだから、言ったのも同じでしょ」

「まあそうともいいます」

「ユーリ、私のために無茶をするのはやめて」


 せっかくユーリとは仲良くなったんだから、万が一私がバットエンドを迎えそうなら助けてもらいたい。二人して断罪されたら目も当てられない。


「姉さま。心配かけてすいません。でも、殿下は公爵家を敵にまわすことなどできないのです」

「なぜそういえるの?」

「この国は隣国との戦争こそありませんが、常に魔王の存在に怯えているからです」

 確かに、ゲームでは勇者の出現に人間から戦争を仕掛けるけれど、魔王から人間界に戦争を仕掛けてくることは歴史的にもない。それでもいつ気が変わって攻めてくるとも分からないのも事実だけど。


「今の国王は無難な政治が得意ですし。国軍もそれなりに体裁は整っています。ただ、精鋭揃いの公爵家の騎士団にかなうものはいないのが現状で」

「ユーリ、不敬よ。王子のことはともかく国軍のことをそんな風に言っているのを誰かに聞かれたら」

 首が飛ぶ。


「事実ですから。最近では下級魔獣が襲撃してくるのも魔王のせいにしているらしいですよ」

「そうなの?」

 下級魔獣は、教会管理のもと、聖女と聖騎士が討伐に向かう。しかし、聖女はそれほど数が多いわけではないので、国軍の中から魔法が使えるものが討伐することが一般的だ。


「このところうちの騎士団にも、王命で魔獣討伐の依頼が増えているんです。公爵家以外、王家の尻ぬぐいできるができる貴族はいないのが現状です」

 にやり、と口角を揚げて笑うユーリは悪巧みをしているお父様にそっくりだ。


「そうかもしれないけれど、心臓に悪いから無駄に挑発するのはやめて」

「善処します」

 ユーリがこんなに挑発的だなんて知らなかった。公爵家のお坊ちゃんらしく清廉潔白で純粋に愛に生きるタイプって感じだったのに。

 なんかすごく腹黒さを感じる。



「それにしても、マリアンヌ様はちょっと感じが変わられた気がします」

 ぼそりと考え込むようなユーリの言葉が妙に引っかかっる。


「それって、あの可愛らしいお嬢様って感じが演技で実は結構凛々しいのが素の姿って感じ?」

「今まで親しかったわけではないのではっきり言えませんが、王宮で見かけるときはいつも後ろに控えていて、殿下に意見できるようには見えなかったですが……女性はある日急に変わりますしね」

 意味ありげにユーリは私の頬を指先でつついた。


 私もちょっとびっくりしたのよね。

 ヒロインはふわふわ系の天然キャラで、守ってもらうのが当たり前の少女だったから。



 まあ、今のヒロインの方が好きだけど。

 それにしても王子はゲームよりクズだったな。

 ユーリが側近になりたくないというのも分かる。


 学院入学前まではもう二人には会いたくない。



 ✴︎


 そう思ったのに3日後、マリアンヌ様からお詫びもかねて2人でお茶会をしたいとお手紙が来た。


「絶対に反対です。だいたいチェンバロ伯爵家であの様な無礼な目にあったというのに、今後一切関わる必要などないです」

「ユーリの言うこともわかりますが、マリアンヌ嬢は聖女候補。しかも殿下が押し切れば未来の王妃です。親交を深めることは悪くありません」

「お母様! その日は僕は殿下と辺境についての報告会です。先日のこともあるので欠席はできません」

「それは好都合じゃない。殿下もマリアンヌ嬢にくっついて来られないってことよ」

「それは……そうですが……」


 結論が出たところで、「このご招待お受けします」とお母様に返事した。

「分かりました。お返事を書きなさい」


「姉さま!」

 ユーリは不満そうな顔をしたが母の決定には逆らえず、何度も「早く帰ってくるからと」あれこれ根回しするのに部屋を出ていった。




 その日の夜。

 マリアンヌ様からの手紙を開き、名前の下に書かれている追記をまじまじと見る。

 そこには美女と野獣の薔薇が見頃だと書かれていた。



「美女と野獣の薔薇?」

 昼間手紙を読みながらお母様が、わずかに首を傾けて考え込む。


「何だか舌を噛みそうな名前でした。確か、ル・ルージュ・エ・ル……なんとか」

「ああ、ル・ルージュ・エ・ル・ノアール。王家の薔薇と言ってお気に入りの貴族に配っているそうよ。うちの庭にはまだないから楽しみね」

 笑顔なのに、なんでか怖い。

 ユーリってお母様に似たのね。


「あのお母様。美女と野獣のお話のモチーフになった薔薇ですよね」

「ん? それは知らないわね。今流行っているの?」

「ご存じない……」


 念のためアロマや他の使用人に聞いたが誰一人美女と野獣を知っていものはいなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
違和感あったけど、やっぱりそうなんだね。 果たして敵か味方か
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ