勇者視点 不思議な男 (ラキシス7歳)
すみません。時間軸が少し前に戻ってラキシス7歳の続きです。
ビエラは不思議な男だ。
会ったばかりのときは、フードをかぶり王都では通用する腕もなく、くすぶった田舎で効き目のないポーションを売る、取り立てて凄腕には見えない魔術師。
奴隷の入れ墨を消してもらい一緒に旅を始めてから2か月。
賊に襲われたり、追剥ぎに会いそうになったりしたが、ビエラは苦手だと言いながらも、魔法だけじゃなく剣の腕も確かで時には一人で何人も相手にして負けなかった。
日差しの下で見るビエラの瞳は力強く、じっと見つめられると心の中まで覗かれているようで、ドキリとしてしまう。
もしかして、印象の薄い店構えも、冴えない風貌もフェイクか?
なにもんなんだ、こいつ?
「何を難しい顔してる?」
「あ、なでもない」
正体は気になるが、ビエラのことは後回しでいい。
意外に快適な旅の合間に、前世について考えるのが先だ。
魔法封じされ、奴隷に身を落すキャラに一人心当たりがあった。
名前はラキシス。のちの勇者。
双子の王子の片割れで、不幸設定のキャラ。
この世界では双子は忌み嫌われていて、本来殺される運命だったが、王族であるため跡継ぎの予備として、魔法封じされて教会に捨てられた。初恋の聖女とも添い遂げられず、魔王討伐に成功するも王子とは認められず平民あつかいされること。その後どうなったかは知らないが、ここまでで十分、不遇の勇者って称号が似合いすぎ。
正直、ゲームで知っていることといえばこのくらいしかない。
俺にとってゲームの序盤はさらっと流すのが当たり前、設定なんてあとでいくらでも読み返せるし、そこはそもそも重要じゃない。
重要なのは、キャラの戦闘能力、攻撃の種類。隠しアイテム。ストレスを感じない戦闘環境だ。
学生なら時間を忘れて徹夜でゲームも普通だったけど、社会人になってからは、通勤や待ち時間にちょこっとやる時間潰しになればいい。
しかも、よりによってこのゲームは、途中放棄したやつだ。
面倒な設定と、序盤からの課金。
次のゲームを探そうと思っていたところ、たぶん俺は死んだ。
まさにありがち、最後にやってたゲームに転生したわけだ。
「あー、こんなことになるなら別のカンストしたやつがよかったのに、それだけは後悔だわぁ」
俺は何度目かのため息をつき、歩いた。
✳︎
「お前の師匠は本当にこんな所に住んでるのか?」
王都まで怪我することもなく順調にたどり着くことができ、数日間、王都観光をした後、城壁西の外に広がる山頂を目指す。
「もうすぐそこだ」といわれてから、もう山道を4日も歩いている。というかもうこれ山脈じゃね?
「ああ、ほら。仙人みたいな人だから。てか、人の域超えてるし」
訳の分からないことを言って、ビエラはニカっと人好きのする顔で笑った。
それからさらに3日、やっとビエラの師匠の暮らす小屋にたどり着いた。




