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21話 閑話 マズリー

「姉さま、先にリリーの所に戻っていてくれませんか」

 ユーリ様が、アリエル様の手をとり入り口へとエスコートする。

 壊れたトルソーが散乱する部屋は足を取られて転べば怪我をして危ない。


「ユーリは?」

「この辺を片付けてから上がります。壊したの僕ですし」

「そう。マズリー、この洋服はさっき言ったっ通り、買い取るから納品してね」

「いえ、とんでもございません。床についたお召し物を公爵家に納品などできません。早急に仕立て直しますのでお待ちください」

 あわてて、首を振るとアリエル様はにっこりとほほ笑んで「ユーリは気にする?」と首をかしげた。


 うぅぅぅ、かわいい。


 天使のような微笑みに、ユーリ様が「気にしない」と返事するのは当然のように思えた。

 だよね。この笑顔に逆らえる人間はいないだろう。

 それにしても、ユーリ様一人残って何を言われるのやら。


 *


 アリエル様たちが出て行くと、ユーリ様はゆっくりと振り返り、おさめていた剣を引き抜いた。


「マズリー。手を切り落とされるか目をえぐり出されるか選べ」

「何をなさるんですか? 私どもとは取引が成立したのでは?」

 冷たく首に当てられる剣先を目の端でとらえて、何とか冷静に質問する。

 声が震えなかったのを自分で褒めてやりたい。


「お前がどうしてそんな恰好をしているのかは知らないが、男のお前が姉さまの下着姿を見たり、ましてや採寸なんて許されるわけがないだろう。万死に値する」

 げっ!

 なんでバレたんだ?


「ちょっとお待ちを、この格好はだますためのものではありません。趣味です。趣味! もちろんアリエル様も知っていますし、デザイナーが男であることは多いですし、下着といっても決して肌が透けるようなものではないです」

 早口でまくし立てると、ユーリ様は考え込んだ後に剣を引いた。


「はぁ~」マジ殺されると思った。


「本当にお前が男だということはみんなが知っているんだな」

「みんなじゃありません。聞かれたら答えていますが、聞かれなければわざわざ言う必要はないでしょう?」

 実際のところ、男だとバレたことはない。

 貴族にとって、平民は虫けら同然、どちらでも気にしないお客の方が多い。むしろ、男の姿で店に出ていた時は、専属になれとしつこくからんでくる金持ちの夫人が多くて困っていた。

 女装するようになってから、単純にデザインだけで勝負できるので煩わしさがなくなった。


「姉さまをだましていないならいい」

 ユーリ様は、それだけ言うとさっさと出て行ってしまった。

 とんだブラコンだ。


 けっきょく誰一人片づけて行かなかった部屋を見回し、腕まくりをしてトルソーを起こしていった。


 それにしてもユーリ様もアリエル様もなぜ僕が男だとわかったんだ?



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