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13話 ソールの闇堕ち阻止 2

 さて、私は名探偵じゃない。

 断片的なピースをかき集めても、真実に迫るどころか疑問と罪悪感が増えるだけだった。

 なにせ思い出せたことといえば、ソールルートでヒロインが「たとえアリエル様と間違えて誘拐されたとしても恨んではいけない」とソールを諭すシーンだ。


 うーん。

 正直ソールルートに興味なかったから全然印象に残っていない。

 

「悪いのは誘拐した犯人で、誰かを恨んでいては幸せになれない」と涙ながらに訴えるヒロインに心癒こころいやされ恋に落ちる。


 しかし、結局はもともとアリエルが誘拐犯に恨まれており、復讐のために誘拐される手はずだったのを事前に察知し、自分の身代わりにソールの妹を誘拐させたのだ。それがバレて、最後断罪されてしまう。

 しかも八つ裂きである。


「これだけじゃ、いつ誘拐されるかわからない」

 途方に暮れて思わずため息とともに出た言葉に、「誘拐ってどういうことですか?」と緊迫した声が聞こえ、ユーリがものすごい怖い顔で近づいてきた。

 見ると、スティーブもアロマも緊張した顔になっている。


「ユーリ……大丈夫よ。ちょっと、今日見た夢のことを思い出しただけだから」

「夢ですか」

 まったく、びっくりさせないでくださいよ。とホッとしたユーリの横でアロマが「お嬢様それは夢見ですか」と震える声で言った。


「「夢見?」」

 ユーリと私、二人同時に問いかけると、アロマはこくんと頷き説明してくれた。


「お嬢様は昔から、時々夢で見たことを話してくださいました。ユーリ様だけが魔法陣を消してもらえることも、ご自分が領地に送られることも聞かされる前に知っておいででした」

 それはきっと、こんなにはっきりとは思いだす前に前世の記憶を夢で見たりしたのかもしれない。


「どこかでこっそり聞いていただけじゃないかしら」

「いいえ、そのほかにも王家の秘密や魔王城のことなど、普通では知り得ないことだと旦那様から伺っております」

 まあ、どれもこれもゲームの記憶よね。


「ここ何年もそのようなことがなかったので、旦那様も力が消えたのかもしれないとおっしゃっておりましたが、もし夢見なら報告しなければなりません」

「アロマ、目が座ってるけど。お父様に報告だなんて大げさなんじゃない?」

「いや、姉さま。それが本当なら現実になる前に報告して警備を最大限強化しなければ」

 たかが夢だというのに、アロマとユーリは今にも部屋を飛び出して行きそうな勢いだ。


「スティーブ、二人を落ち着かせて」

 助けを求めるように振り返ったのだが、スティーブは怖い顔で考え込んでいる。


「まさかあなたまで夢見なんて信じてないわよね」

「お嬢様の護衛騎士になるにあたり、公爵様からお話を伺った時は信じられませんでした」

「そうよね、夢が現実になるなんてありえないわよ」


「いいえ、お嬢様の夢見は本物です」

「は? スティーブまで何を言い出すの?」


「初めはちょっとしたことでした。その年は領地でも類を見ないほど小麦が豊作でしたが、お嬢様が来年からしばらくの間、水不足で飢饉が続く夢を見たと教えてくれたのです。半信半疑で公爵様にも報告しました」

 そうそうゲームでは公爵家が私の断罪後、没落するか、何とか商売を続けられるかの瀬戸際せとぎわの選択肢の一つだった。


「お嬢様の夢見がなければ例年通り、余剰よじょう小麦を高値で外国に売っていたでしょう」

 そう、その場合一時的に資産が増えて王家に対し発言力が増すなどレベル上げ出来るが、その後やってくる飢饉の借金で、数年間の食料不足から王家に大きな貸しを作ってしまう。


「公爵様は小麦をの領民のために備蓄し、水路の整備を早い段階から行うよう指示されたのです」

 こちらの選択をすると、領民を守ったことにより断罪後も領地で再起を図ることができるのだけれど、お父様は私の言葉を信じてくれたらしい。


「姉さま流石です。もしかしてお姉さまは聖女なのではないでしょうか?」

「えっ!」

 ギューッと抱きしめてくるユーリの言葉に、私は一瞬で血の気が引く思いがした。

 なんで、突然そういう話になるのよ。


「ち、違うわ。私は聖女なんかじゃない」

 むしろ、悪役令嬢なのよ。

 そう心の中で付け足す。


「ですが、未来に起こることがわかるなんて、聖女様だとしか思えません」

「違うわ」

 自分で思ったよりも大声で叫んでしまい、ユーリが驚いて私を抱きしめる手を緩めたので、すかさず距離をとる。

 心臓がドキドキと大きく音を立て、足の力が抜けていくのを悟られてはいけない。


「大声出してごめんなさい。でも、本当に違うの。えっと、あれは不思議な鳥の恩返しなの」

 もう自分でも、変なことを言っているなと思ったけれど、聖女だなんていわれて目立つのは何としても避けたい。


「恩返し?」

 ユーリは不信感いっぱいの目で私の顔を見る。

 ウッ……ユーリのこの悪役令嬢を見るような眼差しは辛い。

 信頼を得たと思ったけれど、噓をつけばあっという間に見放されてしまう事を思い知らされる。

 でも、未来がわかるのも乙女ゲームが終了するまでのあと数年だ。

 みんなに期待させることはできない。


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