第6話 ニケ
書庫を出たベアトリーチェはミゲルたちと別れ、ロレンツォを連れて玄関に向かっていた。
「ねぇ、まだ怒ってるの?」
「怒っていません。俺のお願いを無視して部屋を抜け出したことも、客人と距離を詰めていることも、全く怒っていません!」
むすっとした返事に怒りの深さが垣間見え、ベアトリーチェはこっそりとため息をついた。
――昔っから、こうなると後が長いのよね。
いつまでも隣で拗ねられていても嫌なので、普段より若干甘めの声を作り、自分と同じ榛色の瞳を見上げる。
「ごめんなさい、ロレンツォ。でも、お客様を放っておくわけにはいかないじゃない? 部屋を抜け出すのも、あなたを信頼しているからよ。だって、何かあってもすぐに駆けつけてくれるでしょ」
「そ、そんなお世辞が通用すると……」
「お世辞じゃないわ。いつも感謝しているの」
まあ、嘘ではない。過保護だと思うことは多々あれど、ロレンツォがしっかり見ていてくれるからこそ、安心して好き勝手できる節がある。
じっと目を見つめると、ロレンツォは怯んだ様子で「反則だろ……」と小さく呟き、頭をガリガリと掻いた。
「まあ、今回だけですよ。次からはちゃんと声を掛けてくださいね。何かあってからじゃ遅いんですから」
「心がけるわ」
たぶん守らないけど、と心の中で呟く。
「そうだ。ユスフ領ってどんなところか知ってる?」
「ユスフ領?」
突然の話題転換にも関わらず、ロレンツォは律儀に首を捻った。
「俺もあまり詳しくは……。ただ、そんなに裕福な土地じゃないみたいですね。たまに暴動が起きて、親父たちが鎮圧に駆り出されてますし」
ロレンツォの父親と兄二人は女王陛下直属の騎士団に勤めている。なまじ有能なので、人使いが荒い女王に島の端から端までこき使われているらしい。
「そう……」
ため息混じりの声は自分でもわかるぐらい沈んでいた。縁もゆかりもない土地とはいえ、日々の食事にも事欠く領民がいるかと思うと胸が痛い。
ニケも苦しい生活を強いられていたのだろうか。もしかしたら、出稼ぎに出ていて事故にあったのかもしれない。
――それなら、ここにいた方が幸せなのかしら。でも……。
ロレンツォに気づかれぬよう、そっと首を横に振る。
選ぶのはニケだ。たとえ故郷がどんなところでも、ベアトリーチェに口出しできる権利はない。
「そういえば、そこの長男がベアトリーチェ様の伴侶候補に手をあげていましたよ。釣り合いが取れなさすぎるので、丁重にお断りしましたが」
「えっ」
全く記憶にない。目を点にしたベアトリーチェに、ロレンツォが小さく笑う。
「まあ、覚えてないでしょうね。たくさんあった求婚のうちの一つですから。確か……」
そこで少し間をおき、ロレンツォは記憶を辿るように視線を宙に彷徨わせた。
「ベアトリーチェ様の力が発現してすぐの頃でしたね。島の西端にいる割に、やたら耳が早いなと思った覚えがあります。それだけ切羽詰まっていたのかもしれませんが」
財政状態に余裕がない分、誰よりも早くアプローチしてベスタ家の支援を得ようとしたのかもしれない。
しかし、さすがのベアトリーチェも同情で結婚したくはない。エンリコと出会った今なら尚更だ。
「それにしても、どうして突然? ユスフ領なんて、今までもこれからも足を踏み入れることなどないでしょうに」
ニケの出身地かもしれないから、とはまだ言えない。誤魔化すように微笑む。
「別に深い意味はないの。ただ、ちょっと気になっただけ」
玄関の扉を開け、外に足を踏み出す。車止めに停めた馬車のそばで、ニケとエルラドが談笑しながら荷下ろしをしていた。
地面に広げた敷物の上には、絨毯らしき筒がいくつも積まれている。きっと織物工房で買い込んできたのだろう。ベスタ家においては、当主の夫だろうが進んで肉体労働に励む。そのあたり、エンリコと似ているのかもしれない。
「ニケ、お帰りなさい! お父様も!」
「ただいまです、お嬢様。どうしたんです? そんな満面の笑顔で。エンリコ様はお部屋に戻られましたよ」
悲しいが、それはわかっている。せっかくのチャンスをフイにするのは惜しいが、今はそれよりもニケと話したかった。
「ベアトリーチェ、お父様はついでかい?」
「お父様は後でね。ニケ、ちょっとこっちに来て!」
悲しそうに眉を下げるエルラドを軽くあしらい、ニケの手を取って駆け出す。その勢いのよさに、後ろで一つに縛ったニケの赤毛が大きく跳ねた。
「ベアトリーチェ様! あまり遠くに行かないでくださいよ!」
「わかってるわよ、ロレンツォ!」
すかさず忠告が飛んできたが、追いかけては来なかった。さすがのロレンツォも、使用人と話す時まで目くじらを立てたりはしない。それに、エルラドに今日一日の報告があるはずだ。
「お嬢様、どこまで行くんですか?」
「すぐそこよ!」
戸惑うニケを連れて玄関脇の木のアーチを潜ると、そこにはささやかな空間が広がっていた。
ガーデニング好きな先祖が作った小庭で、椅子やテーブルはないが隅に小さな井戸があり、大人二人ぐらいなら十分に座れる。その上、小庭をぐるっと囲むように綺麗な紫色の花をつけた木が植えられていて、落ち着いて話をするにはもってこいの静かな場所だ。
ベアトリーチェはニケを井戸の縁に座らせると、自分もその隣に座り、内緒話をするように片手を口元に当てて顔を寄せた。
「ちょ、ちょっとお嬢様。近いですよ。一体、どうしたんです?」
「あのね。あなたの出身地が分かったかもしれないの」
「……え?」
びくりと肩を震わせたニケが、呆然とベアトリーチェを見る。
こぼれた声は普段より低いような気がしたが、きっと驚いているのだろう。何しろ、ようやく記憶を取り戻す手がかりが見つかったのだから。
「エンリコ様たちがいらっしゃった時、荷下ろしをしたでしょう? 覚えてる?」
「そりゃあ……。御者の仕事ですからね」
「その時ね、あなた『たいぎい』って言ってたんだって。ミゲル様が覚えてたの。ここからずっと西の、ユスフ領あたりの方言らしいわ。あなたの故郷もそこにあるんじゃない?」
笑顔のベアトリーチェとは対照的にニケは暗い顔だ。その落差に少し冷静になる。
「どうしたの? 嬉しくないの?」
「いや……嬉しいです、けど……本当にそう言ったんですか? 覚えがありません」
「じゃあ、無意識に出たのかしら。でも、それって身に染み付いているってことでしょう? やっぱり当たっているのよ」
励ますように顔を覗き込む。しかし、ニケはベアトリーチェから目を逸らすと、それ以上の話を拒むように俯いた。
沈黙が降りる小庭の中を優しい風が吹き抜けていく。
ざわめく葉の隙間からひらひらと舞い落ちる紫色の花に目をとめた時、ようやく顔を上げたニケが真剣な表情でベアトリーチェを見つめた。
「……そのこと、誰かに話しましたか?」
「ううん、ニケが初めて。だって、一番に教えてあげたくて」
「カテリーナ様たちには、まだ黙っていてもらえませんか? もし、間違いだったら申し訳ないし……」
今にも消え入りそうな声に切なさが募る。
この屋敷に来た時、カテリーナたちが反対していたことを気にしているのかもしれない。
「そんな。ニケのためだもの。たとえ間違いだったとしても構わないわ。みんなに協力してもらった方が……」
「怖いんです。自分と向き合うのが。記憶を取り戻したら、俺が俺じゃなくなるかもしれないし、だから……」
「ニケ……」
縋るようにベアトリーチェを見るニケは、今まで見たことがないくらい苦痛に満ちた顔をしていた。膝と膝の間で強く握りしめた両手が小さく震えている。
――これ以上、何を言えるっていうの?
男らしく筋張ったニケの手を包み込むように触れ、きゅっと力を込める。
「わかったわ。誰にも言わない。もし決心したら教えて? その時は、私もあなたの故郷や家族を一緒に探しに行くから」
「……お嬢様は他国に……フランチェスカに行きたいんじゃないんですか? 俺なんかのために、夢を諦めるつもりですか?」
「何言ってるの? ニケは大事な家族だもの。優先するに決まってるじゃない。それにね、誰が諦めるって言ったの? フランチェスカには絶対に行ってみせるわ。ミゲル様たちだって、歓迎するって言ってくれたもの!」
社交辞令かもしれないが言質は取った。数年先になったところで、ベアトリーチェの人生はまだまだ長い。
とはいえ、その間にエンリコが結婚してしまったら泣くかもしれないが。
「……お嬢様には敵わないや」
今にも泣きそうな顔で、ニケがふっと笑う。次の瞬間、背後の茂みから突然ニーナが姿を現した。
頭に葉っぱがのっているところを見ると、木々の隙間を突っ切ってきたらしい。
「ニ、ニーナ……。なんでそんなところから」
「屋敷の中からだと、こっちが近道なんです。勝手口のそばなので」
冷静に答え、ニーナは頭から葉っぱを払い落とした。
「それよりお嬢様。いい加減、戻ってきてくださいよ。ロレンツォが熊みたいに唸りながらウロウロしてて邪魔なんです」
「あら、そんなに話し込んでないわよ。こらえ性がないわね」
「それだけお嬢様を心配しているんですよ。いつも必死なんですから、あんまり振り回さないであげてください」
「あらやだ、ニケまでそんなこと言って!」
すっかり元の調子に戻ったニケに安心しながら、ゆっくりと立ち上がる。そして、そのままニーナについて行こうとしたところで足を止め、肩越しに振り返った。
「ねぇ、ニケ。私ね、あなたの馬車に乗るのが好きなの。だから、もし……自分を取り戻しても、一緒にいてくれると嬉しいわ」
大きく見開かれた鳶色の瞳から逃げるように歩を進める。何だか物凄く気恥ずかしくなったのだ。
熱くなった頬を冷ますために手のひらで仰ぐベアトリーチェに、ニーナが不思議そうに首を傾げる。
「今日は涼しい方ですけど……。そんなに暑いですか? 一体、ニケと何を話していたんです?」
「んー……ちょっとね。ねぇ、ニーナ。男の方って、何年ぐらい待っていてくれるものなのかしら。その……婚約まで漕ぎ着けたらの話だけど」
「残りの一週間でエンリコ様に猛アタックをかけるつもりですね? さっき、ニケからロレンツォをあまり振り回すなと言われたばかりでしょうに」
「やだわ、もう! そんなにハッキリ言わないで!」
バシッと背中を叩くと、ニーナは大きな笑い声を上げてベアトリーチェの頭を愛しげに撫でた。
「私は結婚していませんからねぇ……。カテリーナ様やエルラド様にお聞きになった方がいいと思いますよ」
「二人には聞けないからニーナに聞いてるんじゃない!」
ぶうっと頬を膨らます。そこでふと、カテリーナが外出していることを思い出した。
「そういえば、お母様は? ヴィットリオと出かけているのよね? どこに行ったの?」
「農場です。エルラド様たちが出かけてすぐに、火事が起きたと連絡が入ったんですよ」
「えっ? 火事?」
思わず足を止めると、ニーナは榛色の瞳を痛ましげに細めた。
「ええ。応援を呼びにきたものの話だと、結構な範囲が燃えているそうです。お聞きになってないんですか?」
「だって、部屋に閉じ込められていたんですもの……」
口惜しさと、カテリーナたちへの苛立ちに唇を噛む。
朝のエルラドと同じだ。ベアトリーチェに話せば無理やりついて行くとわかっていたから黙っていたのだろう。
「農場のみんなは無事なの?」
「幸いにも、犠牲者はいないようです。米もバナヌも収穫した後でしたしね。火が出た時には、みんなのんびり家にいたそうで」
「よかった……」
人的被害がなかったことに胸を撫で下ろす。
「どうして火が出たのかしら……。いつもきちんと管理していたでしょう?」
「原因はまだわからないそうです。あそこには今、小さな子供はいませんしねぇ。精霊の力の発現ではないと思いますよ」
ニーナに促されて再び歩き出しながら、腕を組んで小首を傾げる。ここ数日いい天気で乾燥していたから、どこかから火種が飛んできて一気に燃え広がったのだろうか。
――それとも、他領からの嫌がらせ?
そこまで考えた時、ベアトリーチェは己の考えを振り払うように、ふるふると頭を振った。確かな証拠が出てきたわけでもないのに、他領に疑いを向けてはいけない。
しかし、一度胸に芽生えた疑惑はそう簡単には消えてくれなかった。
「……眠れないわ」
草木も眠る丑三つ時、ベアトリーチェは爛々とする目を窓の外に向けた。夜になるにつれて徐々に強くなってきた風が、黒い影と化した木々をしきりにざわめかせている。
それが何か不吉なものを連れてくるように思えて、ベアトリーチェはベッドの上に身を起こした。
「お母様たち、大丈夫かしら……」
結局、カテリーナたちは屋敷に戻ってこなかった。今もまだ消火活動をしているのだろうか。何しろ詳細な状況が入ってこないので、嫌な想像が次から次へと膨らんでくる。
ただ、エルラドは夕食時もいつもと変わらない様子でのんびりと構えていたから、考えすぎなのかもしれないが。
「ダメだわ。とても眠れる気分じゃない」
ベッドから降り、音を立てぬように慎重に扉に近づく。この向こうにいるのはロレンツォではないから、そこまで警戒する必要はないが念の為だ。
いくら頑丈でも二十四時間働けるわけではないし、男性が未婚女性の寝室の前に一晩中詰めているというのも倫理的に問題なので、夜間は女性騎士が哨戒にあたることになっている。
「……このあたりよね」
騎士が立っている場所を見極め、精霊の力を向ける。一瞬の間の後で、何かがずるずると床にくずおれる音がした。そっと扉を開けると、すやすやと寝息を立てた女性騎士が、扉に押されてゴロンと床に転がる。
浮遊の力と同じく、ベスタ家ではベアトリーチェだけが使える眠りの力だ。これだけはカテリーナにも教えていない。正真正銘、ベアトリーチェの切り札だった。
「バレたら軟禁じゃ済まないものね。四六時中、監視されるなんて真っ平よ」
小さく呟き、ぶらぶらと廊下を歩く。窓から差し込む満月の光のおかげで、明かりがなくともある程度は見える。
騎士の大部分が農場の応援に向かっているせいか、屋敷の中はいつもより閑散としていた。薄いネグリジェにローブを羽織っただけなので、少し肌寒い。
ペタペタと一階まで階段を下り、さて、どこに行こうかと視線を巡らした時、微かに開いた勝手口が見えた。
「あら、不用心。泥棒が入ったらどうするのよ」
いくら治安がいいとはいえ、悪人がいないわけじゃない。扉を閉めようとドアノブに手をかけたが、ふと思い立ち、そのまま外に足を踏み出した。
強い風がベアトリーチェの赤毛を激しく波立たせていく。まとわりつく髪の隙間から見えるのは、小庭で見た紫色の花だ。
「ニーナの言っていた通り、ここは小庭の裏手なのね……」
誘われるように木の隙間に体を滑り込ませ、前へ前へと進んでいく。そして、無防備な手足を枝で擦りながら何とか抜けた先には、まるでお伽話のような光景が広がっていた。
「エンリコ様……」
風に舞う紫色の花の下で、満月の光を浴びて美しく輝く金色の髪が闇夜の中に浮かび上がっている。薄い寝巻きを身につけているせいか、普段は隠されている体の線がはっきりと見えて、どうしても視線がそちらに向く。
――まるで彫刻みたい……。
夢を見ているような気持ちで眺めていると、こちらを振り向いたエンリコが青い目を見開いた。どうやら、この激しい風の中でもベアトリーチェの声は届いたらしい。
「ベアトリーチェ嬢……。どうしたのです、こんな夜中に」
「眠れなくて……。エンリコ様こそ、どうして?」
「満月の夜にだけ咲く花があると、ニケさんに教えてもらったので」
――何よ、ニケったら。そんなロマンチックな話、なんで教えてくれなかったの?
心の中で愚痴りながら、井戸のそばで佇むエンリコに近づき、人差し指の先に目を向ける。そこには、小さな鈴が連なったような白い花たちがひっそりと風に揺られていた。
思ったよりも小ぶりで、ベアトリーチェの手のひらぐらいの背丈しかない。月が出ているとはいえ闇の中だ。こうして言われなければ、とても気づかなかっただろう。
「あら、可愛い。なんていう花なのかしら。こんなところに咲いているなんて、初めて知ったわ」
「ドリスというそうです。……ベアトリーチェ嬢もご存知なかったのですか?」
「普段は夜に出歩かないから……」
そこまで言った時、常にエンリコに付き従っている人影がないことに気づいた。
「リカルド様はご一緒じゃないのですか?」
まさかベアトリーチェみたいに撒いてきたわけではないだろう。キョロキョロとあたりを見渡すと、エンリコはふっと小さく笑った。
「私にだって、たまには一人になりたい時ぐらいありますよ」
少しの沈黙の後、どちらともなく井戸の縁に座る。気の利く使用人が蓋を閉めてくれていたおかげで、風に吹かれても落ちる心配はない。
冷えるせいか、肩に触れる体温がとても熱く感じて、無性にドキマギした。
「お爺様の形見をいただきまして、ありがとうございます。そしてバナヌの効能の件も。ミゲルから聞きました」
「いえ、そんな大したことでは……。喜んでもらえるといいなと思って……」
「そう思えるのは、とても素晴らしいことですよ。みんながみんな、あなたみたいに生きられるわけじゃない」
そこで一呼吸置き、エンリコはベアトリーチェを見つめた。海で見せた時と同じ、まっすぐな眼差しだった。
「あなたは素敵な人だ。いるだけでその場を明るくさせる。まるで夜を照らす篝火のようです」
――やだ、なんでそんなに甘い顔をするの?
普段の無愛想な顔とは比べ物にならないくらいの笑顔を向けられ、頭がくらくらとしてくる。ミゲルの言葉を信じるなら、フランチェスカ中の小麦が枯れてしまうんじゃないだろうか。
――ああ、心臓の音がうるさい。口の中がカラカラに乾いて、息がしにくいわ。
「ベアトリーチェ嬢……」
低い声で囁かれ、大きく体が跳ねる。
その弾みでエンリコの手に自分の手が重なり、ベアトリーチェの中で何かが弾けたような気がした。
「あ、あの、私……」
――告白するなら、今だわ!
震える唇で続きを紡ごうとした瞬間、強く手を引かれ、逞しい腕にギュッと抱き締められた。そして声を上げる間もなく、そのまま地面の上に押し倒される。
――えっ、何? この急展開!
視界がぐるりとまわり、闇の中でエンリコの金髪が舞う。
その向こうで、煌々と輝く満月が戸惑うベアトリーチェを見下ろしていた。