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妖怪✕人間の救済記録  作者: 山公乃傘
四章 神隠し編
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聞き込み・斎京未弥


 綿雪が次に話を聞きに行ったのは、校長先生の母、斎京(さいきょう)未弥(みや)である。

 客間から出て廊下の端にある部屋について扉を開けると、そこには白髪の、八十代に見える女性が居た。


「あら昭吾。アンタ老けたわねえ……そちらの美人さんは彼女?」


 彼女の部屋に入って開口一番、飛んできたのはそんな言葉であった。


「何を言ってるんだよ母さん。お客さんだよ」


 校長先生はそう言うと、「すみません。母は認知症で……」と綿雪に事情説明を入れる。

 なるほど。大分ボケてしまっているらしい。


 綿雪は「大丈夫ですよ」と言うと、ベッドに座って此方を見上げて来る校長先生のお母さんに、かがんで視線を合わせた。


今日(こんにち)は。昭吾さんが校長をしている学校で教師をさせて貰っています。水浅葱綿雪です。今日は十年前の昭太さんの事についてお話を伺いたいのですが、大丈夫ですか?」


「昭太? そう言えば最近見てないねえ。昭太ともお知り合いなの?」


「……」


 綿雪は外向きの顔を少しばかり苦笑して崩すと、「どうしたもんか」と校長先生の方を見やった。視線を向けられた本人はと言うと、バツの悪そうな顔で頭を下げ、首を横に振る。


 ……成程。当時の事を聞くのは無理か。


 綿雪がそう察すると、校長先生が、お母さんの方へと歩を進めながらフォローを入れた。


「……そうなんだよ。さっきお話をしていたら、昭太の話になってね。ほら、母さんなら面白い話を知って居るんじゃないかって、こっちに来たんだよ」


「成程ねえ……でも何かあったかしら。凄く大人しい子で、アンタの方がやんちゃだったものだから……」


 校長母は白髪頭を傾けながら考え込むと、暫くして手を合わせた。


「あ、やんちゃと云えば、いつだったかね。アンタが家出した時、昭太が『僕が探してくる』って言って、そのあとアンタの後を追いかけて飛び出て行った事が有ったねえ……あれはひやひやしたわ」


「おい母さん。昭太のことを話すのは良いが、俺に飛び火させるのは止めてくれ。一応俺はこの人の上司なんだから」


「でもちゃんと帰ってきてくれて良かったわよねえ」


「母さん……」


 校長先生がガクリと項垂れる。勿論お母さんの語りは止まらない。


「家を飛び出る前は、昭吾の方が泣いていたのに、帰ってきたときには逆にね、昭太の方が大泣きしていてね。吃驚して安心して、叱るのも忘れちゃったわ。皆でお煎餅食べたわねえ……」


「……そうだったな。ああ、うん。あー、えーっと、母さん、そのくらいにして欲しいんだが」


「昭太が泣きながら食べるものだから、お煎餅がふにゃふにゃになってて、昭吾が自分のと取り替えて、泣くなよっていってたわよねえ。その時はもう、この子も優しい子なのよねえって、感動したわねえ……」


「母さん……」


 校長先生のガクリ再び。黒歴史なのかも知れない。


「でも、本当に帰ってきてくれて良かったわよねえ……この辺りは人の目がないところも多いから、探すの大変なのよ。特にあの、遊歩道の先の神社とか」


「あら。遊歩道って、駅からここに来るまでに登る彼処ですか?」


 綿雪がそう聞く。はて、来た途中にそんなもの有っただろうかと。


 ……鳥居でも参道でも、見えるところに有ったら流石に分かるはずなのだけれども。

 ……と言うことは、視認できる場所には既に(・・)ない……?


「ああ。廃神社なのよ。私が子供の頃にはもう誰も居なくてね、道も殆ど分からなくなっていたわねえ……行ったことあるけど、あそこは普通見えないわ」


「そんな状態で、よく有るって分かりましたね」


「嗚呼。お父さんがね、私のお父さんが、教えてくれたのよ。昔神社があったんだって。それで、興味本位でね、一度遊びに行ったのよ。そしたらそこに……子供が居てね、一緒に遊んでたの。きっと私と同じで、興味本位で見に来たのね」


 なるほど、予想通りだったらしい。


 ……となると、昭太さんはそこに行った可能性もあるのか……。

 ……廃寺だの廃病院だの、山の中だの坂道だの、攫われやすい場所の典型だ。目撃者が居なくて、怪奇現象なんかが集まりやすい。神社なら神様って言うこともあり得るかな。


 斎京昭太が生きているとするのならば、そこでナニカに攫われた可能性は否定できない。

 綿雪がそう予想を立てていると、「んー、でも」と校長先生のお母さんが、また口を開いたところだった。


「その子とは暫くそこで遊んでいたけど、何処の子だったのかしらね。学校で会うことはなかったし、それに、何人かに聞いて捜してみたけど、誰もその子のことを知らなかったし」


 こてん、と首を傾げた校長母は、しかし気を取り直すように笑うと、話をこう収めた。


「まあ、私も、その子に会わなくなってから、吃驚するくらい早く、その子の声も、顔も、名前も、何も思い出せなくなってしまったのだけれど。もう、男の子だったか女の子だったかも分からないわ。結構、仲が良かったのだけどね」


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