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妖怪✕人間の救済記録  作者: 山公乃傘
一章 邂逅編
3/115

津島三七十、連行される


 幸宮高等学校文化祭一日目、十一時二十五分。ある二年生の教室では、出し物として縁日が行われていた。客入りは十人程で、主に中学生以下の子供が半数を占めており、他は其の子供の保護者などが大半を占めている。


 そんな中、特に目立つ二人組が居た。


 一人は先の黒い白い狐耳と狐尾を持つ、着物姿の美女。

 もう一人は黒鳶色の髪に赤茶色の目を持つ、猫耳を付けた美少年。


 こんなシュールな二人組は他には何処にもいないだろう。というか一組居れば十分である。


 射的の銃を片手に、美女こと綿雪が言った。


「おい三七十(みなと)! 次は何が欲しい? 何でも言ってみ給え!」


 聞かれて、美少年がこと津島三七十は疲れたように言う。


「取られたらお店の人が一番困りそうなやつ」


 何頼んどるんじゃ猫耳野郎。


「了解!!」


 了解じゃねえよ。


 現在、津島は(半強制的な)約束通り、綿雪に文化祭を案内している。


 綿雪のはしゃぎ方は子供の比ではない。とても三百歳越えとは思えない程のテンションの上がりっぷりである。


 今やっているのはお察しの通り射的で、実に三回目。


 下手な子供が楽しんでやっている分には微笑ましい光景なのだが………先程から店側の二年生はハラハラしていた。


「よしっ、十二発目!!」


 言うと、綿雪は恐らく一番値段の高かったのであろうぬいぐるみに銃口を合わせた。何処を打てばバランスが崩れるのか計算し、打つ。


 放たれたコルク性の弾丸は狙い通りの場所に当たり、ぬいぐるみを床に落とした。


 本日十二個目の景品。


 周りからは、おいおい冗談だろう? といった囁きが聞こえてくる。


 もうお分かりだろう。運営側がハラハラしている理由が。


 この妖狐、射的が上手すぎるのだ。

 今まで撃った十二発全てが、見事に景品を床に落としている。


 もう運営側が可哀想である。一日目の序盤にここ迄取られてしまうとこれからの営業に支障が出るし、客寄せのぬいぐるみ迄取られてしまったのだから。


 もう止めてあげて。営業できなくなっちゃう。


 この場に居る誰もが、この人景品全部掻っ攫うんじゃないか、そう思い始めた頃、この場に二人の救世主が現れた。


 尤も、津島からすれば彼等は疫病神にでも見えたのかもしれないが。


 その二人は廊下を通り過ぎようとして、横目で津島を見つけると、そのまま大急ぎで教室に入ってくる。


 そして教室に足を踏み入れ、第一声。


「おい三七十!! こんなところに居たのか! 十一時には体育館横集合って言われてただろうが! つうかまた女の人と遊び歩いてたのかてめぇ、いい加減にしろ!!」


 救世主の一人、赤茶色の髪をした少年が、津島を見るなり指さし叫んだ。


「げっ」津島が眉をひそめた。「柏村……何でいるの」


 そう、彼の名は柏村(かしわむら)(さい)。津島と同じクラスで、更には彼の幼馴染である。


「津島君を迎えに来た。何時までたっても来ないから」


 津島の疑問に、柏村の後ろに居た、黒髪碧眼、眼鏡を掛けカメラを持った少女が答えた。


 彼女の名前は竜胆(りんどう)ルーシー、写真部。津島が教室で寝ている間に写真を撮った人物である。


 というか彼女は現在進行形でシャッターを切っている。音が出ないのと首から下げたまま碌に構えず撮っているので津島は気づいていないが。


 因みに盗撮は犯罪なので良い子は真似をしてはいけない。シャッター音を消すのも駄目だった筈である。駄目だよ、マジで捕まるから。


「ところで、その人は?」


 竜胆が綿雪を見て聞いた。


「むう」津島が面倒くさそうに答えた。「ちょっと色々あってねえ、案内しているのだよ」


「うん、色々あってね」


 綿雪が笑顔で肯定した。


 勿論細かい所は省く。説明が手間なのと、言っても信じてもらえるのか怪しいからだ。


 ……話はズレるが、何故誰も綿雪の格好に言及しないのは何故だろうか。


 二人の雰囲気に柏村は少し首を傾げたが、今はそれどころじゃないというように津島の手を掴み、言った。


「まあいい、兎も角行くぞ。もう準備始まってんだから」


「えぇ、善いじゃない僕が居なくたって」


「駄目に決まってんだろうが!」


柏村がまた叫んだ。が、その後目線が津島の猫耳に行くと、少し顔が引きつった。しかし何とか耐えて言葉を続けようとする。


「そもそもなあ………」


が、彼の言葉は途中で止まった。そして、笑いを堪えつつ一言。


「……………ちょ、竜胆、俺もう無理なんだけど」


 津島の顔に疑問符クエスチョンマークが浮かんだ。


 この馬鹿は一体何に笑っているのだろうと思ったのだ。


 知らないとは幸せなことである。


 一方、聞かれた竜胆は涼しい顔で返す。


「駄目。耐えて」


「いやいやもう言おうぜ、つうかまだ気づいてないことが……いやもう無理」


 言うと柏村は腹を抱えて笑い出した。


 津島はますます分からなくなる。


 いや、柏村、御前(おまえ)はよく耐えたよ。


 いやほんと、何故この主人公は猫耳の存在に気づかないのか。


「ちょっと君ねえ、一体何で笑っているのさ。なに? 箸が転げても可笑しいお年頃なの? 馬鹿なの?」


 馬鹿はお前じゃ。


 しかし柏村は笑いすぎて喋れていない。よって教えられない。


 津島は竜胆に期待して目線を向けた。しかし思い切り目を逸らされてしまった。


 一体何だ? 僕の何がこの馬鹿を笑わせて居るんだ?


 と津島は思った。自分の頭を見ろ。


 未だに分からないと言ったような津島を見て、今まで様子を見ていた綿雪が、「なあ三七十。若しかしてこれじゃあないか?」といい、津島の猫耳を指さした。


 ん? 頭? 頭に何か付いているの?


 そう思い、津島は自分の頭に片手を伸ばした。


 猫耳の先が指に触れた。


 …………ん?


 手で形状を確認し、ゆっくりと外していく。


 柏村に掴まれて居ない方の手で持って、頭についていたそれを目の前に持って来る。


 津島、現状確認中。


 竜胆が、今度はカメラをしっかりと構えた。


 瞬間、ぶわっ、と津島が顔を赤くした。


 竜胆がシャッターを押しまくった。


「な、な、な、何じゃこりゃあ!!」


「ね、猫耳だよ馬鹿野郎、ひぃーはっはっは。腹痛え」


 津島が叫び、柏村が笑いながら答えた。


 竜胆は無言でシャッターを押している。いや無言では無かった。小声で「赤面、イイ。萌える」と言っている。若しかしたらこいつも案外やばい奴だったのかもしれない。


 それに気付かず津島は疑問をぶつける。


「な、なんっで、一体何時から⁉」


「クラスルームで、御前が寝てた時……待って笑い死ぬわこれ」


「ちょ、なんで誰も言ってくれなかったのさ!」


「文化祭だからなあ、突っ込む奴なんて居ねえよ。抑々だから文化祭の日に付けたんだし」


 言い終わるとまた柏村はまた話せなくなるほど笑った。


 津島の顔はもう怒りと羞恥心で真っ赤である。


 津島は綿雪を見て言った。


「綿雪!! なんで教えてくれなかったの!」


「んー、そう言う趣味なのだろうなあ、と思ってねえ」


「そんな趣味あるわけが無いよ! 僕の事何だと思ってたの!」


「残念な趣味の顔だけは良い奴」


「酷い!!」


 その後も津島はグダグダと文句を言い続け、柏村は笑い続け、竜胆は写真を撮り続け、綿雪は面白いなー、とその様子を眺め続けた。


 周りは様子を見る事しかできなかった。こんな見た感じ半数が変な奴の輪に入れる勇者はこの中には居なかった。ごめんなさい営業妨害ですね。マジすんません。


 五分かそこら経ったころ。


「あー、そうだこんな事してる場合じゃねえ。ほら行くぞ三七十」


 柏村は笑いながら、(ようや)く本来の用事を思い出した。


「イ・ヤ・だ! こんなクラスの出し物なんてやりたくない!」


 津島は駄々をこねた。そんな様子もばっちり竜胆が撮っていることも知らずに。


 何度も言うが盗撮は犯罪である。良い子は絶対に真似をしてはいけない。


「猫耳については完全に自業自得だろうが! 懲りたらこれ以上人に迷惑掛けんな!!」


 正論である。


 ところで突っ込み担当が増えて安心しているのは自分だけだろうか? 地味にこの小説始まって初めての純粋な突っ込みキャラじゃあるまいか、この人。


「それも嫌だね! こんな楽しいこと止めるもんか!」


「おまえなあ…」


 柏村は呆れた声で言った。


 そんな中、竜胆はシャッターを押す手を休め、一度時計を見た。現在時刻十一時三十二分也(なり)


「柏村君、そろそろ本当に間に合わなくなる」


「確かにそうだな。オラ行くぞ」


「だから嫌だって言っているでしょ!」


 これでは埒が明かない。さて如何したものかと柏村が思い始めた時、綿雪が口を開いた。


「ところで、君たちの出し物は何だい?」


「嗚呼、演劇ですけど」


 そう、説明が遅れたが、津島のクラスはこの文化祭で演劇をする。


 やるのはなんとも凝っていることに、クラスメイトがこの日のために書き下ろしたオリジナルの台本。衣装も凝っていて、更に主演がイケメンと言う事で大分注目されていた。


 因みに主演のイケメンとは津島の事である。おのれ美少年、本当に顔だけは良い。


 故に柏村と竜胆には何としても津島を捕ばk……連れていく義務があるのだ。こいつが居ないと始まらない。


「へえ、演劇ねえ。三七十も出るの?」


「嗚呼、むかつくことに主演でして、コイツが居ねえと意味ねえんです」


 ここら辺で津島は嫌な予感がし始めた。


 そんな中会話は続く。


「主演? この子が? 会って一時間弱の私が言う事じゃあないが、この子相当な面倒くさがりだよ。本当に大丈夫?」


「それが、『女性を口説く手間が省けるー』、とか言って乗り気なんですよ。台詞も演技も一発でものにしやがりまして」


「それは何とも……」


 綿雪が微妙な顔で頷いた。そして続けて、津島の冷や汗を加速させる一言を言う。


「でも演劇か、見てみたいなあ」


 見てみたい。と言う言葉に津島が肩を揺らした。


 それもそうである。綿雪を怒らせるとまたあのような目に合うかもしれないのだ。故に津島は綿雪に強く出られない。


 ここで綿雪に出ろと言われれば詰みである。


 否、まだだ。まだ何とか出来る。そもそも案内という約束だ、演劇に出れば案内が出来ないのだから、それを言えばまだ何とかなるかもしれない。


「わ、綿雪。劇に出ると君の案内が出来ないのだけども」


 もう津島は絶対に劇に出たくなかった。いや出ろよ、という話ではあるが。


 それを知っているのか知らないのか、この妖狐は、


「ん? 否、自分の役割を放棄してまで案内してくれなくても善いよ。それに私も君の演技見たいしね。というわけで、 出 ろ 」


 と、満面の笑みで言い放ったのだった。


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