攻防戦
狂わせる。
死んでくれ死んでくれ。
昼夜関係なく聞こえてくる、暗く無機質で、無気力な声。
死んでくれ死んでくれ死んでくれ。
耳を塞いでも聞こえてくる。まぁ、そらそうか。だって外から聞こえるわけじゃないんだから。頭の中からなんだから。ただ歩いていても、好きな音楽を聴いてても、好きな映画を見ていても、好きな本を読んでいても、ずっと。寝ている時も、ずっと。数年前から。
最近は夢にまで出てきてさ。困るよねぇ、参るよねぇ。黒ーい暗ーいモヤモヤワヤワヤした人型がいてさ。僕よりちょっと大きくて、細長い奴で。顔の下半分にぽっかりと穴が空いてて。全部黒いはずなのに、なんでか穴があるのが分かる。で、その穴がひたすら、おんなじ言葉を吐くためだけに動いてる。
死んでくれ死んでくれ死んでくれ。
頭がおかしくなりそう。気持ちの悪い暗闇で埋め尽くされて、僕の頭は爆発してしまいそうだ。
あのねぇ。君が一体何なのか僕には全くわからないけどねぇ。まだやりたいことがいっぱいあるからねぇ、まだ死ねないんだよ、僕は。わかる?
死んでくれ死んでくれ。
んー、わからないかな?
どれだけ説明してもそいつは聞かない。淡々と同じ言葉を繰り返すだけ。
死んでくれ死んでくれ死んでくれ。
うーん、どうしたものか。僕はひらめいた。ひらめいて、こう返す事にした。
生きてやる、生きてやる、生きてやる。
ってね。そいつのその声と真反対な声で繰り返すんだ。
生きてやる、生きてやる、生きてやる。
お前がかけるその呪いに、僕は負けたりしない。
生きてやる。生きてやる。生きてやる。
真っ向から奴の呪いがぶつかってくる。
死んでくれ死んでくれ死んでくれ死んでくれ。
生きてやる。生きてやる。生きてやる。生きてやる。
僕はそれに対抗する。しつこいね。一歩も引かないね。お互いに。
死んでくれ死んでくれ死んでくれ死んでくれ。
生きてやる。生きてやる。いきてやる。いきてやる。
一体いつまで続くんかね、この攻防戦。死んでほしい奴と、死ぬ気のない僕。
死んでくれ死んでくれ死んでくれ死んでくれ。
生きてやる。生きてやる。いきてやる。いきてやる。
さぁ、ゲシュタルト崩壊に悩まされながらも生きることに希望を持ち始めた僕と、呪いしかない君と。どっちが先に音を上げるんだろうな。楽しみだ。
ようやっと作品に光が見えた。