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愛の花、その香り―  作者: 深崎 香菜
第一部 高校生
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06 ~恋人同士~

 翌日から、わたしたちだけの秘密として二人は恋人同士となった。他の恋人たちとは違い公にはできないし、人前でイチャつくこともできない。それでも一緒にいられるのならとお互い納得しての交際だ。

「マナ、早く行きましょ」

「あ、うん」

 もちろん、大学も一緒の所に進学する事にちゃんと決まった。

 両親は本当にそれでいいのかと何度も確認をしたが、わたしたちは一緒にいたいという馬鹿げた理由で大学を決めた。

 本当は美大をやめようと思っていたのだけれど、それは愛香ちゃんが反対したために結局最初から決めていた通りというわけだ。


 放課後は一緒に下校して、家では一緒に勉強。些細なことが楽しくて今まで考えたこともないカップルだったのにそれが今は一番しっくりくる感じ。

 一緒にいるのがあたりまえっていうのは前から感じていたことだけれど、今は一緒に“いたい”という気持ちが強かった。

 それはわたしたち二人が共通して持つ気持ち。それが嬉しくて、少しこそばい。



「ねえ、ちょっと聞いていい?」

 わたしたちが付き合うという形になってから一ヶ月が過ぎた頃、いつものように一緒に昼食をとっているときのことだ。

 真美が辺りの様子を伺いながら聞いてきた。ここ最近、週の半分は愛香ちゃんと食べている。下校も一緒だし、放課後も一緒。そういうこともあって、真美とはこの昼休みでしかあまり接する機会がない気がした。

「ん?」

 わたしは少し甘めに味付けされた玉子焼きを口に入れながら真美を見る。真美は何を気にしているのか、何度も入り口を確認した後声を潜めていった。

「あんたのお姉さん……。つまり、愛香さんの方だけど。何かあったの?」

 思わずキョトンとしてしまう。そんなこと聞くのに周囲を伺っていたというのだろうか? 別に誰かに聞かれてマズイ内容でもないというのに。

「別に何もないと思うけど。どうして??」

 さすがに真美にもわたしたちのことは言えない。一番の友人だからと言って全てを話せるわけではなかった。

「いや、ね。挨拶、された」

「はい?」

「だから、挨拶をされたのよ」

 思わずタコさんウィンナーを取り落としてしまう。それがどうしたというのだろうか。

「え、っと?」

「あのさ、今まで何度もあんたの姉っていうのもあるしってことで、挨拶してんの。廊下ですれ違ったときとか、たまたま校門で会ったときとかね? でもいっつもスルーで悪いときなんて睨まれたのよ!? それが、昨日も今朝も! ただすれ違っただけなのに向こうから「おはよう」って……槍でも降るんじゃないかと思ったわよ」

 随分な言われようだが、そういえばそうだ。愛香ちゃんは他人と関わるのが好きではない。

 だからこうやって他のクラスメイトに話しかけられても無視をするし、先生へと態度だって悪い。

 その所為で変なあだ名をつけられたり、陰口が絶えなかったり。そんな愛香ちゃんが見せた変化は驚くに値する。

 というよりも、わたしの前でそんな変化は見せないからわからなかった。

「どうしたんだろ。一度聞いてみようかなぁ」

「あれかな? 女の子を変えるって言ったらアレしかないじゃない」

「アレ~?」

「恋ッ! あの人形とも言われた人が恋でもして変わりつつあるんじゃないの? ねえ、愛花ぁ~。何も聞かないの? って、あんた大丈夫?」

「だ、だいじょ、ぶ……」

 恋と聞いた瞬間、思わず飲みかけのお茶を吹いてしまいスカートを汚してしまっていた。

 器官に入ったのか咳き込んでしまうし……も、もぅ。

「で、何も聞かない?」

「さ、さあ?」

「聞いておいてよ~」

「えーっと、こ、恋とかはほら……あまり他人が口出すことじゃあ……」

「でも、あんたの大好きなお姉様は今まであんたの友人関係にも口出してきたじゃない?」

「そ、そうだけどぉ」

 相手が自分となってしまってはなんとも言えない。

 そんなに変わったとは思えないけれど、真美がそういうのだからそうなのだろう。

 本当にわたしがきっかけなのだろうか? その日の昼休みは落ち着かない気持ちのまま過ごすことになったのだった。




「へ?」

 愛香ちゃんに尋ねてみると、反応はわたしと同じもの。つくづくわたしたちは同じなんだなぁと思い知らされる。

「だ、だからね。真美がそう言ったの。で、たしかにアイちゃんがそうやって人と接するのって見たことないなって」

「あー。相沢さんには確かに挨拶したかもしれない。でも、目があったって言うか……マナの友達って事で挨拶したのかもしれないわね。実際のところ覚えてないんだけど」

「覚えてないって、他の人にもしたってこと?」

「んー、なんとなくしたわね。先生とか、あとうちのクラスの委員長とか?」

 やっぱり変化はあったのだ。前ならそんなこと絶対にない。

 今までわたしがそうなってほしいと思っていたことに愛香ちゃん自ら近づいてくれたことが嬉しい。

 表情が緩んでいたのだろう。頬を優しく抱けれど引っ張られる。

「や、やめふぇ……」

「ニヤニヤしてるからよ。だらしないんだから」

「むぅ。嬉しいんだもん」

 頬をさすりながら言うと愛香ちゃんは再びきょとんとする。

「ずっとね。アイちゃんにももっとお友達が増えてほしいって思っていたから。真美とか折原さんのような共通のお友達とかほしいなって」

「ふーん。けど、挨拶したくらいで友達になろうなんて思わないわよ、普通。私だって思わないし。それに、相沢さんや折原さんとは多分、馬が合わないわ」

「えー?そうかなぁ」

「そうよ。ま、これからのことは私自身で考えるから、マナは気にしなくていーの」

「ん、わかったっ」

 ニッコリ笑うと、愛香ちゃんも同じ笑みを返す。わたしたちはどちらともなく自然に手を繋いだ。少し冷たい手のひらが二人の体温で温まっていく。


 こうやって、一歩一歩お互いの距離をもっと近づけていきたい。そう思い、強く手を握るのだった。

多分・・ですが、本年最後の更新となると思います。



本年もお世話になりました。

魔法の(ryを完結しないまま、現在の小説を執筆し

また完結作品が遠のきましたが、毎回お付き合いありがとうございます。


来年度はこちらの作品含め、

魔法の夜を君に 君のささえ 僕の片思い を完結できればと思っています。


更新遅くて本当にご迷惑おかけしていますが・・

これからもお付き合いいただければ幸いです。


来年もどうぞ、よろしくお願いします。



                 2009年 12月29日 珠李

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