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愛の花、その香り―  作者: 深崎 香菜
第一部 高校生
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05 ~気持ち Side Manaka~

「キスして、愛花から」


 突然の愛香ちゃんからの要求にわたしは驚き、動きが止まる。

 実際、あの後から急に恥ずかしくなり愛香ちゃんと目を合わすことさえ出来なくなっていた。

 愛香ちゃんも気を遣ってくれているのか、いつもはわたしから話しかけなきゃ黙っているのに、たくさん話しかけてくれてた。それなのにわたしは何にも反応できなくて逃げるような形になった。


「今日、一緒に、寝る?」


 あの言葉の意味がわからないわけじゃない。わたしが想像している通りの意味だろう。だからあの場で口にしたのだろうから。

 わたしはそれに頷いた。後悔だってしていないし、駄目なことだとわかっていてもいつの間にか双子の姉に恋をしていた事実に変わりはない。

 後ろめたいのは確かだけど、やはり今のわたしの中では恥ずかしさが勝っていて後のことなんて気にしてられなかった。

 そう、この時わたしの中にあったのは迷いではなく恥ずかしさ。

 愛香ちゃんと目が合うだけで顔だけじゃない……身体までが熱をもつ。そんな顔、見せられるはずがない。



 お風呂を出て、自室に戻ると自然と目がベッドに行く。ああ、わたしは何をしているのだろう。

 首を横に振り、気持ちを落ち着かせる。明日の用意をしなくちゃな、と教科書をカバンから出そうとしたとき、部屋の扉が開き、パジャマ姿の愛香ちゃんが入ってくる。

 慌てたように扉から顔を背けカバンへと目を落とす。愛香ちゃんからの視線を感じたけどそこは無視するしかない。


 何度か欠伸をしているのに、一向に寝ないところを見ると、愛香ちゃんはわたしを待ってくれているのだろう。

 それはわかっているのにわたしは何度も教科書を出しては入れてを繰り返し時間を浪費していく。

 時計を見るとこうやって意味不明な行動をとり始めて十五分は経過していることに気づく。

 どうしようかと迷っていると愛香ちゃんに話しかけられた。それは、いつものように少し責めるような言い方から始まった。

 でも表情はいつも見られるものとは違い、どこか悲しそうで、そんな愛香ちゃんを見て、わたしの胸はキリっと痛んだ。

 愛香ちゃんはわたしに、わたしが言った好きは愛香ちゃんがわたしに対して抱いている物と同じ好きなのか、恐らくわたしが真美に対して抱いているものと同じ好きかどうかを聞く。

 それを聞かないと、不安になると、愛香ちゃんはすごく悲しそうか顔をした。

 どう答えるべきか迷っていると、愛香ちゃんは小さく溜息を吐いた後、わたしが話しやすいように誘導してくれる。

「言うと後悔するから言わないの? それともただ単に言いにくい、だけ?」

 わたしは後者だと答える。すると、愛香ちゃんはズイっとこちらに顔を近づけ、もう言葉なんていらないと口にした。


 そして、今に至るというわけだ。


「できない?」


 また、悲しそうな目をして笑う。わたしは首を横に振り、ゆっくりと手を伸ばし愛香ちゃんの頬に触れる。

「マナ、震えてる。やっぱり、嫌?」

 愛香ちゃんに言われて初めて自分が震えていることに気づく。これは寒さ? いや、違うことは自分が一番理解しているじゃないか。

 じゃあ恐怖?不安?それとも怯えている?そんなことを考えているうちに愛香ちゃんが冷めた顔をする。わたしはぎゅっと目を瞑り、そっと唇を合わせた……



「10点」


 唇を離した瞬間、愛香ちゃんが悪戯な笑顔で言う。いったい何のことだろうと愛香ちゃんを見ていると、人差し指でわたしの唇に触れ、


「今日は満点が出せない限り、解放してあげない」


 と笑った。

 その意味を理解し、顔で肉が焼けるんじゃないかというくらいに熱くなる。

 言葉に詰まっていると急かされる。さっきのがいけないということだ。残り90点プラスにしないといけない。

 

 今度は唇をつけ、優しく愛香ちゃんの唇を挟んだ。上の唇、下の唇と挟み、そして離れる。

「40点ね」

「ひ、低!?」

「そんなのでいいと思ってるの?」

 先ほどと同じように唇をはさみ、その後割るようにして舌を入れていく。

 探るようにして愛香ちゃんの舌を探す間顔だけじゃなく、身体までが熱をもつ。

 頭がクラクラし始めたころ、愛香ちゃんの方から唇を離した。離れた唇から透明な糸を引き、恥ずかしさを倍増させる。

 そんなわたしを見てニッコリと笑い満点を口にした。

「じゃあ・・寝よう?」

 愛香ちゃんがわたしの手を取る。小さく頷いたわたしは愛香ちゃんの手に引かれ、ベッドへと導かれていく。


 愛香ちゃんの布団に寝転ぶのは久々だった。今まで意識した事がなかったけれど、寝転ぶと愛香ちゃんの香りがわたしを包む。たったそれだけで、身体が更に熱を帯びる。

 寝かされると同時に激しいキスの雨が体中に降り注き、いつもと違った感覚が全身を襲い、自然と声が漏れる。

 それを愛香ちゃんが唇で塞ぎ響かないようにしてくれる。

 愛香ちゃんの名前を呼ぶのも苦しい。愛香ちゃんはとても意地悪な笑顔でわたしの反応を楽しみながら、楽しんでいるようだ。

 大きな波が押し寄せてきてきゅっと身体に力が入ると動かしていた指を止められてしまう。その度ねだるような、泣き声のような声が漏れ愛香ちゃんにせがむ。

「なぁに?」

「も、もぅ……っ」

「もう、何?」

「も、だ……っめっ」

「何が、駄目なの?」

 意地悪をされることが、嫌ではなくなっていた。

 ギュっと愛香ちゃんと腕を掴み、ぼーっとした頭のまま見つめる。

「ァイ……ちゃん……っ」

「もぅ、言わなきゃわかんないのに。」

 もう一度、ギュっと腕を掴む手に力を入れると、愛香ちゃんはクスリと笑って、わたしの望みをかなえてくれる。

「これからもっと、可愛がってあげる。やっと……やっと成就した想いなんだもの。だから今日は眠りなさい。愛してる、マナ……」


 わたしもだよ。

 そう答えようとしたけれど、そんな気力はもう残っていなくてそのままわたしは眠りに落ちていった。

 わたしの頭を撫でるリズムを感じながら、幸せを感じているなんていうと、また愛香ちゃんと目が合わせられなくなっちゃう、な。

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