25 ~告白~
「おばさん、あけましておめでとうございます!」
「はい、おめでとうございます。愛花ちゃんは偉いわねぇ。今年で幾つになったのかしら?」
「よっつだよ!」
お正月も、大嫌い。家族だけで過ごす、大晦日や1日は好きなのだけれど、毎年決まって二日になれば親戚の集まりに参加しなくてはならないから。
祖父の家に向かう途中、車の中で何度も両親に言われる言葉。
『明けましておめでとうございます。これだけはちゃんと言うんだよ』
そんな事、毎年言われなくてもわかっているし、言おうとだってしている。
けど、いつもタイミングを失って結局だんまり。愛花はちゃんと挨拶できるけど、愛香はまたか。そういう流れになる。
両親だって、いつも気まずそうに顔を見合わせ、調子を合わせる。
だから、こういう集まりがあるとあたしはいつも部屋の隅で一人ぼっち。
ちゃんとできる愛花がこれをあげる、これも食べる? と、親戚中に可愛がられているのを眺めているだけ。
それが羨ましくないと言えば嘘になるけれど、面倒事を全部愛花が引き受けてくれている。そう考えればある意味ラッキーでもあった。
年を重ねるにつれ、愛花の性格は吉と出、あたしの性格は凶となった。
学校でも愛花はすぐに友達を作り、放課後になると家についたかと思えば外に遊びに行っていた。
あたしはというと、そのまま自室に篭って宿題をして本を読むか母の手伝いをしていた。
母はあたしに一度だけ『アイは遊びに行かないの?』と聞いた事があるけれど、その時黙ってしまったあたしを見てからその言葉を口にしなくなってしまった。
中学、高校となるとあたしは完全に孤立していたし、それに気を遣った愛花があたしに相沢真美を紹介してくれたけれどそれも失敗に終わった。
成長するにつれ、あたしは愛花から目が離せなくなっていた。最初は可愛い妹の面倒を見ていたつもりだったけれど、いつしかそれが恋というものに変わっていった。
あたしの歪んだ愛にいつの間にか愛花自身を巻き込んでしまい、そしてあたしたちは愛し合うことを決めた。
ねえ、マナ……。あたし、いつもあなたに劣っていたわ。けど、やっと見つけたのよ。あなたに勝てる唯一のものを……。
あなたはあたしを愛してくれているけれど、あたしのことをきっとほとんど知らないと思うの。
双子だから、似ているから……そう思っていても違うところはたくさんあるの。
あたしとあなたは二人で一つ。そうなるためにはもっともっと、お互いを知らなくてはならない。けれど、それを急ぐ必要はもうない。
だからね、ゆっくり知っていって。あたしの事を。
あたしは今、あなたのことを隅々まで知り尽くしているから……いつだってあたしは、あなたになれるのだから……
「柏原ー!!」
「はーい?」
「はい?」
二人で午後の授業を受けにキャンパスに向かう途中、後ろから声をかけられ愛花と同時に振り返る。
振り返った先には先輩が立っていて、少し困ったように笑った。
「ご、ごめん……姉の方の柏原」
「え? あ……ごめんなさい!」
「あはは、ややこしいよな」
先輩は苦笑いをし、頭をかく。愛花も少し照れているようだった。
「先輩。改めて紹介しますね。この子が妹の愛花です。愛するの『愛』に、お花の『花』で愛花。手は出さないでくださいね」
「初めまして……なんですかね? えっと……姉がいつもお世話になっています。よろしくお願いします」
あたしに紹介され、愛花はペコリと頭を下げる。先輩も慌てたように頭を下げた。
「あ、えっと……佐藤和輝です。そっかー。姉が愛に香るで妹が愛に花なんだ。……って、手なんて出さないよ!」
愛花と二人でクスリと笑う。それが気に食わなかったようで、先輩が一人怒っていた。
今日は愛花とは別の授業を取っているため、途中で別れる。先輩は休講らしく部室へ向かうとのことだった。
あたしはあたしで別の授業がある。だから先輩とも途中で別れるはずだったのだけれど……
「ちょっと付き合ってくれよ」
と、腕を掴まれ流されるままにサボってしまった。
「あの」
「んー?」
「あたし、こういうの、あんまり好きじゃない」
「その割にはあっさりついてきた」
「それは……! 突然すぎて思考が止まっていたんです」
「その割には逃げない」
「い、今から逃げるんです!!!」
言われてから動いているのでは情けない。それでもこのままここにいるのはなんとなく悔しくて、立ち上がる。
「図書室は、静かに」
それでも先輩の手によってそのまま椅子に座らせられたのだけれど……。
先輩が向かったのはサークルの部屋ではなく、図書室だった。あたしと話すのにはぴったりの場所だろうといわれて。
他の生徒も数名利用していたが、先輩に手をひかれあたしたちは一番奥の席に座る。
本棚の陰に隠れ、それはこの間の図書館と同じような状況だった。
「そうそう、この間の本。もう読めたんだ。今読む?」
「いやいや。図書館の本をまた貸しはダメだと思います」
「今読むだけだ。読めなければ今度こそ借りればいい。そうだなぁ……今週どうだ? 返しに行くからおいで」
「まだわかりません」
「じゃあ、空けといて」
トントンと進む話に着いていけない。それでもコクリと頷いてしまった。
先輩が机に乗せた本の表紙に目をやる。それはあの日借りたくて仕方がなかった本だ。
「でも……それならさっき渡せばよかったじゃないですか」
「うーん。柏原ともっと話がしたかったんだ。読み終わった後とかに感想とか言い合いたい」
「それなら……次の……」
「いいから、読んで。時間が勿体ない」
先輩に急かされあまり乗り気ではないけど本を開く。
目次に目を通し、それだけでも十分先の展開を想像することができそうだった。
チラリと先輩を見ると、なんだか嬉しそうにあたしを見ている。読んでいる間、何も話さないでいるつもりだろうか? それも結構な分厚さがあるのに。そんなの退屈じゃないのかなぁ?
そんなことを考えながら、第一章のページを開いた。
「……ふぅ」
「どうだった?」
声に驚き飛び上がる。本に熱中していたせいで、先輩の存在をすっかり忘れてしまっていた。あたりを見るといつの間にかちらほら人が増え始めていた。
時計を確認すると、もうすぐ午後の最終講義が終わる時間だった。
「わ、あの……すみません。あたし……」
「いいよいいよ。本当に楽しそうに読むなぁ、柏原。いつもそういう顔をしていればいいのにな」
「は、はあ?」
「ごめんごめん。で、どうだった? 俺的にはこの先の展開はあいつが寝返ると思うんだけど。寝返るっていうか本当は元々仲間だったんだみたいな」
先輩が勢いよく自分の考察や感想を述べるのにつられ、あたしも同じように話し出す。図書室の中だから、できるだけ小さな声で顔を寄せ合って。
ページをめくってはこのシーンがよかっただとか、このシーンは何巻の伏線だっただとか。
「あ、でも……ここ見てください。ここで主人公が言っているんですよ。えーっと……」
パラパラとページを捲り目当てのところを見つけ指をさしながら顔を上げた。
「ここです! ここなんですけど…………なんですか?」
目と鼻の先に先輩の顔があって驚く。じっとこっちを見ているものだから……気持ち悪い。
「いやぁ、楽しそうにしてるなって」
「……はしゃいですみませんねぇ。でも読ませたのは先輩だし、先輩だってさっきまでそうでしたけど」
「いや、バカにしてるんじゃなくって、やっぱり柏原、いいなぁって」
「はい?」
「そのままの意味だよ。俺とこんな風に合う人って本当にいないんだって。たとえば柏原ってさ、このシリーズで好きなのは主人公じゃなくてこいつだろ?」
先輩はそう言って、メインキャラの一人だけれど敵なのか仲間なのか曖昧な位置にいるキャラクターの名前を指さす。
このシリーズを読み始めたときからそのキャラクターが大好きだったために驚きながらも頷き返した。
「ほらな。俺もなんだよ! ほら、三作目まではドラマ化もしただろ? それで周りのやつと話したんだけどさ、こいつが好きって言ったらなーんか皆微妙な顔するんだよなぁ」
「あ、それはわかります。これ、ドラマの原作って事もあって、読んでいる人は結構いるみたいだけどネットとかでもこのキャラ好きって人少ないですよね」
「だから、いいなぁって思ったんだよ。あと柏原は俺が嫌だって思っている女子の部分が全部なくていい」
「なんだかそれじゃあまるで、あたしが女じゃないみたいですね?」
そう言って笑いながらからかうと、先輩は慌てたように訂正してきた。
大きな音を立てて椅子から立ち上がって勢いで、太もものあたりを机にぶつけてしまったようだけど。
「……ってぇ……っっ! ちゃんと異性として見てるって! その中でも一番俺がいいなって思う部分がいっぱい詰まってるって言いたかっただけ!」
「はいはい、ありがとうございます~。えーっと、それじゃあたしそろそろ行きますね。もうすぐマナ……妹の授業が終わるから迎えに行かないと」
「え? 行くの?」
「はい、一緒に帰る約束をしてるんです」
「サークルには? こない?」
「どうだろう? 妹次第、かな?」
先輩はまだ話したりないのか、少し残念そうな表情を浮かべるとあたしの目の前におかれた本を閉じてカバンにしまった。
「全部読んじゃったみたいだけど、今週図書館行こうよ。ゆっくり読みたいだろ?」
「十分読みましたよ。なんなんですかー? なんか先輩変です」
「あー、もう。あれだよ、もっと俺が柏原と話したいんだ。無理そう……?」
まるで子供みたいに、見せた事の無い表情を浮かべる先輩に少しばかり驚く。
ふざけてばかりの人だと思ったけれど、これもからかわれているのだろうか。
「無理、ではないです。どうせ行くつもりでしたし」
「そっか!! じゃあ、行こう。この間みたいに図書館の中探して。俺は朝からいるから!」
話し相手が見つかり、よっぽど嬉しいのか先輩は目を輝かせると勝手に話を進めて自分の手帳に記していた。
なんだかこの人はいろいろな表情を持っていて面白人だ。
そんな事を思いながら、手帳をしまう先輩を見て心の中でクスリと笑った。
「あ、そうだ」
カバンのチャックをしめながら、先輩がポツリと口にする。
なんだろう? と、先輩の方を見ると袖をクイっと引っ張られ、耳元で内緒話をするように囁かれる。
「俺にとって、今度の図書館で会うのがいわゆるデートってやつになればいいなぁって思ってるんだけど……。そこのところ、考えておいてくれると嬉しい」
「……は、はぁ?!」
突然の言葉に頭の処理が追いつかない。
先輩はらしくない照れた表情を隠すように笑った。
「そんなに驚くなよ。軽く言ってるけどさ、かなり照れてるからね。結構いついうか迷ってたんだ。俺の中では結構前から言いたかったってだけ。柏原って口にしないと気づかないタイプ?」
そう言った先輩の顔は影がかかっていてもわかるくらいに真っ赤で、かくゆうあたしは頭の中が真っ白で……
「なんか言えよー……。困らせた感じかな? ごめんな? でも、うん。考えてくれって、それだけ。それじゃ俺が今日は先に帰る。土曜はさ、朝からいるから」
そのまま走って図書室を後にした先輩に思考も存在もおいて行かれたあたしは、ただそこにポツンと立っている事しかできなかった……
家に帰ってからも、頭の中に残るのは先輩の一言で愛花に話しかけられても上の空状態なのは自分でもわかる事だった。
愛花には授業の課題が多くて疲れた。なんて適当な嘘をついておいたがもしかしたらバレているかもしれない。
よく男女の友情なんて成り立たないといわれるが、そうだったのだろうか?
あたしにとって先輩は良き友人。だけど、先輩にとってあたしは結局異性だったのだ。
それがショックなのかと聞かれたら、そうだけどほんの少し違うといった微妙な気持ち。
やっとできた友人がすぐにいなくなってしまうんじゃないかといった不安がいっぱい……。
「アイちゃん? どうしたの? なんだか夕飯の時もずっと変だった」
隣の机で課題をしていた愛花が心配そうにこちらを見る。
さすがにこれを愛花に相談するわけにもいかない。あたしは小さく笑うとなんでもないと答えた。
「嘘だぁ。学校でなんかあった? 前みたいなの、とかかな……?」
なるほど。愛花は高校や中学時代のあたしの状況を知っているから、周囲のことを気にかけてくれているらしい。
「違うよ。まあ、いっぱい話すわけじゃないけどさ。でも、前みたいにはなってないから」
心配してくれたのが嬉しくて、手を伸ばして優しく頭を撫でる。愛花は嬉しそうに目を瞑ってあたしに頭を預けた。
「そっか。それならいいんだけど……。ほんとに課題で疲れてるんだよね?」
「うん。心配しすぎだよぉ? でも、ありがと」
「えへへ。なんかアイちゃんらしくないー」
「なによ、人が感謝してるのに」
その後は二人で軽くじゃれあう。
今日は両親がいるからただイチャイチャするだけなんだけれど。
「じゃ、先に寝るね?」
三十分ほどいちゃついたところで、時計が真夜中の二時を指していた事に愛花が慌てて布団に入る。
この子は朝弱いから、早めに寝ないと寝坊してしまうのだ。
愛花が布団に入ったのを見届け、あたしはカバンから手帳を取り出す。
まだ、今週の土曜日は空欄のままだ。本来ならここに『図書館』とでも書いておくべきなのだろう。
せっかく先輩に誘われたのだから、『先輩と』と付け足してもよかったかもしれない。
けど、あたしにとってはただ本の話をしたいと思っていくのだけれど、先輩にとっては違うという事実が大きくて本当に土曜日に図書館へ行っていいものかと迷う。
『恋人がいるから』と、断ったところで今までのあたしを見ていて恋人がいると判断できただろうか?
判断できないからこそ、あんな事を言ったんじゃないだろうか?
ましてや、『そうなの? どんな人?』って聞かれたりしたら?
言えるわけがない。『妹が恋人です』だなんて。
それに、同性愛しかも近親恋愛が世間では受け入れられないことは目に見えている。
それをわざわざカミングアウトする必要もなければ、そうやって先輩を失う必要もない。
きっと先輩はあたし達二人関係を知ったら、引いてしまって離れていくに違いない。
でもそれはきっとあたしが先輩からの申し出を断ったとしても同じ事かもしれない。
ようやく出来た、友人を失う事が、怖かった。
「おー。来てくれた」
土曜日、先輩の姿を見つけ軽く頭を下げるあたしを見て嬉しそうに笑う。
あの日以来、先輩も気を遣ってくれていたのかあたしの前に姿を現す事がなく、久しぶりに顔合わせた。
「午前中に来なければ帰るつもりだったんだ」
「……お昼から来るかもしれないじゃないですか」
「うーん。なんとなく、俺が朝からいるって言った以上柏原が来るなら午前中だろうなって」
勝手な解釈を自慢げに話す先輩の向かいに静かに座る。
先輩は一人ニコニコと笑いながらまだ話し続けていたけれど、あたしの様子に気づいてピタリと話を止めた。
「これは、ウキウキしていられる雰囲気じゃないかな?」
それでも先輩はニコリと笑い、どこか寂しげにそう告げると自分の向かいの椅子に座るよう指示された。
先輩の向かいに腰掛、膝の上に揃えたての上に視線を落とす。
何から話せばいいものかと困っていると、先輩は机に広げてあった本の話を始めた。
「え……?」
「ん? 柏原、何か話する?」
「あ、いや……その……」
「じゃあ、俺の話聞いてよ」
「は、はい……」
あたしの返事をきくと、すぐに続きを話し出す。今度は恋愛小説を読んでいるんだ。
頭に入ってくるのはそんな情報だけで、先輩がどこでどう感じたかなんて事、全然入ってこない。
情けない事に頭が真っ白になりそうなほど緊張している自分がいてすごく悔しい。
愛花と今の関係になる前から何度も禁忌を犯していてもこんなに緊張したことはなかったというのに。
この人と出会ってから、いろいろと調子が狂う。
「さーって。じゃあ次は柏原の番な」
あたしがあーだこーだ考えているうちに先輩の話は終わってしまっていたようで、はっと我に返る。
目をぱちくりさせるあたしを見て先輩は吹き出し、声を出さないように笑った為肩が震えていた。
「な、なんで……!」
「だって、俺の話を上の空で聞いていたのはわかってたけど、そこまで驚かなくても」
「別に驚いてなんていません!」
「柏原、声大きいぞ」
「あっ……」
「それに、俺の話を上の空で聞いてたことは否定してくれないわけだ?」
ニヤリと笑う先輩に思わず唇を噛む。
そんな姿を見て、ますます笑われたわけだけれど……。
「柏原、俺そろそろこうやってへらへら笑ってるのしんどいってば」
ふと、笑いが収まったとき先輩は珍しくまじめな顔でそういった。
そりゃそうだ……。あたしはあたしでいろいろと混乱しているけれど、先輩だってあたしにあんなことを言った後で結構テンパっているのかもしれない。
そうは見えないんだけど……。
「勝手にさ、あんなこと言っておいてそんな事言われてもーって言われればおしまいだけどさ、なんか自分でも恥ずかしいくらいの事いきなり言ってどうかしてるって思うけど、でもやっぱ言いたくなったものは仕方ないというか……。どう転ぼうが、言っておきたいって思ったんだよ。俺はね」
先輩に顔を覗き込まれ、ワンピースの裾をぎゅっと掴む。
あたしは落としていた視線を先輩に向け、大きく息を吸ってから頭を下げた。
「ごめんなさい。あたしは、佐藤先輩と、そういう関係……にはなれません」
机に額をぶつけそうな勢いで頭を下げる。先輩が小さく息を吐くのが聞こえた。
「あたしには大好きで大切な人がいるんです」
「それは、恋人がいるって事? それとも、まだそこまでは至ってないのかな」
「恋人、です。小さい頃から好きでした。ずっとあたしの片思いで、絶対に実るものじゃないって思っていたんです。だけど、ちょっとしたきっかけで両想いになれて……改めて大好きなんだって実感したんです。あたしは……あたしにはその子しかいなくって、きっと相手にとってあたしの存在もそうでありたいって思っています」
先輩の目をまっすぐ見ると、先輩はふっと笑ってからお手上げだと口にした。
「もうとっくに恋人がいたのか……。全然気づかなかった、というのは失礼かな? それなら俺は身を引くしかない、な」
「あの、先輩……」
「ただ、柏原さえよければ、これからもこうして俺に付き合ってほしい。先輩後輩というよりも……そうだなぁ。友達がいいな、うん」
先輩は一人納得するとうんうんと頷く。『友達』という響きに身体が痺れたような感覚になる。
本当に? 思わずそう漏らすと、先輩は笑って頷いてくれた。
ただ、少しだけ気持ちの整理をつけてからな、と言われてしまい少し、寂しく感じた。
それでも、あたしは初めて出来た友人を待とうと、力強く頷く。
「先輩の、気持ちの整理がつくまでに、感想言い合えそうな本いっぱい読んでおきます」
そう言うと先輩は嬉しそうに笑ってくれた。
「どんなやつなの?」
帰り道、別れる少し前に先輩はそう口にした。
聞かれるんじゃないかと予想していた分、焦りはしなかった。
「あたしに似たところがあるんです。でも、似てるはずなのに……たくさんあたしと違うところもあって、表現力とか、感情性豊かであとすごく優しいんです」
「柏原に似てる、ねぇ。じゃあ俺とも似てるのかな? 変わり者なところとか」
「それ、どういう意味ですか?」
「さあ?」
今まであたしは避けられることはあっても、こうして誰かが歩み寄ってくれるなんてことなかった。
だからこういう風にあたしに好意をもってもらうこと自体初めてで、もしあたしがそれに応えられなかったのならきっと今までの関係は全て消えてなくなるんだって思っていた。
けれど先輩は気まずい表情一つせず、あたしに変わらず接してくれる。そのおかげであたしも変に気を遣うことなく今も一緒に歩いているんだろう。
「柏原、俺すっごく勝手なことばっかりでごめんな」
「今更ですか? 先輩は割とずかずか入ってくる人ですし、もう慣れ始めています。それに、あたしもやっとできた友達を失いたくなかったので、先輩には申し訳ありませんけどうれしいです」
「残酷なやつなー」
「褒め言葉として受け取っておきますね」
「はいはーいっと……」
互いに軽口を言いながらゆっくりと歩く。
分かれ道に着いたころにはなぜかお互い無口になっていた。
「えっと、それじゃあ……あたしはこっちなので」
「うん、気を付けて」
「先輩こそ。おばあさんによろしくお願いします」
「ああ、また遊びにきてやって」
「はい。ぜひ」
ひらひらと手を振り先に歩き出す。
ふと、振り返ろうとしたとき先輩があたしを呼んだ。
「今度さ、恋人との話聞かせろよ!」
振り返った先で先輩はいつもと変わらない笑顔を見せてくれた。
あたしはそれに同じように笑顔で返し、あっかんべーをしてやる。
「それは、嫌です」
それで最後といわんばかりに先輩から視線を外し、家へ向かって走り出す。
あたしの背中に
「それキャラ違いすぎだろー!」
と、先輩が声をかけていたのも無視をして……
先輩とあたし。
これからの関係が変わらないのなら、愛花には黙っておこう。
きっと変な心配をかけてしまうかもしれない。
そんなことを考えるあたしの頭に、ふと一人の女性が浮かび上がる。
それをかき消すようにあたしは走るスピードを上げる。
あの子の時とは違うんだから、と……自分に言い聞かせて。
更新遅すぎでごめんなさい……
ちゃんと、ちゃんと完結させますので……!!