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愛の花、その香り―  作者: 深崎 香菜
第二部 大学生
23/34

21 ~新入生歓迎会~

「何かいい事、あったの?」

「何が?」

 終わった後、愛花がぐったりとしながら尋ねる。

 一体何の事かと質問を質問で返すと、少し間を空けてから小さく笑われてしまった。

「だって、今日アイちゃんなんかすっごく優しかったんだもん」

 照れたように、けど少し嬉しそうに言う愛花にそっとキスをする。

 あたしはいつもと変わらなかった気がするのだけれど……


 あたし達がエスカレートした“仲良し”をしている事は、もちろん両親は知らない。

 最初のうちは愛花が声を出すものだから口を押さえたりしていたのだけれど、ここ最近は我慢する事を覚えてくれたのか声が漏れる心配はなくなった。

 安心と、少しの残念。なんて言ったら愛花は怒るのだろうけれど。

「違ったよぉ! だっていつも声抑えるのに必死なのに、もっともっと意地悪するもん。けど、今日は泣きそうになったらちょっと抑えてくれたしぃ……」

 最中の事を思い出したのか、耳まで真っ赤にして俯く。

 クスリと笑い、愛花の耳元にわざと息を吹きかけるようにして「意地悪、してほしかったの?」と聞いた。

 さっきまで小声だったというのに、いきなり大声を上げて飛びのき、大きなリアクションで否定をする愛花がとても可愛らしい。

「ほら、マナ。寝よう?」

 ぽんぽん、と自分の隣を叩いて愛花を呼ぶ。

 二段ベッドだからとても狭いのだけれど一緒に寝るのが日課になっていた。

 愛花はまだ少し納得のいっていないようだったけれど、これ以上何か言ってもあたしには勝てないと察したのか上着を着ると隣に寝転んだ。

 子供を寝かしつけるようにして優しく頭を撫でているとすぐに寝息が聞こえてくる。

 まさにおやすみ3秒。


 ゴロンと仰向けに転がり天井を見つめる。そろそろ日付が変わる頃だろう。

 いつもなら行為の後は疲れて愛花と同じようにすぐに眠ってしまうというのに、今夜はなかなか寝付けない。

 愛花を起こさないようにそっと、携帯を開く。日付が変わるまで、後7分だった。


 いつもは好まないくせに、今日は昼間の図書室に出向いた。

 新しい小説を探しながら、人探しをしている自分がおかしかった。

 小説の趣味が合うのだから、オススメの本を教えあったりしたい。

 そんな事を自分が考える日がくるなんて思ってもみなかったからか、少し違和感を感じる。

 けど、ワクワクしながら先輩を探すあたしはまるで新しいおもちゃを与えられた子供のようだった。

 ……人をおもちゃに例えるのは良くない、けど。

 結局先輩を見つける事は出来ず、明日行われる歓迎会で会えるのを願うしかないようだ。


 毎日が同じ繰り返し。大学に通うのだって愛花と一緒にいたいから。

 最初は嫌がった愛花も、今じゃ一緒にいるのが楽しいと思ってくれている。

 正直、あたしは絵本作家になんてなりたいなんて思っていなかった。

 売れるかどうかもわからない。きっと愛花もいつかそれに気づいて諦める。そう思っていた。

 だけど、あの日一緒にいるのを拒まれた日。意地になってしまって一緒にするのにと口にしたのだ。

 なんとしてでも、愛花を手放したくなかったから。ああやって傷つけてでも自分のものにしたかった……

 だから、あたしは何一つ後悔なんてしていない。

 今までだって学生生活が楽しいだなんて思ったことは無いし、それが少し延長されるだけ。

 愛花と一緒にいるためならなんだって出来る。そう思って入学した。


 それがどうだろう。今はこうやって、明日大学に行くのが楽しみで仕方ない。

 それは今日だってそう。初めて出来た友人と呼べる人。(あたしが勝手にそう思っているだけでも正直構わない)

 同じ考えを持っていて、話が出来る人。その人ともっと話したい、もっともっと……

 きっと明日の歓迎会がなかったら、今日会えなかった分あたしは落ち込んだと思う。

 けれどまだまだ会う事は出来る。だから落ち込む事はなかった。

 それがきっと態度に出たのか、愛花の言うとおり少し機嫌がよかったのかもしれない。


 日付が変わる。

 ほとんどサークル活動に参加していない様子だったけれど、会えるといいな。

 そう思いながら目を閉じて、眠気が来るのを待つのだった……





「柏原愛香です。いつも妹がお世話になっています」

 歓迎会の前、相良さんに誘われ一緒に集合場所に向かう事になった。

 女子のグループはもちろん苦手。

 だから断ろうとしたのだけれど、昨日の態度を見て愛花が勝手に大丈夫だと判断しOKされてしまった。

 それからずっと愛花に対して怒っていたのだけれど、そのときがきてしまったのだからもうどうにもならない。

 同じ年の子たちに少し硬い挨拶をすると愛花が隣で吹き出していた。……後で覚えてなさい。

「どうも、相良久美子です。この間会ったのでなんか初めましてって感じじゃないですね?」

海野里奈(うみのりな)ですー。お姉さん初めましてー! お姉さんって言っても同じ年なんだっけ? あ、私のことは気軽に里奈って呼んでください~」

「あ、あの、ドモ……」

 こういうノリの子は少しどころじゃない。大の苦手。そんな事、わかっているはずなのに……愛花を恨むしかない。

 会場の居酒屋に着く前に双子の珍しさからか、それとも普段愛花以外と話すことの無いあたしが珍しいからか質問攻めにあってしまう。

 相沢真美の件もあり、少し様子を伺うようにしていた愛花を見ていると、苛立っているのを表に出すわけにはいかない。

 というか、相沢真美に関しては生理的に無理といった感じ。それもお互いに。

 愛花に紹介された時からあたし自身も「この子は無理」って思ったし、相手だって同じだっただけだ。

 けれど今回愛花に紹介された子たちはあたしが「苦手」と思うだけで、「無理」という程ではない。

 自分から関わろうとは思わないけれど、相手に不快感をわざわざ与える事はしない。それだけ。

「でも、愛香さんが歓迎会に来るっていうのは意外でした」

 相良さんの言葉に首を傾げる。あたしが何も言わないからか、慌てたようにして説明を受けた。

「あ、変な意味じゃないんです。ただ、愛花からこういう集まりとか好きじゃないって聞いていたから」

「実は、結構苦手です。けど、マナがやりたいって言ってたし、あたしも少し興味が湧いて……歓迎会に参加するっていうのはあたし自身もびっくりしてますよ?」

「そうなんですか?」

「そうなんです」

 あたしが普通にやりとりしているのを見て安心したのか、愛花も話しに加わる。

 こういうのも別に悪くない。不思議とそう思えた気がした。


 居酒屋には既に3回生が集まっていて、少し入りづらい雰囲気だった。

 あたしたちが躊躇していると海野さんが先頭を切って中に入って行ったので慌てて後を追う。

 なるほど。こういう性格だとあまり気にしないでいいのかもしれない。

「お、新入生? こっちこっち~!」

 その声に導かれ、席に着くあたしたち。

 掘りごたつタイプなので正座とかする必要もなさそうだし、楽だ。

 あたしたちは遅く着いた方だったらしく、すぐに乾杯の準備が始まる。

 周囲を見渡したけれど、佐藤先輩の姿はなかった。


 海野さんは先輩たちと気軽に話しだしていて、あたしたちは置いてけぼり状態だった。

 相良さんが小さく笑い、

「あの子、いつもあんな感じなんです。誰にでも接し方が上手いっていうか……里奈と話すと楽しいし、みんな気を悪くする事もないんですよ~」

 と、言った。二人は高校が一緒どころか小学生からの幼馴染だそうだ。

 その話に愛花があたしたちなんて生まれてから~とわかりきったことを自慢げに話し出した。

 言わなくても一緒なのは当然。そう思っていても少し嬉しくて口を出すのは止めた。

 あたしたちのほかにいる新入生たちも先輩らと楽しそうに話しているところを見ると、こういった場に慣れていないのはあたしくらいなのかな? と思う。

 そう思うと変に緊張しだしているあたしがいた。


 それは愛花も同じなのか、乾杯の後も相良さんやあたし以外とはあまり話す様子を見せない。

 最初のほうは噂の双子が! ということでいろいろ聞かれたりしたが、場が盛り上がるとあたしたちの存在なんて薄っぺらい。

 もしかすると、愛花はあたしの嫉妬を気にしているのかな? と思い、愛花にだけ聞こえるように問いかけてみた。

「ち、違うよぉ……わたしが一番好きなのは、……ってわかってくれてる、と思うし、そういうのは気にしてない、よ? 違ってね、やっぱり男の人ってあんまり接する事無いから緊張する……」

 確かに。あたしたちはずっと女子校だ。

 入学前に愛花は「そんなの大丈夫!」と言っていたがやっぱり接しにくいのかもしれない。

 そう思うと、あたしは女の子より男の人のほうが接しやすい、ということなのだろうか?

「別に男の人ばっかりってわけじゃないんだし、女の先輩と仲良くすればいいじゃない? ……気移りは許さないけど」

「しないよぉ~」

「じゃ、ここで言ってみてよ? マナが一番好きなのは誰なの?」

 愛花は慌てたように周囲を見渡し、今の会話が聞かれていないか確認する。

 そして更に声を小さくして、「馬鹿」と叱られてしまった。

 相良さんも今は海野さん含めた数人と談笑している。

 少し意地悪したくなり、距離を縮める耳元でささやく。

「言えないの? じゃあ、マナは好きな人いないって事よね?」

「ち、違うよ……こんなところじゃ、言えないってだけで……別にいないんじゃないよ。アイちゃん、わたしの好きな人くらい、わかってるでしょ?!」

「わからない。言ってくれなきゃわからないわよ? どうしたの? 顔が赤い。体調が悪いのかしら?」

「アイちゃん、意地悪しないでよ……」

「じゃあ、言ってよ? マナは誰が好きなの?」

 最近見せなかった意地悪をするあたし。

 しかもこんな大勢の前ですることはなかったためか、戸惑いを見せる愛花がとても愛らしい。

「………ちゃ、ん」

「聞こえない」

 これ以上は無理、というようにして泣き出しそうな顔をするけれど止めない。止めれないのかもしれない。

 口をパクパクさせ、どうしようか迷っている愛花に思わず手を出してしまいそうになる。

 その時、だった。



「お~~! 和輝、おせーよ!」

「ごめんごめん。ちょっと兄貴に用事頼まれててさー!」

 入口のほうで聞こえる声は間違いなく佐藤先輩のものだ。

 ドキリと心臓が高鳴った。こんなにも、もう一度話す機会を待っていたというのにいざそのときがきてみればどうすればいいかわからない。

 考えてみれば、今まであたしから話しかける事はなかった。

 先輩が気づいてくれなければ意味が無いじゃない……!

「俺、何処座ればいい? とりあえず呑みたいよ~」

「どこでもいいんじゃねー?」

「あいあい。ん~じゃ、……って、え?!」

 思わず目をそらしてしまう。

 ちょっと見すぎたかもしれない……こんなにも簡単に気づいてもらえるなんて思っても見なかったから驚いた。

 佐藤先輩は軽く手を振りながらこちらへと向かってくる。

 心の準備はまだだというのに、この人は本当に、もう!

「おお~、今日は姉妹揃ってる。なになに、うちのサークル入ったの?」

「え、あ……はい。マナ……妹が入りたいと言っていて、あたしも以前バドミントンだけどやっていたし、興味があったんです」

「そっかそっかぁ~! 妹さんもよろしくね! 隣いい?」

「え?! あ、はい。空いてるし、大丈夫だと思います。」

 気持ち悪いくらい、手に汗をかいていた。

 突然のことで、本当にどうすればいいかわからない。

 愛花に初めてできた友人を紹介したい。なのにどう言ったらいいかなんてわからない。

 そもそも先輩はあたしのことをただの後輩としか思っていないかもしれないのに……

 そうなると紹介していいのかさえわからない。ああもう、どうしてあたしはこんなにも焦っているのかしら。

「ぁ、あの……マナ、こちら佐藤先輩。図書室で、会ったりして、その、小説の話とか、してるの」

「って言ってもまだちゃんと話したのはこれが二回目だろ? よろしく、佐藤です。いやぁ、お姉さんの方とは何かと気があって俺自身がちょっとひねくれた考えしてるから、こうやって小説の話とかできる友達が出来てうれしいんだよね」

 先輩の一言でまた心臓が高鳴る。

 そうか、先輩もちゃんとあたしの事、友人って思ってくれているんだ。

 それだけで十分嬉しくって、それから愛花が自らの自己紹介をするのも待てずに先輩に話題を振ってみる。

 飲みの場でする話ではないと思ったけれど、他の人が混じっているわけじゃないから気にしなかった。

 途中、新入生と話す先輩に茶々を入れる人がいたけれど、先輩もあたしも軽くそれをあしらい互いに好きな作家の話をして盛り上がった。



「アイ、ちゃん……だよ?」

 隣で一人、届かない言葉を呪文のように言い続けている子がいるなんて、気づかずに………………

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