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愛の花、その香り―  作者: 深崎 香菜
第二部 大学生
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19 ~サークル Side Manaka~

 5分早いけど…と、授業がキリのいいところにきたため少し早めの終業を告げられる。

 愛香ちゃんに連絡を取ろうと携帯を出すと、既にメールが入っていた。

 珍しい事にテラスで待っているという事だったのでリュックに筆記用具を投げ入れすぐに向かうと返信をした。

「あ、愛花ぁ!!」

 教室を出ようとしたところ呼び止められ聞こえないよう心の中で舌打ちをする。

 声の主は同じ学科で仲良くしている相良 久美子(さがら くみこ)だ。

 最初はわたしたち双子の姉妹っていうステータスが珍しく思われ、たまたま授業で隣になったのをきっかけに話しかけられた。

 愛香ちゃんのことや『以心伝心ってあるの?』とかお決まりのことを聞かれてうんざりしていたのだけれど、お気に入りの香水とか趣味が合い、気づけば意気投合していたという感じだった。

「どうかした?」

 早く帰ろうと混み合う出口を見ながら久美子の元へ戻る。

 わたしと同じ学科の人たちは今日はこれで終わりなのだけれど、他の学科の人たちは教室を移動しなくちゃならない。

 その前にお手洗いや休憩と、みんなそれぞれやりたいことがあるのか授業が終わると前後の出口は混みあってしまう。

 だから早めに席を立ったのに。きっと5分後には廊下だって混みあう。もう少し時間を置いてからじゃないともみくちゃにされちゃうなぁ。

 そんなことを思いながら久美子ちゃんの隣に座った。

「愛花はどこかサークル入らないの?」

「あー……迷ってるの。アイちゃんとどこかに入ろうと思ったんだけど、断られちゃって。そういうの、苦手なんだよね」

「そうなんだ。仲良いんだね?」

「うん。そうだよー。まあ、いつもアイちゃんと一緒に帰るし、それならサークル一緒の方が待たせたりしないでしょ?」

「……いや、別に待たなくても先に帰ってもらえばいいのに。おもしろいね?」

「そう、かなぁ?」


 いくら双子の姉妹で仲がいいといっても、わたしたちの行動は明らかに変だといわれた。

 小学生くらいならいつも一緒で当たり前かもしれない。けれどそろそろ別の行動とってもいいんじゃないの?

 それは真美に言われ続けていたことでもあったし、久美子にも言われた。

 久美子だけじゃなく、彼女が仲のいいお友達とお茶した時もそんな感じのことを言われたし。

 その中にいた里奈という子なんて、『なんか付き合いたてみたいだよね? それも学生の』と笑われてしまった。

 もちろん、みんなもそこは笑って流していたけれど。


 でも、みんなが知らないだけで愛香ちゃんはわたしの恋人だ。

 姉妹だし、当然血は繋がっているし、同性だし。この恋愛がおかしいなんて事、言われなくてもわかっている。

 けれど止められないし、止めたくもない。今のわたしにとって、これが現実で大切なものなのだから。


「とりあえずさっ! 里奈たちとみんなでテニスサークル入ろうかって話になってるの。そこの先輩すっごくカッコイイんだよ! だから考えといて?」

「え? あ、うん。わかった。じゃあ、わたしそろそろ行くね」

「えー! これから里奈たちと買い物行くんだ! 愛花も一緒に行こうよ!」

「ごめん、今日約束あるの。次また誘ってね?」

「愛花は付き合い悪いなぁ。まあ、いいや! 次は早めに誘うよ。」

「うん、そうしてくれると助かるかも。それじゃーね」

 久美子と挨拶を交わし、まだ混みあっている廊下へと駆け出す。

 人の中を泳ぐように進んだみたけれど立ち止まって話をしている人たちに邪魔されたりと、なかなか階段にはたどり着けない。

 わたしの目からビームが出るなら今すぐ発射するのに! と、馬鹿なことを考えながらテラスへと向かう。

 たどり着いた頃には髪の毛はボサボサでみっともない状態だった。

 またそれを愛香ちゃんが笑うものだから恥ずかしかったけれど、わたしにだけ笑ってくれる姿が、もう、可愛いなぁ。なんて思わされて。


「ちょっと、何それ?」

「うーるーさーいー! もうみんな自分の事しか考えてないんだもん! っていうか大学も大学! もっと廊下を広くしてくれないと! 三人並んだらいっぱいいてどうなの!?」

「並んで歩かなければいいじゃない」

「わたしは歩いてないもんっ!! っていうか狭い廊下で立ち話しないでほしいよ、もうっ!」

「はいはい」

 愛香ちゃんはクスクスと笑い、読んでいた小説を閉じて鞄にしまう。

 そのあと飲みかけだったアイスティーを飲み干してしまった。

「そういえば珍しいよね。わたしてっきりアイちゃんは休講になった教室にいると思ってた。『テラスなんて人がいっぱいいそうなところ、嫌よ』っていつも言うし」

「あー……いた、のはいたんだけど次の授業で使うって聞いて出てきたの。」

 少し歯切れの悪い返事に疑問を感じはしたけれど、深くは追求せずそろそろバスが来るからと席を立つ。

 新入生勧誘の人たちに断りを入れながら歩くのはすごく苦手なんだけれど、その点愛香ちゃんはすごい。

 何を言われてもどれだけ目の前にチラシを差し出されても完全無視でつかつかと歩いていく。

 その精神が羨ましい……そう思いながらも差し出されたチラシは受け取り、直接声をかけられたりと断って歩いていたせいでバスに乗り遅れるところだった。


 今日もチラシをたくさん受け取ったわたしを見て小さくため息をつかれてしまう。

 いつもより少し乗車客が少なく席も空いていたため、わたしたちは一番後ろの席に座った。

 チラシの中からテニスサークルがあるのを見つけ出しそれを見せることにした。

「ねえ、アイちゃんテニスやらない?」

「やらない」

「でも、アイちゃんバドミントンうまかったじゃない?小学生のときすごかったし! 中学の時もうまかったし!」

「シングルはね? それにテニスとバドミントン、結構違うじゃない」

「で、でもぉ同じラケット競技だよ?」

「ラケットの太さが違うし、そもそもシャトルと球じゃ……」

「おーねーがーいーっ!」

 チラシを見つめまたため息。くしゃくしゃ丸めてしまい、返されてしまった。

 こうなることはわかっていたからショックは受けない。

 けれどここまで拒否されるとこっちだってムキになってしまう。

 もう友達とサークルに入りたいだとか、愛香ちゃんと一緒に帰りたいのにとかどうでもいい!

 意地でも愛香ちゃんも一緒にサークル入れちゃうんだから!!!!


 そんなわたしの決意を知ってか知らずか……

 ぼーっと窓の外を眺める愛香ちゃんを見てとりあえずアッカンベーをしておくのだった。






 次の日、久美子を捕まえたわたしはテニスサークルに参加することを伝えた。

 久美子は勢いに驚いていたようだけれど気にしてられない。

「じゃ、じゃあ。私と里奈と亜来琉(あくる)と愛花の4人ね。私昼休みに何か申請のものいるかとか聞いてくるよ!」

「違うよ、久美子! 久美子と里奈ちゃんと亜来琉ちゃんとわたしと、アイちゃん。全員で5人だよ!」

 そういうと久美子は目を開き、口をパクパクさせる。まさかの展開に言葉が出てこないといったところだろう。

「ま、待って愛花。アイちゃんって、お姉さんよね? アイカさんの事、よね? 人付き合いが苦手でこういうの嫌だって言われたんじゃないの?」

「そうなんだけど! このままずーっと友達のいないさっっっみしぃ~人生はいやだって思ったらしいの!」

「は、はあ……」

「だから、これをきっかけにするらしいの!」

「わ、わかった。5人ね? まあ、お姉さんの方とも話してみたかったし。ま、いっか。じゃ、そゆことで決定ね」

 力強く頷く。むちゃくちゃなんだけど、ほんとうまくいくんだろうか。

 とりあえず新入生歓迎会みたいなのがあるはずだからそれまでに愛香ちゃんを説得しなければならない。

 そんなの簡単! だってわたし愛香ちゃんの彼女だしっ!

 双子だし! 一番知ってるはずだもの!


 意味の分からない意地ばっかりのわたしの決意を久美子は不思議な顔で見ているのだった……

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