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愛の花、その香り―  作者: 深崎 香菜
第二部 大学生
20/34

18 ~出会い~

大学編スタートです。ラストまでのカウントダウンって感じですかね。

「はぁ?サークル??」

 デザートの苺をフォークで刺しながら聞き返す。

 食堂内は混みあい、少し声が大きすぎたのか周囲の注目をほんの少し集めてしまった。

 顔が熱くなり、下を向くしかない。

「そ。サークル。せっかく大学入ったんだし何処か入ってみようよっ!」

 愛花の誘いに思わずため息をつく。

 入学式からもうすぐ一週間。最初は共学ということや、新しい環境に緊張していたあたし達だったけれど慣れつつあった。

 相変わらずあたしは人付き合いが苦手で愛花と一緒のことが多い。

 愛花の方も同じ学科で仲のいい子はいるようだけれどあたしと一緒にいることが多い。

 気を遣わせているのかと、少し引け目があったが嬉しいのもあり何も言わなかった。


 サークルの新入生勧誘は確かに目立っているし大学に入ったのならサークル活動してぇ~とか言ってる子だってよくいるし。

 あたしからしたら部活とかわらないんだし一緒じゃないって思うんだけど。

 そんな事よりも、人付き合いが苦手なあたしにとってそれは苦痛な誘いだった。

 この子は無邪気な笑顔で何を言ってくれるのかしら。

「ヤダ。マナ、あたしがそういうの苦手って知ってるでしょ?」

「えー……でもさ、こういうので友達増やせるしさ」

「別にいらないってば。今まで困ることもなかったし。入るならマナ一人で入ってよ」

「そんなぁ~……わたしを見捨てないでよー!」

 トレーを持って立ち上がるあたしを追いかけるようにして愛花も席を立つ。

 愛花が大きな声を出すものだからまた周囲の注目を集めて今っているようだった。


 あたしたちはただでさえ目立つ。

 そっくりな双子の姉妹が入学してきたという噂はあっという間に広がった。

 今時双子なんて珍しいものじゃない。そう思っていたけれどやっぱり目立つようだ。

 そんな二人が食堂で騒いでいるものだから注目を集めるのも無理がない。

 はあ。と、ため息がこぼれてしまう。


 あたしと愛花は同じ大学に入ったものの、学科が違う。

 彼女は絵を、あたしは文章(なかみ)を学ばなければならないから。

 愛花は午後からの授業があるらしいけれど、うちは休講だと聞いた。

 いつも一緒に帰っているからどちからが休講になったとしても、待ちぼうけを食らうだけであまり嬉しいものではない。


 テラスに出て待つのもいいのだけれど、同じように休講になった生徒と一緒になるのは少し気が進まない。

 結果、本来ならば授業がありいなくてはならなかったであろう教室に移動することにした。

 机に座り、読みかけの小説を開く。

 雨の日だけに現れる女の幽霊。足だけ見えて少し変な感じ。そんな女の幽霊の生前のことを調べているうちに男が幽霊に恋をしてしまう。

 そんな話だった。あまり恋愛モノは好まないのだけれど、どこか惹かれるものがあって自然と手にとってしまっていたのだ。


 ふと、鞄の中にあるレポートが目に入る。昨日休講になるとは思わず徹夜で仕上げたレポートだった。

 こんなことならこの時間に仕上げたって充分間に合ったじゃないか。

 そんな悪態を心の中でつきながら小説を読み進めていく。


 十五分も経たないうちに、静かな所為もあるのか昨日の徹夜が今頃響いてきたのか…(もちろん朝の眠気は酷かったけれど)

 だんだんと頭がぼーっとして身体がぽかぽかしてくる。

 愛花が来るまで仮眠をとるのもアリかもしれないな。と考え栞を挟みうつぶせになる。

 あまりこの体勢で寝るのは好きじゃないけれど少し眠っておかないと帰りのバスで眠ってしまうかもしれないし。


 そんなこんなを考えているうちにだんだんと呼吸がゆっくりとしたリズムになる。

 瞼が重くなり、すーっと眠りの中に落ちていく感じが心地よかった。

 目覚ましは……チャイムでいいや。そう思った後、完全に眠りへと落ちていった………






 雨が降っていた。それはとても静かな雨だった。

 誰もいない静かな部屋の中に佇むあたし。ううん、その人はいた。

 あたしを優しい眼差しで見つめていて、消え入りそうな声で呟く。

『君がたとえもう、この世に生きてなくても』

 あれ?どこかで聞いた台詞。

 どこだっけ……?

『たとえ、君を抱きしめることが出来なくても……俺は、君が好きなんだよ』

 そうだ。読んでいる小説の台詞。

 状況も、台詞も一緒なのに、一つだけ違うこと。

 この告白がそれは幽霊の女に向けられたものではなく、あたしに向けられているということだった。

『あたしは……』

 勝手に口が動く。

 ふと、カーテンの向こうに愛花の姿が見えた。

 あたしの考えとは別の、小説通りの答えを聞き愛花の目が大きく見開かれる。

 泣き出しそうな表情で姿を消す。そんな愛花を見て追いかけようと大声を張り上げる。

「違う! これは違うの!!!」

 けれど愛花には届かず、姿は見えなくなってしまった。

 どうしようかと戸惑っていると背後から愛花の泣き出しそうな声が聞こえた。

『アイちゃん、ひどいよ……意味わかんない』

『だから、違うの。信じて、ねえ……信じてよ!!!』

『今更信じるも何もないよ……うそつき。アイちゃんの、うそつき!!!』




「………っ!!!」

 目を覚ますとそこは教室の中。夏はまだ少し先だというのにグッショリと汗をかいていた。

 あんなに現実味が無いものだったというのに、夢なのか現実なのか区別をつけるのに少し時間がかかってしまった。

 どれくらい眠ってしまったのだろうか。もしかすると愛花を待たせているかもしれない。

 慌てて時間を確認しようと、鞄の中を探ろうとしてやっと気づく。

 一つ席を空けた隣に見知らぬ男性が座っていた。

「……あっ!!」

 その人の手元には眠る前まであたしが読んでいた小説。

 まさか……と、本を置いた場所に目をやると本があるはずもなく、男はこちらをゆっくりと見てニヤリと笑った。

「ごめん、借りてるよ」

「か、返してください!」

「そんな怒らなくてもいいじゃないか。勝手に借りた事は謝っただろ? はい、ありがとう」

 一応謝っているけれど対して反省している様子もなく少し呆れたような驚いたような様子で本を手渡される。

 あたしはそれをひったくるようにして受け取り、鞄に詰め込んだ。


「いやぁ、有名人の双子さんとまさかこんなところで会うとはねぇ」

「有名人って……からかってるんですか?」

「いや、そういう訳じゃないけど。君はー……お姉さんの方だよね?」

「どうしてそんなこと知ってるんですか?」

「君からは質問ばっかりだね。まあ、俺の中では落ち着きなく騒がしい子が妹さんで、落ち着きがあって静かな子がお姉さんって印象なんだ。……あ。君達を見かけたのは今日が初めてじゃなくて、新入生勧誘してるときにね。君をバタバタ追いかけてた妹さんを見て友達と話題にあがったんだ」

 少し苛立ちを感じているあたしとは対照的に、男は表情を崩さず、さくさくと質問に答えていく。

 それにまた、腹が立つ。けれど、少し言葉に違和感を感じる。

 この人は今、あたしのことを『落ち着きがあって静かな子』と言った。

 無愛想で、暗い奴なんかじゃなくて。

 本人の前だから? いや、今までだって目の前で言われた。直接言われた。

 男の人だから……? わかんない。


「今度はだんまりか。」

「う、ウルサイ。っていうか此処で何しているんですか? 見かけない方なので、同じ学科じゃないと思うんですけど。もし一緒でも、今日は休講ですけど」

「学科は、たぶん君とは同じかな? けど、学年が違うんだよ。俺は三年だしねぇ。それに俺がこの教室にいるのは駄目なのか? 次、ここで講義授業あるんだけど? 川村教授の」

 瞬間的に顔が熱くなる。沸騰しちゃったんじゃないかというくらいに。

 この見かけない男性は先輩で、しかも次の授業はここ。休講になった先生の授業ではなく別の、だ。

 それなのにあたしは……っ!!!

「す、すみません。勘違いです。同じ学年の方かと……先輩だとは思いませんでした」

「うっわー、トゲのある言い方だねぇ。まあ、一つや二つ違ったところでそんなに年齢差感じないよね。……って、一つかどうかも確かじゃないか。」

「あたってます。今年19になるので」

「そっか。ま、もう少しここにいてもいいと思うよ。次の授業までまだ15分もある」

 一刻も早くここを立ち去りたい。

 こんな風に話しかけられるのは慣れていないせいか調子が出ない。

 いつも話しかけられても敵意丸出しだったのに、それなのに普通に話しかけられることがこんなにも緊張するとは思いもしなかった。

「いえ、もう行きます。妹と待ち合わせてるので」

「そっか、残念だ。また機会があったら話そう。あ、さっきの小説なかなか面白い設定だな。今度探してみるよ」

「じゃあ、お先に失礼します」

 鞄を持ち立ち上がり、逃げるように扉へと向かう。

 もうこんなところにいたくない! そういって脳が警報を鳴らしている。


「あ、柏原さん。」

 扉に手をかけた時、名前を呼ばれ驚き振り返る。どうして? それを口にする前にニヤリと笑われた。

「そんな顔するなよ。名前は悪いけど鞄の中のレポートで見えたんだ。覗いたんじゃないよ?」

「……最低」

「ドーモ。それよりさ、寝言。気をつけた方がいいよ?結構デカイ声だったし」

 赤面再来。これ以上ここにいるのは危険だ。

 脳だけじゃなく身体までもが察したのか勝手に教室を飛び出す。

 あたしを追うように先輩が何か言っていたけれど(たぶんからかいながら謝っていたんだと思う)そんなこと構ってられなかった。

 ただ、あたしの耳に一つだけ届いたもの。それは…


「アハハハー!面白いなぁ。俺、佐藤だからなー!忘れないでねー!」


 という、あの腹が立つ男の名前だった……



なんか変になってしまった、かも…

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