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愛の花、その香り―  作者: 深崎 香菜
第一部 高校生
10/34

08 ~茜色の世界での告白~

※登場人物に「折原 恵美」を追加しました。

「柏原」

 女の子にしては少し低めのトーン。けれどまっすぐに通る綺麗な声。振り返ると折原さんが笑顔で手を振っていた。

「昼は? 食った?」

「ん、さっき食べたところ」

「そっか。あたしまだなんだよー。ちょっと付き合ってよ」

「うん、いいよ」

 そう言って腕時計に目をやると昼休みは残り15分しかない。いつもはギリギリまで愛香ちゃんと一緒なのだけど、愛香ちゃんのクラスが次移動教室だということだから早めに戻ってきたのだ。

「大丈夫だって。あたし、5分あれば余裕だから」

「か、身体に悪いよ?」

「いいからさ! ほら、行こう」

 そう言ってわたしの手を引く折原さんに頷き返し一緒に食堂へと向かう。

 さすがに残り15分もないということで、食堂の中は寂しいものだ。お喋りをしている生徒なんかが残っているくらいで、今から食べようなんて人はきっと折原さんくらいだろう。

 おばさんたちが片づけをしだしているのも気にせず、折原さんは食券を出す。少し不満そうな顔をされながらも注文した唐揚げ定食が出された。

「ここの唐揚げはすっごく美味しいんだ。他の定食のメニューは『これ絶対冷凍食品だろ』って感じなんだけどさ、この唐揚げだけは手作り!って感じだ。一個食べてみな? 絶対美味しいって! これが冷凍食品なら何処のメーカーか教えてくれって話!」

 そう言ってお箸で唐揚げを掴んでこちらに差し出す。一口で食べるには少し大きいと感じたけれどそのまま口に入れた。やはりもう片付けに入っていたからだろう。少し冷めていたけれどとても美味しい。まるでテレビで聞くようなサクっとした音がして食べていて気持ちが良い。

「どう?」

「ん、美味しい!」

「だろ~? 今度揚げたて奢ってあげるよ。ちゃんとした時間に来よう」

「うん。楽しみにしてるね!」

 折原さんはにこりと笑い、時計を確認すると小さく「やば」と呟きご飯をかきこむ。

 そんなに頬張ると喉をつかえるよ。そう言おうとした瞬間、胸を叩きながらお茶を流し込んでいた。

 その姿を見て失礼だと分かっているのに笑ってしまう。折原さんは恥ずかしそうに頭を掻き、「普段はそんなことないんだ」と言い訳していた。

 結局、折原さんが食べ終わったのは予鈴が鳴ってからだった。

 食器を返し、急いで食堂を後にする。わたしたちが最後だったからだろう。出るとすぐに戸締りをされてしまった。

「感じ悪いの。美味しいけどあの態度はないよな~?」

「け、けど。今日はわたしたちも結構迷惑だったし……」

「なら昼休み終了十五分前は締め切れば良いじゃんってハナシ。ラストオーダーとか書かれてないんだから遠慮することないんだって」

 そんなことを言いながらクスクス笑う。楽しんでいる場合じゃないというのに、楽しませてくれるのが折原さんだ。

 いつもは静かで、すっごくクールで、教室の隅の席で本を読んでいる。そんな人なのに。わたしだけが知っている一面って感じがしてなんだか嬉しいものがある。


 教室についたのは本鈴がなる2分前で、ギリギリだったねと笑いあった。

 勢い良く扉を開けて教室に飛び込んだものだからクラス中の注目を浴びてしまい、クスクスと笑っていると遠くで真美が呆れたように溜息を吐くのが見えた。

「もー。今度からギリギリの食堂は禁止だね」

「ごめんって」

「でも、食堂行ったのって実は初めてだったの。なんかいっぱい人が居て行き辛くて。だからちょっとわくわくした、かな?」

「まじで? じゃ、卒業までにほんとに唐揚げ食べに行こうな」

「うん。行こうね!」

 そう言って各自席に着いた所でタイミングよく先生が入ってくる。授業が始まってすぐにスカートのポケットの中で携帯が震えた。

 こんなタイミングで送ってくるのはお母さんだろうか? 帰りにお使いを頼まれるのかもしれない。面倒くさいなぁと思いながらもこっそりと机の下で携帯を開く。

 送り主はお母さんではなく、ついさっきまで一緒にいた折原さんだった。折原さんの文章は普段話している時の雰囲気はあまり感じさせず、丁寧だ。そのギャップが好きだった。

『今日の放課後は何か用事はありますか?』

 視線を折原さんの席に向けると、逸らされてしまう。確かに、ここで目を合わせてしまっては先生にバレてしまうだけだ。

 用事は特に無い。いつものように、愛香ちゃんと一緒に下校するくらいだ。別に、絶対そうしなくてはいけないという決まりはないし、たまにはお友達と一緒に過ごすのもいいだろう。

『ううん、特に無いよ』

 そう返信してまもなく、折原さんからの着信を知らせる。授業中にこうして秘密の連絡を取り合うのはドキドキして、わくわくする。

『じゃあ、申し訳ないけれど、少し時間を貰えないかな?』

 お買い物か何かだろうか? 折原さんと放課後遊びに行くなんてした事がないものだから、わたしの心は踊リ出す。

『うん、わかった。じゃあ放課後に』

 それから折原さんからの返信はなかったけれど、一度だけ目が合ったときに優しく笑ってくれた。

 何処に出かけよう。駅前のショッピングモールで折原さんに似合う洋服を見たりするのも楽しいかもしれない。

 けれど、こうして誘ってくれたからには折原さんに行きたいところがあるのだろうか。それなら、それに付き合うのも悪くない。

 放課後が楽しみにしながら、私は愛香ちゃんにメールを送る。もしかしたら機嫌を損ねてしまうだろうかと心配したけれど、愛香ちゃんからの反応は悪くはなかった。

 どうやら、愛香ちゃんも今日は放課後用事があるらしい。それならこちらも気兼ねなく遊びにいけるなぁと考えながら、わたしは午後の授業を乗り切るのだった。



 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、折原さんの席に行こうとすると、彼女はさっさと教室を出て行ってしまった。

 トイレにでも行くのだろうかと困っていると、折原さんからメールが入る。

『ごめん、先に裏庭に行っていてほしい』

 学校の裏庭は比較的生徒が寄り付く場所ではない。愛香ちゃんが好んで過ごしているようだけれど、わたしはあまり好きにはなれなかった。

 そんな場所でどうして待ち合わせるのだろうと疑問に思いながらも、真美に挨拶をして教室を出る。

 愛香ちゃんにも一声かけて行こうとしたけれど、愛香ちゃんの所の授業が少し長引いているようで、教室の中は下校できる雰囲気ではなかった。


 先に裏庭に着き、いつも寂しくポツンと置かれているベンチに腰掛ける。

 このベンチは愛香ちゃん専用、というより愛香ちゃんの特等席だ。専用とわたし達が言っているだけで、もちろん学校の備品なのだけれど。

 こうして愛香ちゃんと恋人同士になる前、愛香ちゃんの姿が見えない時はここに迎えに来れば必ず会えた。愛香ちゃんはいつでも独りになれる最高の場所だと、笑っていたっけ。


「あ、柏原……、ごめん、お待たせ」

 間もなくして、グラウンドの方から折原さんが歩いてきた。

 わたしはすぐに駆け寄り、どうしたのかと聞くと、彼女は辺りに人が居ないのを確認すると手招きをした。

「ここ、結構気味悪い場所だったのな。こっち行こう。グラウンド側」

 そう言って少しだけ校舎の方へと移動する。

 日が落ちるのが早くなり、そこはすでに夕日で茜色の世界だった。絵になっていたために思わず歓声をあげてしまう。

「おお、意外なスポットだな」

「うんうん! へぇ。なんかドラマとかでよくあるシーンみたいだよね!」

「だなー。ごめん、ここだと立ち話になるけど……いいか?」

「うん、大丈夫。さっきのところはわたしもあまり好きではないの」

「そっか。じゃあ」

 そう言って校舎の壁にもたれかかった。わたしも同じようにして並ぶ。折原さんは、わたしが隣に並んだのを確認すると、他愛も無い話をしだした。

 大学のこと、将来の夢、初恋の話や今日の唐揚げのこと。話しても話しても話題は尽きず、何度も笑った。

「あのさ、柏原には今好きな人っているか?」

「え?……うん」

 一瞬どう答えればいいか迷ったけれどわたしは首を縦に振る。相手の名前さえ言わなければいい。

 よく考えればわたしも彼女と同じ同性愛者になるのだ。彼女はそれをわたしに教えてくれたのだから、わたしもいうべきなのだろうか?

 けど、わたしの場合もっと複雑で、相手は自分の双子の姉なのだ。

「あ、この話は嫌か?」

「え? ……ううん、大丈夫」

「無理はしないでな? その、片思いなのか?」

「え、どうして?」

「さっき、辛そうな顔したから」

「いや、両思い、かな」

「って事は、柏原って彼氏いたのか」

 頷きそうになったが愛香ちゃんは「彼氏」ではない。「彼女」なんだろうけど、それを言うとややこしくなりそうだ。

「うん、実はねまだ付き合ったばかりなんだけれど、恋人がいるの」

 ナイスわたし!とか思いながら微笑みかける。すると折原さんが困ったような顔をして俯いてしまった。

「あの、さ。前にあたしが言ったの、覚えてるか? あたしが、レズって話。」

「え、あ……うん。覚えてる」

「あたしな、好きな人がいるんだ」

「え? うちの学校の人?」

「ああ、うちのクラスのやつ」

「えぇ!? 誰かな。全然気づかなかった」

 誰だろう。折原さんが仲良くしている人は思いつかない。と、言っても愛香ちゃんのように全てを拒んでいるわけじゃないから、クラスメイトと話をする機会は多い。

「あたしはな、その子との今の関係が大好きなんだ。初めてあたしに楽しさを教えてくれた。すっごく可愛らしいんだ。その子は、あたしのことを軽蔑しなかった。けど、この話をするときっとあたしと一緒にいてくれないと思うんだ」

「そんな……」

「だから黙っておきたかった。けど、な。けど、その子は今年の春からあたしと同じ場所には、いなくなる」

「え?」

 胸の辺りがザワつく。この先に彼女が言おうとしている言葉が、なんとなくわかってしまった。

「外部受験、するんだとさ。結構ショックだった。あたしはまた、一人になるのか? って考えたさ。けど、そうじゃないんだろうなって。この子はきっと同じ場所にいなくてもあたしを一人にしないんだろうなって。だからな、あたしは言うことにしたんだ。あたしの、気持ちを。それを聞いて、軽蔑されるなら仕方ない。けど、あたしはその子とどうにかなりたいわけじゃないんだ。あたしの、この気持ちを伝えたいって言う自己満足なんだよ。だから、聞いても忘れていいから……今まで通り、一緒にいたい」


 わたしの考えが当たっているのなら……彼女はこれからある言葉を口にする。そして、その相手は……

 この学校で大学を外部受験するのは数少ない。わたしたちの他にも数人いたけれど、折原さんの話からするとその子は近くにいる存在だ。

 こんなこと言うと失礼だけど、この学校内に折原さんと他に仲が良い人を見たことが無いし、折原さん自身もいないって言っていたし。

 わたしがぱにくっている間に折原さんはさっきよりも真剣な顔になり、そして告げた。


「あたしは……柏原が好きなんだ。柏原、愛花が、好きだ」


 目を見開き、息を呑む。

 だから折原さんはわたしに教えてくれたのだ。自分が同性愛者だと。

 それはなぜ?折原さんが言うように、軽蔑を避けるためだろうか? 最初に言っておけば傷はそこまで深くはないだろう。ううん、そんな事で、彼女がわたしに打ち明けるだろうか?


 わたしだって彼女と同じなんだろう。それにもっとたちが悪い。

 けど、やっぱりわたしが好きなのは愛香ちゃんで、折原さんは真美なんかと一緒で友達で……愛香ちゃんに感じたような切ない気持ちや苦しさ、そして愛しさなんてものは感じない。

「別に、返事がほしいわけじゃないんだ。あたしは、ちゃんと伝えておきたかったんだ。その、重く考えないでほしい。あたしは、これからも柏原とは友達でいいんだ。だから……」

「そんなの、無理だよ……」

 声が震える。涙が溢れる。そして、彼女の顔が……歪む。

「だって、そんなの、わたし、そんな酷い事、できない」

「酷くはないだろう?」

「酷いでしょう? あなたの気持ちを知っているのに、友達でなんて、今まで通りなんて……」

 折原さんは悲しそうな表情をして、わたしを見つめる。わたしの胸がぎゅうっと締め付けられてしまう。

「わたしは、きっと気にしてしまう。折原さんと一緒にいて、やっぱり気になっちゃう」

 彼女の気持ちは恋愛としての好き。だけどわたしからすれば友情の好き。それが交差するだけで交わらない。

 彼女の想いは何処に行くの? 消さないといけないの? 隠さないといけないの? でも、そうしなくちゃ今までどおりには戻れない。だからそれしか選択がないということ。そんなの、悲しい。



「……ップ」


 驚きのあまり、口をポカンとあける。だって、折原さんが笑っていたから。それも、自嘲的な笑いではなくいつもと変わらない、笑顔で。

「え? えぇ?!」

 冗談だよ、と柏原をからかったんだと言われてしまうのだろうか。そうだとすれば酷い! そう思って折原さんを見てみると、今度は少し、切なげな顔をして笑っていた。

「やっぱり、柏原はいいな。」

 そう言って、わたしの頭を優しく撫でる。ぽん、ぽんと撫でるリズムが好きだった。

「軽蔑は、しないんだな。前話したときもそうだったけどさ。普通今までこうやって仲良くしていたのが下心アリアリで、しかも恋愛対象でした~なんていわれれば気持ち悪いとか思われそうなのに」

「そんなこと、思うわけ無いじゃない!」

「うん。思わないんだなって。こうやってあたしのために泣いてくれるんだって。ほんと、オマエは良い子だよ。そんな柏原をあたしは好きになったんだ」

「折原……さん?」

 冗談ではなかったと、わかる。彼女の気持ちは真剣で、わたしに対して抱いていてくれた気持ちが凄く大きな物だったという事がひしひしと伝わってきた。

「本当に、気にしないでほしい。こんな風に告白したあたしが言うセリフじゃないんだけどさ。だけどあたしは今までと同じ関係でいい。恋人同士になったからってあたしたちは同性。肩身の狭い思いをしなくちゃならないだろ? だったら、今まで通り友達として一緒に笑っていたいんだ。確かに、柏原に彼氏がいるって知って多少ショックは受けた。けど、それでいいんだ。これは無理してるとかじゃない。そうしたいんだ。」

 そう笑いかけ、わたしの再び頭を撫でる。どう答えれば良いのかわからず、酸素が足りない魚のように口をパクパクさせるだけ。それを見て折原さんは笑っていた。

「あの、折原さ──」

「恵美」

「え?」

 折原さんはわたしの唇に、人差し指を当てるとニヤリと笑う。そして、少し恥ずかしそうにしながら、もう一度自分の名前を口にした。

恵美(めぐみ)って呼んでよ。ま、恥ずかしいのには変わりはないんだけどな。柏原が許してくれるなら、あたしもこれから柏原のこと愛花って呼んでいいか?」

「うん。嬉しい」

 彼女の笑顔にわたしも答える。想いに応えられなかったのだから、一番の友達になってもらいたいし、なりたい。だから強く、頷く。


「あ。そだ……最後にワガママ、いいかな?」

「ワガママ?」

「うん、そうだなぁ……目、瞑って」

「え?」

 突然手で目を覆われたので慌てて瞑る。折原さんに瞑ったと言うとそっと手が離されたのがわかった。

「~~~?!」

 そして、その直後、額に柔らかい感触。軽く触れるような、キス。

 驚いたわたしが目を開けると同時に折原さんが離れる。そしてらしくない笑顔とペロっと舌を出して悪戯に笑う。

「これで、おしまい。これが最初で、最後にするから。ごめんな」

「え……あ……」

「よし! 帰るか! 今日は騒がしちゃったってことで何か奢るよ」

「ふ、ふえぇ……!?」

 これでいいのかどうかはわからない。彼女の気持ちを知ったまま、傍にいるだなんて酷な事だとわかっている。

 けれど、彼女がそれを望んでくれているのならば、わたしは彼女の本当の願いに応えられなかった分、彼女の二番目の願いには応えようと思う。

 そう思って、差し出された手を強く、強く握った。

ふぃー。

これで半分くらいかな。

頭の中で描いてる構想に余計なものが入らなければですがww


ということで、「で、何?ただの百合小説?」な展開はここいらで終わりかな?

いや、終わらないけど(ぇ

後数話で高校編は終了だと思いますので、もう少しお付き合いくださいね^^


いや、高校の次は大学ですが(ぁ

まだまだお付き合いください(は

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