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第6話 スタコラサッサのサーカス団③

「ねえ、セディス。これからどうするの?」

 ラブラミントはフォークを鳴らしながら、セディスを伺った。「んー?」とセディスは肘をついて窓を見詰めている。

 見つけたレストランで、ようやくディナーにありついて、ラブラミントは一切れの肉を口に運ぶ。リンゴのようなほのかな酸味がとても美味しい。


「ん、おいし。セディス、食べないの? お腹すくわよ」

「きみこそよく食べられるな。ここがどこだか分からないし、食べ物だってそれはすっごくまずくて、体に悪くて、何の肉だか分からないぞ」


 ガシャーン……ラブラミントは思わずフォークとナイフを落としたが、山のような影にはっと振り向いた。セディスよりも大きな男は出刃包丁を持って、ぬっとセディスに詰め寄っている。パンパンではあるが、コックのコスチュームに、禿げかけた頭に帽子を載せている。


 コックの機嫌を損ねさせたのだ。


「おい、姉ちゃん、俺っちのメニューがなんだって?」

「とっても美味しいお肉ですわねって」


 やばい!と思ったのか、セディスはホホホと笑って「ねえ?」と流し目をして見せた。コックは「にぃー」と笑って、「そうだろう、そうだろう」と大きく頷いた。

 

「俺の自慢の料理だ! 誰も食べに来ないけどな……」


 見ればお店はガランとしている。「こんなに美味しいのに」とラブラミントは一切れを口に含んだ。


「英国の食べ物はまずいのに、こんなに美味しい御店出せるのは才能よね」

「えーこく? 何言ってんだ。ここは「サーカス・ファンタジア」の中央都市だぞ。えーこく……?」

「イングランドと言えばわかる?」


 黙って聞いていたセディスが口を挟む。


「お、おう!」とコックは野太い指をまげて、ヒゲを擦った。


「イングランドなら、この世界の端っこのだーれも寄り付かない魔境イングランド遺跡だろう。ある日突然現れた腐った大陸で、誰ももう話題にはしない。イングランドに行くんかい」

「僕の屋敷があるからな」


 セディスはつい、というと、「さっきのサーカス団は?」と目を外に向けた。


 やんわりとだか、陽が昇ってきている。コックは答えた。


「夜が明けるから、帰ったんだろ。姉ちゃん、これ。焼きたてのパンだ。見たところ、旅人だろ。足しにやんな。あと、このワインも」

「おお、これは有り難いな。ラブラミント、戴こう」


 さっきは「食べ物だってそれはすっごくまずくて、体に悪くて、何の肉だか分からない」と言っていたセディスだが、今度は嬉しそうに受け取って「僕はパンが好きなんだよ」とようやくつまみ出し、あっというまに平らげてしまった。


「なによ、お腹空いてたんじゃない」

「そりゃそうだよ。……ねえ、ここの世界の地図、ない?」


 気を良くしたコックに地図と、コンパス、それに追加のパンと、籠に入ったお菓子を戴いたところで、セディスは店を後にした。


「なんか、性悪魔女みたい」

「そういうなよ。これも処世術だ。しかし、いい胸してるな、あの魔女は」

 

 陽が完全に上ると、渡って来たレンガの橋はすっかり消えた。


「へえ、太陽で変わるのかな。お、あった。サーカス団」

 赤と白の大きなテントに、金の鎖とライトアップ用のライトをまき散らした見るからにお祭りのサーカス団の目の前には、「団長急募!」とある。その横にはたくさんのチラシが置き晒されているのだった。


「団長がいないサーカス団なんて、何もできないわよね」

「まあね。サーカスと言えば、団長だからな。さっきのビラ配りもあれじゃ、だめだ。ビラと言うのは……」


 ぽわ。と胸元の魔法陣が光った。


「こうしなきゃな!」


 ビラの乱舞。トランプのようにビラが飛び回って輪を作る。すっかり魔法のコツを掴んでしまったらしい。魔法。お祭り大好きな馬鹿領主に持たせたら……


「よっと!」


 今度は薔薇になった。そのうち女性の下着になるかも知れない。魔法陣を奪われた魔女が気の毒だ。


「団長募集を見て来たんですが~」

 声を張り上げたセディスを建物の奥に引き込んだ。

「いきなりは追い出されるわよ。あんた、なんでそう考えないの!」

「そ、そっか……」

「それに、この世界は夜と昼が違う様子。みんな寝てるのかも」


「うるさいわねえ」と……テントからネグリジェ姿の女性が出て来た。セディスがぴくんと反応する。女性は目を綻ばせてセディスを見た。セディスはせきばらいをして目を背けている。


 浮気癖の兆候だ。


「あら、獣人とは珍しい。可愛いおっきなお耳~」


 耳?


 セディスは首を傾げた。何かがラブラミントの頬を叩く。ん?と思ったら長い尻尾だった。セディスは昔から猫が大嫌いである。昼寝していた時にぎゅっぎゅっぎゅっぎゅと四本足で踏まれて、しかも寝ていたところで口に足が入ったらしい。


「あの、魔女があああああああ!」


 魔法陣が強く光った。多分魔女の腹いせだった。


(あの時、変な光り方したのよね……そして、イングランドは遺跡になってる。ここは未来じゃないんだわ……もしかしたら、他の皆も来ているかもしれない)

 

 

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