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第5話 スタコラサッサのサーカス団②

 夜が深まる事に、街中は一艘賑やかになった。ラブラミントの手を引いて、セディスは町中を歩くのだが、チラチラとした視線によく晒されること。セディスの美貌かと思いきや、どうやら奇抜なモーニングの衣装が仮装しているサーカスのように見えるのだろう。子供がぞろぞろとついて来た。

 

「お姉ちゃん、サーカスのひと?」

「もしかして、新しい団長さん?」


 セディスが足を止めた。また何を言い出すんだとラブラミントは身構えたが、セディスはにこ……と微笑んだだけ。こういうところは貴族のずる賢いところを上手く出して来る。(いや、別に)や(違うけど)など、貴族は基本否定をしない。


「黙って微笑め!」という教育を受けるのだ。声を上げたり、怒ったりの感情を出してはならない、というのは貴族の鉄則である。


「わあ、じゃあ、またサーカス見られるんだね? 嬉しいね」

「嬉しいね」


 色違いのドレスを纏った少女二人は、さも嬉しそうに微笑んで見せる。セディスは「にこ」と笑っていたが、「そうだよ」と優し気に声音を発した。

 セディスがモテる理由は、この受け答えの優しさだと貴婦人たちは言う。「領主さま、やっさしー!」と言わせる何か。

 ……そんなこと、思った覚えもない。


「僕は魔法が使えるからね」


 ……聞いたこともない。


「ちょっと、セディス」と止めるラブラミントには構わず、セディスは「いいかい」とひとさし指を夜空に向けて見せる。


「シューティング・スター!」


 ……単なる流れ星だった。(ほんっと、ペテン師変わらず)とラブラミントは小さく息を吐いたが、少女二人には覿面の魔法だったらしい。

 それなら、その胸に張り付いた魔法陣のほうがよほど魔法らしい。


 魔法。


(私と、魔女の魔法が反発し合ったのよね……あれは闇魔法……黒魔法とも言えるかも知れない)


 闇に強いハーノヴァーの血と、魔女の血がぶつかりあったのだろうか?

 

***


 子供たちと別れた。セディスは「流れなかったらどうしようとひやひやしたよ」と肩を竦めて「やはり妙だな」と呟いた。「さきほどから、本当に魔法が出来そうな気がしている」の言葉に「気のせいでしょ」と返す。


「いや、なんとなくだけど……ラブラミント、試してみたい。何かあるか?」

「じゃあ、あそこの喧嘩しているご夫婦を仲直りさせれば?」


 ガーデンライトの下で言い合いしている夫婦を指して、いわばやけ気味にラブラミントは言い放った。「よっしゃ」とセディスは目を閉じた。こうしてみていると、女性のセディスのほうが魅力的な気がする。男性の時の欲はご自分の肉体で癒されるのだろうか。


「ラブラミント」


 ふん、と腕組みをして背中を向けたが、セディスの声にラブラミントは振り返った。

 

 見れば喧嘩していた夫婦はランランランとスキップをするように去って行ったではないか。空中に♬が舞っていそうな勢いで。


「あんた、何したの?」

「いや、心で、ダンスステップで皆が幸せと呟いただけだけど……そういや、こいつが光った気がする」

「魔女の魔法陣ね……なら、レストランでも出してよ。お腹空いた」

「いや、もうサーカス団が近そうだ。変な街だな。宵っ張りなのか? いつ寝てるんだろう」

「貴族が喜びそうな話よね」


 貴族は夜遊びが大好きである。夜の薔薇を摘んで「マドモアゼル」などと格好つけるのが大好きなのである。実際にセディスもとんでもない昼夜逆転で、14:00に「おはよう、モーニング」が普通だ。領主がそれだから、自然と屋敷もそのペースになる。カモミール領にある城「リルス城」は英国はエディンバラのうちの一つ。ヴァンパイヤ伝説もある。要は、変な貴族で、両親をなくしてからは、このていたらく。


「ここは案外住みやすいかも知れない」


 目の前に迫った「スタコラサッサのサーカス団」の看板を見つつ、セディスは本気で呟き、ラブラミントは空腹を抱えて、息を吐いたのだった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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